ヒロインは美少女王子を手に入れたい
※「悪役令嬢は悪役令嬢となる婚約を受け入れる」以降3部作のヒロイン視点です。まずはこちらを見てからの閲覧をお願いします。
「最期に言い残すことはあるか?」
どうしてっ
どうしてこうなった!
「あの人は私のモノよ! 私は次期王妃なの! あんた達、こんなことしてただで済むと思ってるの!? 私が王妃になったら、こんなことした奴ら全員処刑してやるっ! ああ、フレたん、私がすぐにあのロボ女から救ってあげるからね」
そうだ、私はヒロインなんだ。
だから、あのロボ女から救ってあげないと。
「もう良い。執行しろ」
なのに、どうして!
どうしてフレたんの横にあのロボ女が居て、フレたんは私を冷たい目で見るの!?
どうしてフレたんは私を選ばないの!?
はっ、中の人が違うから?
そうだ、きっとそうだ!
返せ、私のフレたんを返せっ!
私はフレたんと幸せになるんだっ!
またこんな最期だなんて私は認めない!
フレ……たん………………
視界がブレ、ブラックアウトする前に目に入ったのは、あのロボ女を優しい顔をして抱きしめるフレたんだった。
私が前世を思い出したのは、モルメク家に引き取られることになった時だ。
アニエス・モルメクという名前になってようやくここが乙女ゲームの世界で、私はヒロインだということに気付いた。
そのことに気付いた時の嬉しさは分かってもらえるだろうか。
大好きな世界に転生し、しかも自分が主人公なのだ。
愛してやまなかったあのキャラと両想いになれるのだ。
私はなんて幸せ者なんだろうと、本気でここは天国だとそう思った。
だけど、モルメク家に引き取られて、本当に乙女ゲームだという確信が欲しくて色々調べていると、私のフレたんと悪役令嬢であるロボ女の仲が非常に良いという信じられない噂を聞いた。
いや、フレたんは紳士だ。
ゲームでもフレたんはあんなロボ女に婚約者としてきちんと仲良くしているとあったじゃないか。
そうだ、何も気にする必要はない。
落ち着け、大丈夫。最終的にフレたんは私のモノになるんだ。精々あのロボ女はフレたんの仮初の愛をお零れして貰っていればいい。
そう、思っていたのに。
お姫様抱っこ!? 膝乗せ!? 顔中にキス!?
聞く噂全てが信じられないくらいにいちゃいちゃしているという内容ばかりだった。
例え仮初でも羨ましすぎるんですけど?
あのロボ女に勿体なさすぎるっ!
いや、もしかしてフレたんかロボ女のどちらかが私みたいにゲームを知っている転生者という可能性はないだろうか。
それならばゲームと違って仲が良い説明は付く。
もしそうなら……私が現れてもフレたんの好感度を上げられない可能性がある……?
そんな可能性、クソくらえだ。
どうする?
どうすればいい?
考えろ。
考えるんだ。
折角フレたんとラブラブになれるチャンスなんだ。
絶対失敗するわけにいかない。
またロボ女に負けるとか、有り得ない。
それから私はどうなっても良いように、ゲームの知識を使って探し物をした。
あの2人のどちらが転生者でもこんな裏設定までは知らないはずだ。
あの乙女ゲームの開発者の一人に無駄に設定を練ることで一部で有名な人がいた。その人のブログに公式には使われていないけど、裏ではこんな設定があるよと暴露された設定がある。
本当にあの乙女ゲームにハマって、色々と情報を集めまくっていた私だったから知っているのだ。普通にプレイしただけの人達が知っているわけがない。
勿論、公式には使われていない設定だ。
実際にあるかなんてわからなかった。
それでも可能性があるなら探してみるべきだ。
そうして、私は課金したら使える好感度上昇アイテムに使われている薬物等を探した。
クッキーに練りこまれた薬草、ハンカチに組み込まれた禁忌魔法陣を編む為の糸、お茶に含まれた薬等々、思い出せる限りのものを探しまくった。
勿論、モルメク家の人には気付かれないよう、勉強熱心な子だと思わせ、自由時間を確保した。
そのお陰で本当に勉強に時間を割く必要が出て、時間は取られたけど仕方ない。
どちらにしろ勉強はさせられたのだから、必要経費というものだろう。
私はフレたんに出会う為に学園に行く必要があるのだから。
そうして、学園に入学する頃には目星は付けられていた。
後は実際に実験しなければいけない。
フレたんに変なものを使うわけにいかないのだから。
だけど、それよりもまずはフレたんとの出逢いイベントだ!
