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9美少女を拾ったつもりが…9

 それから一週間はあっという間だった。トキワはすっかり健康的になり、夕方には父親が迎えにくる。彼の容赦無い求愛からやっと解放されると思うと命は夕方が待ち遠しかった。


 彼の好意は素直に嬉しいが、子供と交際する気なんて全く起きなかった。もしトキワが三歳年下ではなく歳上の十五歳だったら付き合ってたかもしれない。と妄想する。自分より背が高く、整った好みの顔立ちに優しくてたくさん愛してくれる彼氏…完璧だ。


「ちーちゃん何考えてるの?俺のこと?」

「ひゃっ!」


 図星な上、ぼんやりしている所をトキワに後ろから抱きつかれ、命はたまらず変な声を上げた。気づけばリビングには誰もおらず、ふたりきりである。


「ちょっと、いきなり後ろから抱き着かないでよ!」


 耳を赤くさせながら怒る命を無視して、トキワは命に抱きついた腕に力を入れる。


「ねえ、ちーちゃんは俺こと好き?」


 今まで一方的に好き好きと言われていたが、訊かれたのは初めてだ。いっそ嫌いだと突き放した方が良いのかもしれないと思いながらも命には出来なかった。


「俺は本気で好きだよ。誰にでも言ってるわけじゃないし、こうやって触りたいし抱きしめたいと思うのはちーちゃんだけ。こんなの初めてなんだ」

「それにしては随分スラスラと口説き文句が出るわね」


 胸の高鳴りを誤魔化すように命は皮肉る。実際十歳とは思えないほど甘い言葉を一週間吐き続けられて、タジタジになっていた。


「父さんが毎日母さんに言ってるから覚えた」


 あいつが元凶か。毒々しげに命は今頃こちらに向かっているであろうトキオに怒りをぶつけた。今頃くしゃみをしているに違いない。自分の両親は仲は良いが、バカップルよろしくイチャイチャはしていない。それどころか新婚の姉夫婦でさえも人前ではドライだったので、甘い言葉を耳にする事は皆無だった。


「トキワはお母さんのこと好き?」


 いっそ話題を変えてやろう。命はこの一週間で最も気になっていた事を質問する。


「……母さんが母さんでよかったと思っている。喧嘩したおかげでちーちゃんと出会えたし」


 結局私の話に戻るのか、なんで私なんかを好きになったの?助けられた恩を恋と勘違いしてるんじゃないの?


 命はの頭の中で疑問が次々と溢れ出した。


「俺って父さん似で母さんには全然似てないて言われてるんだけど、髪の色だけは母さんの色なんだ。それがなんか嬉しくて……だから母さんのこと好きだよ」


 水鏡族の大半は灰色の髪をしているがごく一部魔力の強い人間は銀色の髪を持っていると言われている。それは遺伝するらしい。トキワの母親は元神子だというのだから息子が銀髪なのは自然な流れだろう。


「そんなことよりさっきの質問に答えてよ」


 忘れてくれと命は願っていたが、トキワは先ほどの返事を催促する。もはやこれまでか…いっそ素直に気持ちを伝えよう。命は腹を決めた。


「……好きか嫌いでいったら好き」

「やった!」


「だけど付き合うとか、結婚するかでいったら……しない」

「………」


 持ち上げて落とすような発言をしたことに、罪悪感を感じつつも命は話を続ける。


「トキワを受け入れることは私はできない。お互いまだ子供だし、これからたくさんの人に出会うから、他の人をもっと好きになるかもしれない」

「そんなことない!この先どんなにたくさんの人に出会っても俺にはちーちゃんしかいない!」


 この期に及んでまだ口説くトキワに命は首を振る。


「トキワがもしそうだとしても私はそうじゃない。私はまだ恋をしたことが無いから……恋も知らないであなたと付き合うなんて出来ない」

「じゃあちーちゃんが誰かと恋してからでいいから俺と……やっぱダメだ!俺以外好きにならないで!」


 自ら挙げた妥協案を却下してトキワは離したくない気持ちを腕の力に込めるが命はやんわりとそれを退ける。


「今の私はあなたの気持ちに応えられない」


 ごめんねと心の中で呟き、精一杯の冷たい視線で命はトキワを一瞥して完全に突き放した。これで諦めてくれるだろう。そう思って距離を取った。


「それってつまり今はダメだけど、これから俺と付き合ったり、結婚してもいいと思う未来があるってことだよね?」

「はあ?」


 これだけ拒絶したのに、どうやったらここまで前向きに解釈出来るのか。命はいっそ頭を撫でて褒めたくなったが押し黙った。


「俺、ぜっったい諦めないから!覚悟しててね、ちーちゃん!あ、父さんだ!」


 窓の外に予定より早く到着した父親を発見したトキワは、出迎えるために家を出て行った。残された命はペタンと床に座り込み、熱い顔を汗ばんでいた手で冷やしながら、これから始まる美少年からの攻勢を想像すると、胸の高まりが止まらなくなり、これは恋じゃない、身の危険を感じているだけだと必死に自分に言い聞かせるのだった。


 

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