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89充実した夏休み7

 命と顔を合わせない為に、港町のギルドで魔物退治の依頼を受けたのはいいが、思ってたよりも魔物の数が少なく、しかも弱かったため、一時間足らずで討伐してしまったトキワは肩透かしを喰らってしまった。


 これでこんなに沢山の報酬を貰っていいのだろうかと、気まずそうにギルドに戻り、受付嬢に報告する。


「あっらー!お早いおかえりで!魔物さんが雑魚でラッキーだったじゃない!でも勘違いしちゃだめよ?魔物が雑魚だったんじゃなくて、トキワちゃんが強かっただけよ!完了届を見た感じ、この魔物はCランク冒険者でも苦戦するタイプの奴よ。これならトキワちゃんのCランク昇格もそう遠くないわね!流石はレイちゃんの弟子ねー!」

「ありがとうございます。今日はなんか依頼残っていますか?」


 仕事の成果を褒める金髪の受付嬢にトキワは礼を言うと、新たに依頼を受けようとした。


「現在Dランクのトキワちゃんが受けられる依頼は……残念、もう無いわね。他の水鏡族さん達がみんな受けちゃってるわ。夏休みだからEランクの方も学生さんでいっぱいね。という訳でお疲れ様でしたー!イケメンパパによろしくねー!」


 相変わらずの軽い口調の受付嬢に追い出されたトキワは残りの時間をどう過ごそうか悩んだ。


 とりあえず夕食に近くの食堂に入ると、大盛り海鮮パスタを注文する。


 パスタを待ちながら、トキワは昼間に遠くからこっそり見た命の姿を思い出す。


 ニ年ぶりに見た彼女は更に綺麗になっていて、双眼鏡越しでも輝いて見えた。レイトと並んだ具合からして、あれから身長は伸びていないようだが、未だ自分の方が低いという事実は変わらないため、大きく肩を落として、ため息を吐く。

 

 夢に向かって着実に進んで、美しくなっていく命に対して、自分はなんて情けない。このままじゃ命が卒業して、村に帰ってきても、会う勇気が無い。


 しかし、そんなことを言って距離を置き続ければ、横から知らない輩に命を取られかねない。それだけは絶対に嫌だ。ならばもういっそ冒険者になろう。全速力で帰れば毎日命に会えるはずだ。

 

 進路を妥協したトキワはウエイトレスが持ってきた大盛り海鮮パスタをフォークで絡め、黙って口に放って食べ進めて、食事を終えると、トキワは宿代が惜しかったので、大人しく家に帰って寝ることにした。



***



 翌朝、そういえば今日命は友人の結婚式に参列しているはずだと思い出し、こっそり粧し込んだ命を楽しむべく、身支度を済ませると、神殿に向かった。

 

 トキワが最後に結婚式に参列したのは、去年の叔母の暦の結婚式だ。相手の男性は水の神子だったため、神子同士の結婚として大きな話題になった。


 既に結婚式は始まっていたらしく、トキワは魔術で気配を消して木に登り、チャペルの外から様子を窺うが、窓が全面ステンドグラスのため、命の姿を確認する事は出来なかった。


 しばらくして、結婚式が終わったらしく、チャペルから人が出て来た。トキワは双眼鏡で命の姿を探して見つけ出した。今日の命は濃紺のセットアップを見に纏い、髪の毛はアップスタイルで、コーラルピンクの口紅を塗っていた。命は友人らしき女性と話しながら、手には白い花びらを持っている。


 そういえば暦の結婚式の時、祖母にこっそり頼まれて花びらを舞い上がらせたことをトキワは思い出し、命の大事な友人の結婚式だし、参列を断った負い目から、風を操り、同じようにフラワーシャワーを盛大に舞い上がらせ、新郎新婦と参列者を花びらで包み込んだ。


 すると歓声と共に老女が騒ぎ出して、何か捲し立てている様だった。その後新郎新婦と参列者は異常に盛り上がっていた。もしやこれはやったらいけないことだったのか、トキワは戸惑いながらその様子を見守った。


 新郎新婦が先に退場して、参列者もパーティー会場に向かう為、チャペルの前は人が疎になっていった。命は友人に何やら話しかけて、先に行かせると一人だけになった。


「トキワ!近くにいるんでしょう?出てこなくてもいいから聞いて!」


 突然大声で名前を呼ばれて、トキワは木から落ちそうになった。場所までは特定してない命は明後日の方を向いている。トキワは命の声が聞こえるように、こっそりチャペルの裏手の茂みに移動した。


「さっきの風!トキワの仕業でしょう?南とハヤトの結婚式を盛り上げてくれてありがとう!」


 こちらから見えるのは後ろ姿の為、命の表情は見えないが、きっと眩しい笑顔を浮かべているに違いない。トキワの頰が自然と緩む。


「なんか色々悩んでるみたいだけど!私はずっとトキワの味方だから!応援してるから!だからいっぱい悩んで自分の道を決めてね!」


 命の激励にトキワは将来への不安が一瞬で吹き飛んだ。自分には命がいる。それだけでどんなことがあっても乗り越えられる気がした。


「じゃあまたね!大好きだよ」


 最後だけ小声で呟いて、命は小走りでパーティー会場へ向かった。本当は追いかけて、抱きしめたかったが、離せなくなるし、何より自分の方がまだ身長が低いという無駄なプライドが邪魔をして、トキワはその後も帰省中の命をただ見守って、過ごすことにしたのだった。


 

 


 

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