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73離れたくない9

 遂に旅立ちの時が来た。命は朝早めに起きて、忘れ物が無いか何度も確認する。


 荷物を持ってリビングに降りると、光がバタバタと旅支度をしていた。大方は済んでいても長い間留守にする為、家のことを記入したノートの内容を確認している。実の事は祈達がいるから問題ないとはいえ、母親として心配は尽きないのだろう。


 乗り合い馬車の時間が差し迫る中、命が家の外で待っていると、桜が診療所を出て戸締りをしていた。念のため結界をかけているが一日で解けるので、明日からは祈が代わりにかけるらしい。


「いやー、久々の遠出だ。ワクワクするな」

「医学書買い過ぎないように注意してくださいね」


 しばらくしてようやく準備を済ませた光も家から出てくる。見送りの為レイトと祈、ヒナタも一緒に乗り合い馬車の待合場に行く。実は学校の為先程別れを告げて登校して行った。


 待合場に付いて馬車が来るのを待ってると、突風と共にトキワが見送りに現れた。


「あーよかった!間に合った!ちーちゃんこれあげる!」


 肩で息をしながらトキワはゴロゴロと石が入った袋を差し出した。


「嵩張るかもしれないけど、餞別だよ。この風魔石を使えば荷物が一日中軽くなるから使ってね!」

「え、こんなに沢山の魔石、重いし邪魔に…軽っ!」


 受け取った袋の軽さに命は驚愕する。石が入っているのにまるで羽毛の様に軽かった。


「魔石自体に軽量化魔術をかけて精製したから軽いよ」

「そうなんだ。ありがとうね」


 更に魔術に磨きを掛けたトキワに命はただただ驚いた。恐らく売ると相当高い物だ。


「トキワ、お前学校どうした?」


 今日は平日で学校があることをレイトに指摘されたトキワは気まずそうにレイトから視線を逸らす。


「腹壊したから遅刻するって友達に言っといた」


 明らかなトキワの仮病に命を含めて周りが笑い出した。


「ちーちゃん、絶対帰って来てね」


 トキワは命の手を取り頬擦りして別れを惜しむ。命は空いた手でトキワの頭を撫でる。


「帰って来なかったら攫いに行くからね?」


 いつもより低めの声色で影のある笑顔を浮かべたトキワに命はゾクリとして、彼の頭を撫でる手を止めた。


「ち、ちゃんと帰るから心配しないで」


 苦笑しながら命は馬車が来たことに気付き、トキワから離れた。


「俺さ絶対にちーちゃんより背も高くなるし、強くなるし、カッコよくなるから、帰って来たら結婚してね!」


 あまりにも真剣なトキワの求婚に命は嬉しい反面、重く感じて返事に詰まった。


「……返事は帰って来てから言うね。じゃあまたね、お姉ちゃん達も元気でね」


 命は先延ばしの返事をして平静を装いつつも、馬車に乗る前に一度トキワの目の前で声に出さず口だけ動かし好きだよと想いを告げ、首元に光る銀の天然石のペンダントを見せて笑うと背を向けて桜達と馬車に乗り込んだ。


 馬車が出発して姿が見えなくなると、トキワは後を追おうとしたが、レイトに首根っこを掴まれて阻止された。


「師匠のいじわる!」

「お前、ここで止まらないと絶対追いかけ続けて最後までついてくぞ」


 レイトの指摘にトキワはそんなことは無いと否定しながらも、次第にそうなる気がして押し黙ると、次第に目に涙を溜めてレイトに抱きついて声を上げて泣き出した。


「お、珍しくうちの弟子が可愛いな」


 レイトは笑いながらトキワの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。その横で祈までもらい泣きをしてレイトに抱きついた。


「ママ、トキちゃん、だいじょうぶ?」


 ヒナタは泣いているトキワと祈を心配して二人の足をそれぞれ撫でた。


 そんな惨状になっているとは露知らず、命は馬車の中で光と桜で学園都市の話題で盛り上がっていたのだった。


 


 

 


 

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