きちんとこなさなければ!
ヒロインらしく、無邪気で明るく、貴族社会に染まっていない無垢な庶民として、フレたんに覚えて貰わないと!
何事も最初が肝心だ。絶対失敗しないように。
ああ、小道具も用意しておかないと!
学園に入学したその日、私は急いで裏庭に回り、用意した小道具と共に茂みの裏に座ってフレたんが通りかかるのを待っていた。
フレたん。
まだまだ美少女にしか見えないフレたん。
あんなロボ女に騙されていちゃいちゃさせられているフレたん。
ほら、ここに私がいるよ。
フレたんの大好きな私だよ。
さあ、おいで?
ドキドキソワソワしながら待っていると、ついにその時がやってきた。
フレたんだ。
漆黒の滑らかなストレートの長い髪を風に靡かせ、深く澄んだ青い瞳と何も付けていなくとも赤く彩られた小さな唇。華奢な体に見えるけど実は超鍛えられているし、印象程身長も実は低くはない。
ああ、思い描いていた通りのフレたんだ。
これからどんどん身長が伸びて、卒業する頃には超イケメンになるのよね。今の美少女なフレたんも好きだけど、イケメンなフレたんも見たいわ。
その為にも出逢いイベントだ。
よし、猫ちゃん。GO!
尻尾の根本を思いっきり握ってやると、「に゛ゃああああ」と鳴いて向かせた方、つまりフレたんの方に走り出した。
成功だ。
「待って、猫ちゃんっ!」
すかさず追いかける。
そして茂みを出たところに当然の如く居たフレたんに驚いた振りをして、目を閉じる。
ふわっと包まれる感覚と、いい匂いに包まれる。
が、すぐに離れていった。
くっ、出逢いイベント中じゃなきゃ、もっと堪能できるようにしたのにっ。
ダメダメ。
今はちゃんと出逢いイベントをこなさないと!
一時の欲に流されていたら、あのロボ女からフレたんを取り戻せないわ!
「大丈夫かい?」
ああ……声まで最高。
耳が蕩けそう。
この声で「アニー、愛してるよ」とか囁かれたら、あああっ、堪んないっ!
「あ……も、申し訳ございませんっ」
急いで頭を下げる。
私はヒロインだ。
ヒロインは貴族社会に慣れなくて、誰にも見つからないよう一人で居たところだったのに、早速失敗しそうになって恐怖を感じているところだ。
だから恐怖に震え、反省して、こうして頭を下げれば、優しい王子様は「構わないさ、素敵なご令嬢に触れることが出来て光栄だよ」と言ってくれるのだ。
「気を付けると良い。ここは身分を翳すことの出来ない学園ではあるが、同時に社会の縮図でもある。平民では謝れば許されることでも貴族社会では攻撃の元となる。マナーは自分の身を守る為に必要な武装だ。早々に身に着けることをおススメするよ、
アニエス・モルメク嬢」
……………………は?
あれ?
今、フレたんなんて言った?
こんなの、出逢いイベントになかった。
あれ?
じゃあ、転生者はロボ女じゃなくて、フレたん!?
「あ、え……わ、私のことをご存じなのですか?」
どうしよう。
このパターンは考えていなかった。
「私が誰か知らないのかな?」
ヤバい。
ここで目を付けられるわけにはいかない。
私は庶民派ヒロイン。がっついたらあのロボ女と同じになる!
