7美少女を拾ったつもりが…7
「帰りたくない」
その言葉は可愛い我が子の様子が気になるあまり、仕事を終え、全速力で走って来たトキオを落胆させた。
「そんな…父さんはトキワがいないと寂しくて死にそうなんだけど…?」
「母さんがいるからいいじゃん」
少し拗ねたように口を尖らせるトキワにトキオは首を大きく振る。
「父さんは寂しがり屋だから楓さんとトキワ…二人ともいないと嫌なんだよー!」
「でも母さんは俺がいない方がいいと思ってる」
「トキワ!」
叱責するように語気を強めて息子を呼ぶトキオに同席していた命と桜は肩を震わせる。トキオは気まずそうにトキワを抱きしめた。
「母さんはちょっとだけ勘違いしているんだ。でも大丈夫…お前が父さんと母さんの子供で、望まれて生まれてきたのは間違いないから」
「……うん」
少なくとも父親の愛を感じたのか、それともこれ以上言い争うのに疲れたのかトキワは小さく返事をした。
「よし、じゃあ帰ろう!」
「やだ!」
「どうして!?」
肩透かしを食らったトキオは悲鳴のように問いかける。
「俺、剣の師匠が出来たんだ!だからここで師匠と修行したいし、あと…ちーちゃんと一緒にいたい!」
たった二日で随分と気に入られたものだ。命は少し嬉しくなったし、胸がキュンとした。これは母性というものなのだろうか、きっとそうだと自問自答した。
「え?どういうこと?剣の師匠?ちーちゃんて誰?」
完全に話についていけないトキオを不憫に思った桜ながクスクスと笑いながら助け舟を出すことにした。
「剣の師匠は私の兄のところの婿殿です。あとで紹介します。で、ちーちゃんはこの子。トキワくんたらすっかり懐いちゃってメロメロなんですよ。今朝もトキワくんが起きるより先に学校行っちゃったから、ちーちゃんがいないって大騒ぎでした」
「メロメロって…」
大袈裟だろうと呆れつつ、命は桜を睨むも事実だと言わんばかりに笑顔のままだ。
「なるほど、わかった。そのお婿さんには挨拶しないと…今在宅かな」
「わ、私確認してきます」
何となく居心地が悪かった命は急ぎ部屋を出て行った。トキオにトキワとの関係を聞かれるのは気まずいし誤解を招きそうだったからだ。
しかしその判断は大きな間違いだったことに命は気付くことはなかった…
「それでトキワはあの子の事が好きなの?」
命が去ってから早速トキオは息子の核心に迫った。
「うん、大好き。今すぐ結婚したい。ちーちゃんは可愛くて優しくてキレイでカッコよくて料理も上手で、ずっと一緒にいたい!」
大胆な発言に大人二人は目を丸くした。子供らしくて微笑ましいと笑って過ごせば良かったが、トキワの目が真剣そのもので茶化せなかった。
「き、昨日初めて会ったばかりの子だろう?相手のことをよく知らなきゃだし、結婚はまだ早過ぎるんじゃないかなー?」
「父さんは母さんに初めて出会ってすぐにプロポーズしたって言ったじゃん」
「ぐっ…」
痛い所を突かれたトキオは言葉に詰まる。そういえば当時トキオが神子に一目惚れしたと随分と噂になったなと桜は思い出した。
「いやー親子てそんな所まで似るんですね。しかしトキワくん、子供は結婚出来ないし、何より相手も結婚したいと思わなきゃ出来ないんだよ」
そもそも命はどう思っているのだろうか。好意的ではあるが、恋愛感情は無さそうだと桜は分析してトキワに正論を説いた。
「何歳になったら結婚出来るの?それまでに絶対ちーちゃんにも俺のこと大好き!結婚してって言ってもらう!」
恐ろしいほどのポジティブ思考に、桜は乾いた笑いしか出なかった。この子一歩道を踏み間違えたらとんでもないヤンデレになってしまうのではないだろうか。トキオもそう思ったのか、表情が死んでいた。
「……君、ちーちゃんと結婚しちゃうの?」
突如悲哀に満ちた口調で姿を現したのは、当事者である命の父親で桜と診療所を営むシュウだった。まるで熊のような体格ながらハムスターのようにふるふると震えていた。
「ついこないだりーちゃんがお嫁に行っちゃったばかりで辛いのに、早速ちーちゃんまでお嫁に行ったら、おじさんかなり辛いんだけど……?」
そういえばレイトと祈の結婚式で号泣し、やっぱり嫌だお嫁に行かないでと駄々をこね、醜態を晒していたなと桜は苦々しげに思い出した。果たしてトキワはひとまず諦めるかと様子を見るとより一層目を輝かせていた。
「ちーちゃんと結婚したら熊先生が父さんになるんだね!家族が増えるんだ!」
天使のような眩しい笑顔をドカンとお見舞いされたシュウは胸を押さえる。
「…今からおじさんのことはパパって呼びなさい。でも結婚は二人が十六歳過ぎてからね?」
どうやらシュウの完全敗北のようだ。さりげなく社会的条件を教えるあたりは抜かりない。
「ちょっと待ってください先生!」
説得出来なかったシュウにトキオが掴み寄る。愛息の将来の話だ。勝手に決められた事に怒りを覚えたのだろう。
「私だってトキワにパパって呼んでもらいたいのに…!抜け駆けは許しませんよ!」
あ、この人ただの親バカだった。桜はただただため息しか出ず、この場にいない姪っ子を憐むのであった。
「ドンマイ、ちー」