68離れたくない4
三時間ほど馬車に揺られ、ようやく港町にたどり着いた。思えばトキワと初めてだと気付いた命は新鮮さを感じた。着くなりトキワは命と指を絡めて手を繋ぐ。まるで恋人同士のような繋ぎ方に命の胸は高鳴る。
今日の予定は昼食を食べた後にトキワの誕生日プレゼントを選ぶ予定だ。
「きゃー!泥棒っ!」
どこの店に行こうか二人で相談していると、後方から若い女性の悲鳴が聞こえてきた。振り返ると女性物のバッグを持った男がこちらに向かって走ってきた。
命はトキワの手を振り解き体勢を低くして構えてから、男に回し蹴りを入れた。男は吹っ飛んで転倒すると、近くにいた冒険者と思わしき男達に捕われた。
地面に落ちたバッグを拾って付いた土を払い、命は若い女性に差し出した。
「ありがとうございます!」
「この町は治安がいいけれど、理由を知らない余所者がたまに悪さをするから気をつけてくださいね」
港町にいる冒険者や買い物客に水鏡族が多く、ひったくりや立てこもりなどといった犯罪は彼らによって制裁されるので、迂闊に手を出す者は少ない。現に命のような少女でさえこのように反撃に出るので、人質にするなど以ての外だ。
「まったくちーちゃんは……せっかくのワンピース姿なのに」
「ショートパンツ履いてるから大丈夫だもん」
「向こうに行ったら俺たちがフォロー出来ないんだから自重してよね」
「はーい、気を付けます」
相変わらず面倒ごとに首を突っ込む命にトキワはため息を吐きながら再び彼女の手を取ると、歩き出す。
昼食は海水浴場が見えるレストランにした。ランチタイムなので手頃な値段で食事を楽しめる。
テラス席に案内されたので二人は外の様子を見て注文の品を待つ。海水浴場には家族連れやカップル、友人同士など様々な客で賑わっていた。
「いい景色だね」
先に頼んでいたアイスティーを飲んでから、トキワは空と海の青さに目を細めた。
「見てあのお姉さん、すごい水着!」
興奮気味に命が指差す方にセクシーなビキニを着た女性がいた。トキワは呆れた顔で命を見ると、氷を一つ口にして噛み砕く。
「あれほとんど紐だよね。ポロリしちゃったらどうするんだろ」
「ちーちゃんて変態なんだね」
「ふ、普通でしょ?セクシーなお姉さんを見たら男女問わず釘付けになっちゃわない?」
変態呼ばわりされた命は不服そうに反論する。トキワだって年頃だから多少は同意してもらえると思ったのだ。
「俺はちーちゃん以外に一切興味無いから」
頬杖をついて自信ありげにトキワは命を見つめる。ストレートに愛を説かれた命は面食らうも、一矢報いたくて抵抗する。
「じゃあ私があのビキニを着たらどうする?」
「あれを?」
よく見てなかったので、トキワは確認のため水着の女性を一瞥すると、首を振って嘲笑した。
「あんなの着たら、ちーちゃん絶対恥ずかしくて泣いちゃうよ?」
命が露出の高いビキニを着て魅力的かどうかでは無く、着る勇気が無いだろうというトキワの結論に命は悔しい気持ちと、よく自分のことを分かっているなと感心してしまった。
「でも帰ってきたら海水浴一緒に行こうよ。その時は可愛い水着を着てね?」
なるほど、トキワはセクシーよりキュートの方が好きなようだ。命はいつか着るであろう水着のタイプを頭の片隅にメモしていると、頼んでいた料理が到着したのでトキワと昼食を楽しむ事にした。