「い、いえっ、お初にお目にかかります。アニエス・モルメクでございます、フレデリック第三王子殿下」
「ふむ。やはりマナー講座をきちんと受けることをおススメするよ。必要なら私の方から話を通しておこう」
「あ、ありがとうございます、フレデリック殿下」
「ああ、では私は失礼する」
……作戦を練り直さなければ。
まず、ゲーム通りに好感度を上げるイベントは起こらないと見ていいだろう。
フレたんは既にロボ女の毒牙にやられてしまっているのだから。
だから、別の方法を取らないといけない。
その為にもあのロボ女が邪魔だ。
アレは排さなければ。
前世のようにロボ女なんて殺してしまわないと。
だけどフレたんに知られたら、前世のように嫌われてしまう。
私を置いて、居なくなってしまう。
絶対にフレたんに知られるわけにはいかない。
フレたんに知られないように、ロボ女を殺し、悲しみにくれるフレたんの心を私が癒してあげるんだ。
そうすればフレたんは私のモノだ。
その為にもスケープゴートが必要だ。
私の代わりにロボ女を殺してくれる人。
私の代わりにロボ女を殺した責任を取ってくれる人。
失敗は許されない。
一度失敗したら、フレたんは徹底的に対策を取ってしまう。
フレたんは王子様として優秀なんだ。絶対にする。
そうだ。
なら、一度でなくすればいいんだ。
対策を取る時間を与えずに殺しまくれば良いんだ。
よし、戦争をしよう。
フレたんも殺されかければ、フレたんは王子様だから匿われる。
フレたんはああ見えて強いから絶対殺されないし、ロボ女と離すことが出来る。
そうしたらロボ女を殺す機会なんて幾らでも作れる。
そうだ。
手駒を作ろう。
沢山作って、沢山送り込もう。
誰か一人成功すればそれで良いんだ。
責任を取ってくれる人は誰にしよう。
フレたんに敵対して不自然ではない人。
そして私が操れる人。
……よし、第一王子にしよう。
第一王子ならフレたんと既に敵対している。
何より、第一王子は隠しキャラだった。
ゲームという情報を私は持っているんだ。
こんな簡単な操り人形はいない。
私と甘い夢が見れるんだ。
第一王子にとっても悪い話ではないだろう。
それから私は精力的に動きまくった。
勿論学園生活はきちんと送った。
フレたんといちゃラブ出来ないのは悔しいけど、まだ私は普通の女学生で居なければならないのだ。
反乱が起きた時に万が一にも私が関与していることを悟られるわけにはいかないのだから。
ただまあ、実験も兼ねて私の都合の良い環境を作り上げた。
操り人形は居れば居る程、楽だからね。
積極的に作りまくった。
でも入学して半年位経つと、フレたんの情報が欲しくなった。
実際、反乱の計画を立てる際にはどうしてもフレたんを確実に軟禁して貰わないといけないのだ。
でないとフレたんは優秀すぎて、正直邪魔だ。
優秀なフレたんは素敵だけど、反乱の時は大人しくしていて欲しい。
ついでにあのロボ女の情報も得ないと、確実に引き離せない。
本人達は無理だ。
フレたんに私が動いていることを悟られると、絶対に疑いが向く。
ここはフレたんの側近にしよう。
パスカルたんは可愛いけどバッドエンドのヒロインが悲惨だったから、ちょっと近付きたくない。
脳筋は正直面倒。つか、暑苦しい。タイプじゃないから却下。
ヨアンたんは影の時とか超カッコイイんだけど、影に洗脳も魅了も効きそうにないからダメだよね。
うん、ここはティッ君だな。ティッ君なら近付きやすいし、ここは一択だろう。
ゲームの知識を借りて、本を運んでくれるイベントを起こした。
イベントが起きるか不安だったけど、ビックリするくらい簡単にイベント通りに事が運んだ。
これがゲームの強制力というものなのかもしれない。
そうして翌日、用意していた薬草入りクッキーをお礼として渡した。
「これは君が作ったのですか?」
「はい、手作りです。私少し前まで平民だったので、料理はちょっと得意なんです。あ、美味しくなかったらごめんなさい。でも、手作りの方がお礼の気持ちが伝わるかなと思ったんです」
「ふぅん……変わった生地ですね。何が入っているのでしょう?」
良いから、食べろよっ!
生真面目なのはただの外面だろ!
なんでそんなこと気にするんだよっ!
「普通のものだと思いますが……あ、一部自分で森で集めたものですので、もしかしたら貴族の方には口馴染みがないのかもしれません」
「ご自分で材料を集められたのですか? この辺りで森と言うとローニョン森のことですか?」
「はい、そうです」
薬草が入っていることはバレていないはず。
でも、こう言っておけば例え違和感を感じても食べてくれるだろう。
嘘は言っていないし、問題ないはず。
「そうですか。凄いですね。では後程食べさせて頂きますね」
この場で食べさせたかったけど、さっさと行ってしまったティッ君を引き留める理由が作れなかった。
仕方がない。ゆっくり行こう。
……ん?
