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85充実した夏休み3

 学校が終わり今日はレイトが不在で修行もなく、暇なトキワは幼馴染みのカナデと大人しく下校することにした。


「なあ、カナデは卒業後の進路はどうするの?」


 明日には進路希望を提出しなくてはならないトキワはまずカナデに相談してみる事にした。カナデは同い年とは思えないくらい落ち着いていて頭がいいから、何かいいアイデアがあるのではとトキワは期待していた。


「俺は村を出るよ」

「え、初めて聞いたんだけど?」

「うん、初めてお前に言った」


 思っていなかったカナデの進路にトキワは返す言葉が見つからなかった。


「家も引き払って冒険者になろうと考えているんだ。俺にはもうここにいる理由もないしな」


 今年の初頭、五年ほど前から病を患っていたカナデの父親が亡くなった事で、カナデは天涯孤独になってしまった。その後住まいは持ち家なので、問題無く暮らし、カナデは休日にギルドの依頼をこなしながら生活費を稼ぎ、平日は学校に通っていた。


 トキワもたまにカナデと共にギルドの依頼を受けたり、時折一緒に登校したりしていたが、村を出る発言は一度たりともなかった。


「冒険者になって世界中を見て周ろうと考えているんだよ。まずは港町から船で乗った先の国に行ってみたいと思っている」


 希望に満ちた瞳で将来の夢を語るカナデがトキワにはなんだか眩しく見えた。自分は命と結婚する事しか考えておらず、将来の展望がまるで無かったから尚のことだった。


「あともう一つ、俺と母さんの水晶を見つけ出したいんだ」


 それはカナデが赤子の頃に盗賊に母親の生命と共に奪われた水鏡族が生まれながらに持っている水晶の事だった。


「自分の水晶ならば共鳴するはずだと父さんが言ってたから必ず見つけてみせる。母さんのも一緒に見つかるといいんだけど。母さんの水晶は雷属性だから、金色の水晶だとは聞いてるんだけどな」


 水鏡族の水晶は持ち主の属性によって色が異なる。例えばトキワの水晶は風属性でエメラルドグリーンに輝いている。


「村にはもう帰って来ないのか?」


 寂しそうに聞いてくるトキワにカナデは思わず笑みをこぼしてトキワの肩を叩いた。


「近くに寄ったら帰ってくるよ。その時はお前の家に泊めてくれ」


 生まれた時から一緒の幼馴染みが遠くに行くのは寂しいが、カナデが故郷を捨てるつもりではなさそうだとわかり、トキワは安堵した。


「それで?お前昼休み先生に呼び出されてたけど、何言われたんだ」


 カナデに昼休みの事を聞かれて、トキワは気まずそうな表情になる。


「ちーちゃんと結婚する♡って書いて出したら説教食らった」

「ふっ、お前っ、本当にバカだな……ははははっ」


 笑いのツボに入ってしまったカナデはしばらく腹を抱えて笑い続けた。こんなに笑ったカナデを見るのは久しぶりだったので、トキワもつられて笑った。


「あー悪い、こんなに笑ったらいけないよな。お前にとっては切実な夢なのに」

「そうなんだよ。俺にとっては長年の夢なんだけど、ちょっと心配になってきた。結婚してちーちゃんと幸せに暮らす為に何の職業に就けばいいかわからなくって」


 トキワは珍しく後ろ向きだった。このままじゃ命を花嫁に迎える事が出来ない。それだけは絶対に嫌だった。


「なんか希望する条件はあるのか?」

「今の所週末と祝日休みで、定時で帰れる仕事なんだけど、何かあるかな」


 悩むトキワを横目にカナデはしばし考えてから、一つ心当たりを見つけた。


「役場に勤めるとかどうだ?トキオさんもそうだったろう?」


 カナデの提案にトキワはその手があったかと思わず膝を叩いた。父のトキオは東の集落の役場に勤務している。興味がなかったためトキワはすっかり忘れていた。


「それだ!確かに父さんいつも定時で帰ってくるし、休みも規則的だ!」

「喜んでいる所悪いが、役場は採用試験があるからお前の成績だと今から必死に勉強することになるぞ」

「じゃあ勉強頑張るよ。それに引き続き役場勤め以外にも何か向いてるのないか探してみる。とりあえず先生に出す分は役場勤務て書こうと。カナデ、ありがとう!」


 カナデが水を差したがトキワは気にする事なく笑顔を浮かべて感謝した。


 そしてその晩トキワは夕食時に役場勤務をしたい言ったことで、父と同じ職業を目指してくれるのかと、トキオをいたく感激させたのであった。




 

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