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70離れたくない6

 トキワはプレゼントを既に貰ったと言うが、命は納得できず、その後も様々な店を見て周り、トキワの誕生日プレゼントを探した。そんな命を隣で見てるだけでトキワは満たされていたが、彼女が気付く事はなかった。


「ちーちゃん、甘い物でも食べて休憩しようよ?」


 甘い物という誘惑に勝てず命は頷くと二人は喫茶店に入った。


「ベリーパフェとバニラアイスが乗ったイチゴかき氷どっちにしよう…」


 メニューと睨めっこしながら悩む命の姿をトキワは堪能する。これがしばらく見れないと思うと寂しいが、今はそれを忘れる事にした。


「決めた!ベリーパフェにする。トキワは?」

「バニラアイスが乗ったイチゴかき氷」


 予め命が選ばなかった方を注文することを決めていたトキワはニッコリと即答する。こうしたら仲良く食べ合いが出来ると学習済みだった。


 ウエイトレスに注文してしばらく待って来たベリーパフェとイチゴかき氷をトキワの想定通り食べ合う。


「本当に欲しいもの無いの?」


 少し疲れ気味に命に問いかけられたトキワは一応腕を組んで考える姿勢を見せる。


「別に物じゃなくていいんだよ。こうして一日中ちーちゃんと一緒にいられるだけで満足だから。でもまあ、どうしてもって言うならペンかな?手紙書くのに使うから。これ食べたら買ってよ」


 そろそろ命を悩ませるのはやめておこうと思い、トキワは事前に考えていた希望を挙げた。命は少しホッとした表情をしてパフェのクリームを食んだ。


 喫茶店を出た後に早速文房具屋に向かった。どれにしようか悩んだ結果、命はシンプルな黒い万年筆をプレゼントした。


「ありがとうちーちゃん、これ一生大事にするね!」


 相変わらず大袈裟だなと思いながら満面の笑みを浮かべて喜ぶトキワを見て、命はようやく肩の荷が降りた気がした。


「そろそろ帰ろっか?今何時だろ……うわっ!」


 命が時間を確認したところ既に乗る予定だった最終の乗り合い馬車がとっくに出てしまっている事が発覚して血の気が引いた。


「どうしよう、もう乗り合い馬車の時間が無い。私のせいだ……」


 いつまでたってもトキワの誕生日プレゼントを見つけられなかったせいだと命は自分を責める。


「はあ、仕方ない。獣道通って帰ろっか?照明魔石買ってこよ」


 水鏡族御用達の獣道を通れば魔物に遭遇しやすいが、門限には間に合う。命は肩を落として魔石が売っているギルドへと向かおうとした。


「嫌だよ。そんな事したらちーちゃんの脚に傷が出来る」


 命の二の腕を掴みトキワは獣道ルートを拒否する。確かに今日の命の服装は生脚を曝け出しているため、脚が傷だらけになってしまう。


「じゃあどうするの?連絡も無く泊まったら心配かけちゃうよ」


 悩んでいるうちに薄暗くなり、空にちらほらと星が見えて来た。命と外泊というのは中々魅力的な選択だったが、彼女の言う通り連絡もせずに泊まったら、レイトたちが探しに村まで降りて捜索するだろう。お泊まりは今回諦めることにして、トキワは勝気に笑って空を指した。


「飛んで帰るよ」


 突拍子もないトキワの提案に命は目を丸くさせた。


「そんな事できるの!?」

「最近風の神子に教わったから行けるよ!ほら」


 試しにトキワは自身に魔術をかけて、少しだけ宙に浮いて見せる。いつの間にやら常人離れしてきているトキワに命は呆気にとられた。


「でも私重いよ?」

「何キロ?」


「五十き…て、言うわけないでしょ!!」


 うっかり体重を言いそうになった命は顔を赤くして慌てて誤魔化す。


「五十キロ代なら全然軽いよ!一応百キロまで試したから問題無し!」


 デリカシーのない返答をしてからトキワは一旦魔術を解いてから命に近寄り手を取った。


「お姫様抱っことおんぶどっちがいい?」

「その二択しか無いの?」


 どちらも中々恥ずかしいシチュエーションなので、命は躊躇う。


「あとは肩に担ぐとか?まだ習いたてだから出来るだけ密着した方がいいかなーなんて」


 本当は手を繋がなくても宙に浮かせることが可能だが、命との触れ合うという自己満足の為にトキワは黙っておく事にした。


「密着すればいいなら私がトキワをお姫様抱っこすればいいんじゃ無いの?」


 まさかそう来ると思わなかったトキワは思わず想像して吹き出し笑い出した。息を整え落ち着いてから、トキワは命の手の甲にそっと口付けた。


「今回の所は今日の主役を立ててよ?」


 茶目っ気たっぷりにウィンクをすると、トキワは命の手を引いて町の外まで歩いた。

 


 





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