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65離れたくない1


 いつかきっと、絶対にトキワに好きだと伝える…



 そう誓ってもう何年経ったのだろうか…結局命は伝えることが出来ないまま春に学校を卒業した上に既に十六歳になっていた。

 告白する機会は何度だってあった。約束通りまた一緒に精霊祭に行った時もいい雰囲気だったのに言えなかった。一緒に薬草園の手入れをしたり、トキワの修行の合間に話をしたり、勉強を教えたりと二人で過ごす時間はたくさんあった。それなのに、命はその心地よい関係に身を委ねてしまい、今日まで告白できずにいた。


 命は意を決して診療時間を終えた桜に相談することにした。


「このままじゃ駄目だとはわかっているんです!」

「何が?」


 一体命が何を言いたいのかわからない桜は差し入れのスープを一口飲んでから問いかける。


「……トキワとの関係です。このままうやむやな感じはよくないなーなんて」


 思えば桜にトキワのことで恋愛相談をした事が無かった命は今更恥じらいながら相談を持ちかけた。


「お前たち付き合ってるんじゃなかったのか?」

「付き合ってません……」


 既に二人が交際しているものだと思っていた桜がぽかんとするので、命は気まずそうに否定する。


 ここまで仲が良いなら付き合っていると勝手に決めつけても良いのかもしれない。桜から見ても付き合ってると思われているのだし。しかしそこははっきりさせておきたいという気持ちが命にはあったが、勇気が出せないままである。


「会うたび好き好き言ってくれるけど、私もって言うタイミングをずっと逃しているんです」


「言うのが出来ないなら書けば良いんじゃないか?」

「手紙…その手もあるか」


 手紙なら少しは素直になれるだろうか。命は三冊目に突入した二人の交換日記に書いてみようかと思案する。


「どちらにしてももう時間は無いんじゃないか?お前八月に村を出るんだから」

「……そうなんですよぉ」


 命は九月からナースの勉強をするため、三年間水鏡族の村から片道一週間程かかる場所にある学園都市の医療学校へ入学する事になっていた。つまりトキワとは告白しても遠距離恋愛になってしまうのだ。


「ちなみにだが、村を出ることは勿論トキワくんに言っているんだよな?」

「あ……」


 トキワに気持ちを伝えようとすることで頭がいっぱいだった命は八月から村を出ると一切伝えて無かった事に気がついた。これには桜も苦虫を噛み潰したような顔を浮かべた。


「どうしよう、でもお義兄さんとかから聞いてるかもしれないから知ってはいるんじゃないかな?」

「だといいが。トキワくんはちーからちゃんと聞きたいんじゃないか?」

「ですよね。今度会う時言います」


 自分がこの村を離れると言ったらトキワはどんな顔をするだろうか。想像するだけで命の胸は痛む。


「だけど遠距離恋愛って続くのかな……」


 連絡手段はせいぜい手紙くらいで、お互い学生でお金も休みもないし、命は学業の合間に下宿先で働くので会うことは叶わないだろう。そうなると人肌恋しくなって身近な人間を好きになってしまうかもしれない。


「……続かないだろうな」


 思ってもいない桜の残酷な宣告に命は動揺する。桜なら背中を押してくれると思っていたのだ。


「いっそ身を引いた方がお互い楽だと思うぞ」


 桜の言うことは尤もだと分かっているのに、命はどうしても納得出来なかった。


「まあ時間は無いけど、せいぜい足掻いてしっかり選ぶといいさ」

 

 その後家に帰ってからも結局答えは見つからないまま命は悩み続けていた。とにかく明日トキワに会った時に村を出ることは絶対伝えよう。これだけは決意してその日は考えるのを止めた。


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