腕輪が光ってる?
何だろう、あれ。
いや、気にする必要はないか。
焦ることはない。こうやって少しずつ魅了していけばいい。
「パスカル・アモンにアニエス様のことを聞かれました」
「ティッキー・デュポンが昔のアニエス様のことを調べているようです」
「ローニョン森でモルガン・デモスを見かけました」
おかしい。
絶対におかしい。
何だ、これは。
ティッ君は私と会っても何の反応も示さない上に、向こうは確実に私を調べている。
魅了させようとしたことがバレた?
どうやって?
ううん、違う。
今はこれからどうするかだ。
まず確実にヨアンたんが私を見張っているはずだ。
ヨアンたんは影だから、私には全く分からないけど、絶対している。
だから今は動いたらいけない。
元々学園の外の操り人形とはあまり会わないようにしていたけど、今後は絶対会わないようにしよう。
反乱軍と接触していたことが分かったら、強引に反乱軍と見做される可能性もあるのだから。
操り人形を上手く使わないと。このために操り人形をいっぱい作ったようなものなんだから。
でも、同時にティッ君達にはどうしたって接触しないといけない。
情報が必要なんだ。
仕方がない。
時間は掛かるけど、思考能力を低下させる薬を通常の数百倍希釈させて使おう。
洗脳に気付かないタイミングで洗脳の薬も投与しよう。
勿論絶対に分からないように効果が出るか出ないかくらいの濃度にしないと。
どの操り人形なら怪しまれずに近付けるかな。
そうだ。
折角だから、王城内にも操り人形を作ろう。
「アニエス・モルメク嬢。貴女を王族への傷害罪及び反乱の疑いで連行させて貰う」
「………………は?」
ある日、突然、騎士達がやってきた。
本当に晴天の霹靂だった。
何もかも順調に行っていると思っていたのだ。
何も失敗は犯していないはずだ。
全て秘密裏に進められていたはずだ。
なのに、何が起こった?
意味が分からなかった。
だけど、第一王子を洗脳して誘導していたことも、反乱組織を作っていたことも、全てを私が操っていたことも、何もかも知られていた。
何もかもバレていた。
何で。
どうして。
どこから漏れた?
意味が分からない。
何これ、夢?
否認して否認して、黙秘を貫いていると、どんどん待遇が悪くなっていった。
それでも認めないでいると、牢に入れられた。
その数日後、フレたんがやってきた。
「!!!!!」
やっぱり、フレたんは私を助けてくれる王子様だ!
あんなロボ女の毒牙に掛かっていてもやっぱり私が忘れられないのね!
そうよね、私とフレたんは運命だもの!
「アニエス・モルメク。貴様の悪事は既に全て調査済みだ。否認も黙秘も結構。だが、私の婚約者を手に掛けようとした時点で貴様の命はない。少しでも反省を見せれば、貴族として名誉ある死を望む声も上がったのだろうがな。だが、もう終わりだ。後は処刑までの少ない日数をそこで過ごすと良い」
冷たい瞳が、怒りに満ちた声が、あの時と重なった。
私は平凡な女だった。
特に得意なこともなく、特徴的な見た目をしているというわけでもない平凡な女だった。
そんな私はいつも周りに流されていて、流行を追いかけ、クラスメイトと青春を楽しんでいるふりをしていた。
何が楽しいのか分からずに、それでも仲間外れになるのは嫌で自ら平凡になるようにしていた。
そんな私の楽しみは幼馴染みの女の子みたいな男の子を陰から見守ることだった。
女の子みたいだから、女子達はその男の子を時々女のグループに入れて楽しんだ。
だから話したことも触れたこともある。
でも、男の子は女の子みたいなのに全く浮くこともなく、女子とも男子とも万遍なく仲が良かった。
特定の誰かと仲が良いわけではないのだが、決して仲間外れにされることはない、そんな男の子の絶妙なバランスにいつも羨望の眼差しを送っていた。
だからだろうか。
いつからか、男の子に恋をした。
女の子みたいな男の子を好きだなんて浮いてしまうことは言えず、心の奥底に閉じ込めながらも、いつも見ていた。
