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71離れたくない7

「じゃあ行こうか、俺のお姫様!」


 そう言ってトキワは魔術で風を起こすと、命を横抱きにしてから、一気に飛び上がった。


「きゃー!何これ!!」


 これまでに感じた事ない浮遊感に命は思わず声を上げる。下を見ると、町が小さく見えて怖くなって、しっかりトキワに抱きついた。


「ちょっ、前が見えない……」


 抱きつかれたトキワは命の胸で視界が遮られて、思わず身体をよろめかせた。それにより更なる悲鳴を呼ぶ。


「落ちる!怖い!!」


 こんなに怖がるなら紐で体を縛って繋いでおくべきだったかとトキワは反省しつつも、速度は落とさず村を目指す。既に辺りは暗いが、以前レイトに教わった通り星の位置で場所を確認する。


「ちーちゃん落ち着いて、絶対落とさないから!ほら星が綺麗だよー上見て上!」


 トキワに促されるままに命は空を見上げると、満天の星が空に輝いていた。


「本当だ。綺麗……」


 怖がって俯いていたら見る事が出来なかった星空に命は感動して美しさにため息をついた。トキワとしては星に夢中になる命の方がよっぽど美しく感じて、ずっと眺めていたかったが、時々見るだけに留めて家路を急ぐ。


「ねえ、トキワ……」

「ん?」


 いつになく優しい声で名前を呼んで来る命にトキワは自然と頰が緩む。


「私、トキワが好き」

「へ?」


 予想だにしなかった命からの告白にトキワは一瞬魔力の制御を忘れてしまい、一気に高度が下がってしまい、命から今日一番の悲鳴が上がった。慌てて高度を上げるが、命は涙目になっていた。


「絶対落とさないって言ったじゃないの!」

「ご、ごめん。あまりにも突然の事で……せっかくだからもう一回言ってもらえる?」


 初めて命から好きって言ってもらえたことにトキワは舞い上がり、告白のやり直しを請求した。


「絶対落とさないって言ったじゃないの!」

「違うー!」


 トキワが求めている言葉がそうじゃない事くらい命はわかっていたが、もう一度言う勇気も無いし、また落とされたら最悪だという気持ちが勝っていた。その代わりに命はトキワの視界を遮らない程度に身を寄せた。


「まあいっか、俺も好きだよ、ちーちゃん」


 自分の気持ちを伝えるとトキワは宙に浮いたまま立ち止まり、コツンと命と額を合わせた。そして額を離してトキワは顔の角度を変えると、命の唇に口付けてきた。人生初めての口付けに命の心臓は爆発寸前で限界だった。

 

「今日は人生で一番幸せな誕生日だよ!」


 高揚した気分で空に向かってトキワが言い放つと、もう一度命に口付けようとしてきたが、今度は命が手にしたショルダーバッグによって阻まれるのであった。


 仕方なくトキワはキスを諦めて、移動を再開させることにすると、次第に村の民家の明かりがちらほらと見え始めた。


「思ったより早く着きそうだな。もう少しこうしてようか?」


 トキワの申し出に一刻も早くこの状況を脱したかった命は首を振って反対した。


「そっかー残念」


 名残り惜しげにトキワは徐々に高度を下げて、秋桜診療所の前に辿り着いた。どうやら港町から村まで最短ルートで空を飛んだ為、乗り合い馬車よりも早く着いたようだ。


「暗いのによくわかったね」

「まあほぼ毎日来てるからね。一応空からも確認したことあるし」

「ところでいい加減降ろして」


 既に足が地面に着いているにも関わらずお姫様抱っこをされている命は恥ずかしそうに降ろすよう請うので、トキワは中腰になり、優しく命を降ろすも、間髪入れずに腕の中に収める。


「もう帰らないと……トキワもお父さんとお母さんがお祝い用意して待ってるよ」

「わかってる……でももう少しこのままでいさせてよ」


 少し震えた声で懇願するトキワに命は突き放す事が出来ず、彼の気が済むまでしばらくこのままでいる事にした。


 しばらく経ってから命の家から談笑が聞こえたことで現実に戻ったトキワは腕を解き、もう一度命の唇に口付けた。


「今日はありがとう、愛してるよ。またね」


 幸せすぎて今にも泣きそうな感情を堪えて、トキワは自宅へと戻っていった。命は瞳を潤ませて頰を染めたままトキワの姿が見えなくなるまでその背中を見つめていた。

 


 

 


 


 

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