82それぞれの日常9
命はいつものように学校からアンドレアナム家に帰りメイド服に着替えようと自室のドアを開けようとしたら、郵便受けに手紙がニ通入っていた。差出人を見るとトキワと親友の南からだった。
「トキワは相変わらず返信が早いなあ」
部屋に入って時計を見ると就業時間まで余裕があったので、命はメイド服に着替えて身なりを整えてから手紙を読むことにした。
まずは南の手紙を開封する。いつもの近況報告の後に書かれた内容に命は目を見張った。
「え、結婚?!」
南の手紙によると、来年の夏にハヤトと結婚式を挙げるとの事だった。親友と幼馴染みの吉報に命は舞い上がる。
「結婚かあ……」
思えば同級生の南とハヤトが結婚するということは命も結婚も出来る年齢である。しかし命は自分が結婚するなんでまだ想像が出来なかった。
まずは学校を卒業してから十九歳で秋桜診療所で働くのが理想だ。もしかしたら命が結婚するよりも南達に子供が生まれて検診とかに立ち会う方が早いかもしれないと予想した。
再び手紙に視線を戻すと、その時期ならば夏休みだろうから命にも是非里帰りして参列して欲しいと書いてある。しかし学校は夏休みかもしれないが命にはメイドの仕事がある。
恐らく結婚式には参列出来ないだろうと命は判断してしゅんとする。せめて結婚祝いの品を贈ろうと決意して、手紙を読み終え便箋を封筒に戻す。
次にトキワの手紙を開封する。前回命が手紙を出したのは三週間前、だいたい手紙を出して届くまで十日間だと考えると、トキワは届いて数日で返信をしたと思われる。彼は命と離れて暮らすようになってから暇なのだろうか。
手紙の内容からすると、ちゃんと学校にも行ってるし、レイトと修行をしたり、風の神子と魔術の特訓もしてるはずなのだが……細かい事は気にしないことにして、命は封筒からまずは黄色い野花が押し花にされた栞を手にした。
トキワとは何度か手紙をやり取りしているが三ヶ月ほど経った時の手紙から押し花の栞が同封されるようになった。多分桜の差し金だろうと思いつつも、故郷の花を楽しめるのはとても嬉しかった。
次に便箋を開き目を通す。冒頭には毎度お決まりの面倒ごとに首を突っ込まないこと、人より自分を大事にすること、無理をしないことと、まるで母親のような文面が並び、近況が続く。
最近は新しい修行場の整地作業を頑張っていることや、レイトにどうしても勝てなくて悔しいなどと相変わらずの様だ。
そして前回命が質問した光の神子の名前についても書いてあった。光の神子の名前は絆というらしい。風の神子の元へ魔術を教わりに行った際ついでにアンドレアナム家前当主、エミリアの祖父を治療した時の話も聞いてきてくれたようだ。
これは今夜のお茶会のいい話題になりそうだと命はホクホクしながら続きを読む。
締めの文もいつも通りトキワからの愛の言葉で敷き詰められていた。会えなくて寂しい、離れていても愛してるなどと綴られていて、命は読んでるだけで顔が熱くなった。
手紙を読み終えた命は封筒に栞と便箋を入れて南の手紙と一緒に箱にしまうと、鏡でもう一度身だしなみをチェックする。服装の乱れは無いが、顔の赤みがなかなか引かず、こんな顔をしてエミリア達に会えないと、慌てて手で顔を冷やし続けた。