男の子が行く高校、男の子が行く大学に私も進学し、私はこれからも男の子と生きていくと信じてやまなかった。
なのに気付いたら男の子はロボ女を見つめていた。
神童だったとか天才とか最もノーベル賞に近い女とか、そんなの知らない。
あんな無表情で冷血で無愛想なロボットみたいな女をどうして見るのか意味が分からなかった。
その乙女ゲームに手を出したのは、美少女にしか見えない王子様が攻略できると小耳に挟んだからだ。
しかも、ライバルはあのロボットみたいな女と同じで天才令嬢。
これはもう私の為にあるような乙女ゲームだと思った。
私は夢中で乙女ゲームをした。
わざわざ他のルートまで全部コンプリートしたし、裏設定まで調べまくった。
最高に幸せだった。
だって、私を選んでくれるのだ。あの、ロボットみたいな女ではなく。
だけど、現実は厳しかった。
ゲームの中では幸せだからこそ、思い通りにいかない現実にイラついた。
そして気付いた。
そうだ、この悪役令嬢と同じようにあのロボットみたいな女も排してしまえばいいんだ。
そうしたら男の子は私を見てくれる。
そう思ったら、それが幸せの道にしか見えなかった。
「なにを……している……」
「ああ、フレたん……何って、ロボ女を排除したんだよ」
「ロボ女……? っ、教授!? 教授っ!! しっかりして下さい、教授っ!!」
「大丈夫だよ。しっかり殺したから」
「殺……死ん、でる…………嘘、だろ…………なん、で……」
「フレたんがいけないんだよ。そんなロボ女ばっかり見てるから。だからフレたんの為にロボ女を殺してあげたの。もう邪魔者はいないよ。だから私を選んでいいんだよ、フレたん」
そう、これでようやく一緒になれるんだよ。
「てめぇ、誰だよ」
は?
誰……って?
「俺はてめぇなんか知らねぇよ。勝手にゲームの世界に生きていろ。ゲームの世界ならてめぇを選んでくれる奴もいるだろうよ。現実では絶対に誰もお前を選ばないだろうけどな」
冷たい、冷たい瞳。
怒りに満ち、嫌悪に満ちた声。
ロボ女の亡骸に目を向けると、その瞳は私に向けていた瞳とは全く違って愛情に溢れていた。
そっと触れ、優しく撫でるその手にも愛情が籠っており、怒りが湧いてくる。
「どうしてっ、何でそんな女をっ」
「てめぇにゃ関係ねぇよ! 関係ない、はずなのに……俺のせい、なんだよな……ごめん、教授。怖かったよな、痛かったよな。大丈夫。俺もすぐにそっちに行くから。これで許してもらえるとは思わないけど、次はちゃんと守るから。愛してるよ」
「!!!!!!やっ……」
視界が、赤く染まった。
ロボ女の血には何も思わなかったのに、男の子から流れる血が赤く赤く視界を染めた。
その中で、男の子は最期までロボ女の亡骸を優しく見つめていた。
あの後のことはよく覚えていない。
だけど、私がロボ女に負けたことだけは分かっている。
だから、今度こそは負けないようにしたはずだった。
なのに、どうして私はまたフレたんとロボ女が寄り添っているのを遠くから見せられているんだろう。
どうして、フレたんの隣に私は居ないんだろう。
どうして、フレたんは私ではなくロボ女を愛おしそうに見つめているのだろう。
分からない。
分からない。
私はただ、フレたんが好きなだけだったのに、どうして……
ヒロインの末路の希望がありましたので、完結と言いましたが追記することにしました。
ジャンルが変わってしまうかと思いましたが、一応恋心を前面に出して恋愛小説の範囲内で留めたつもりです。ヒロインは狂っているので、筋が通らない思考になっているところもありますが、都合の良い話を真実だと思い込んでいる結果です。
ヒロイン視点なのでざまぁではなく自業自得な物語となりましたが、三部作で足りなかった部分を書けていたのなら幸いです。
追記
番外編となる「小さな天国で育った攻略対象者異母妹の自覚なき恋心」を投稿しました。
↓にリンクを貼っておりますので、お読みになりたい方はそちらからどうぞ。