69離れたくない5
レストランで食事を終えてから、本題のトキワの誕生日プレゼントを選ぶ事になった。
「毎年恒例のノートはどう?」
「却下。しばらく交換日記しないじゃん」
「じゃあレターセット!お手紙書いてね?」
「えー、そりゃ書くけど消耗品以外がいいな」
消耗品以外という希望に命は悩みに悩むが、いい物が思いつかない。トキワは命が選んだ物なら何でも嬉しいらしいが、ブレないというか自分がないというか、そのせいで好みが全くわからない。
とりあえず雑貨屋に行こうと向かっている途中、露店でアクセサリーが売っていたので、命は足を止めて眺めてみた。ペンダントや指輪、イヤリングにブローチなどが所狭しと並んでいる。
「あ……」
命は銀色の天然石がトップのシルバーチェーンペンダントがトキワの髪の色と似ていて、目が離せなくなった。プレゼントを探しているのに自分が欲しくなってしまったのだ。しかし値札に視線を移すと、中々高額だったので、諦めようと露店を後にしようとしたが、トキワが動かなかった。
「これください。つけて帰るから袋とか入りません」
トキワは命が気に入ったペンダントを指して店主に購入の意思を伝えた。同じ物が気になっていたんだなと思いながら命はやり取りを見守る。
「ちーちゃんちょっと後ろ向いて」
トキワがペンダントをつけた姿を早速披露するつもりなのかと思い、命が促されるままに後ろを向くと、不意に首筋にヒヤリとした感触がした。
「えっ?」
「動かないで」
まさか自分のために買ってくれたと思わなかった命は驚くがトキワに制止されて、しばし大人しくする。慣れない手つきで苦戦しつつも、トキワは命の首に銀色のペンダントを取り付けた。
「な、なんで私に?」
「誕生日プレゼント」
「いやいや誕生日なのはそっちでしょ!」
店先で騒ぐと迷惑なので、邪魔にならなそうな場所に移動してから命は反論する。
「ちーちゃんにプレゼントをするのが俺にとっての誕生日プレゼントだよ。それ欲しそうにしてたよね?」
「それはまあ、欲しいなと思ったけど、こんな高い物貰えないよ!ていうか何でそんなにお金持ってるの?」
命でさえ手が届かないと諦めたペンダントを即決で購入したトキワの財布事情に命は疑問を感じた。もしや誕生日だからと親に大金を貰ったのだろうか。
「じつは魔石を作って売ってるんだ。前に俺が蹴破った神殿の壁の修理代を小遣いから払うことになったのがきっかけだったんだけど、修理代が高過ぎてこのままじゃ三年くらい小遣い無しになりそうだった所、風の神子からの申し出で風魔石の作り方を教えてもらってそれを売って返済したんだよね」
そういえば顔の傷を見られたくなくて部屋に引き篭もった時にトキワが壁を蹴破った事があったなと命は思い出した。楓は本当に息子に修理代を払わせたようだ。
「で、返済が終わっても魔石を作って欲しい。売り上げの半分をあげるからってことでコツコツと作っては売って貯めてたんだよね」
お陰でトキワの野望であるマイホーム資金も順調に貯まってきていたので風の神子には感謝感激だった。
「風の神子って八十歳のじいちゃん一人だけなんだけど、次の担い手がいないから神子にならなくてもいいからせめて魔術だけでも継承してくれって頼まれて半年くらい前から魔術を教えて貰っているんだ。いわゆる魔術の師匠だね」
自分の知らない所でトキワも色々頑張っているのだなと感じた命は自分も負けてられないなと己を鼓舞した。
「そんなことよりペンダント、貰ってくれるよね?」
ダメ押ししてくるトキワに命は困った様に笑ってから小さく頷いた。
「ありがとう。このペンダント、トキワの髪の色に似てるなって思って気になってたんだ。だからこれ、トキワだと思って大事にする」
そっと天然石の部分を愛おしげに両手で包み込んで命は目を伏せた。トキワはまるで自分が抱きしめられている様な気分になって幸せな気持ちに包まれた。




