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64魔力の増やし方3

 お茶をして一息ついてから、命は二冊目の本を手に取り読み進めて行く。


 本には祈の話していた通り、水鏡族が婚礼時に行う水晶の融合分裂を行う事により配偶者の属性が加わる事がたまにあるし、魔力が少ない者は魔力の多い配偶者に引っ張られて魔力が増えるらしい。ちなみに減ることはないらしい。


「つまりこれって自分より魔力が多い人と結婚しろって事か……」


 結婚という言葉から命はいつぞやの模擬挙式の時を思い出して顔が熱くなって掌で仰ぐも、火照りが消えないため外に出てみる事にした。既に辺りは薄暗くなっている。


 ひんやりとした空気が火照った顔に心地よい。レイトはヒナタの様子を見に家に戻っていたので、トキワは雪かきを終えて次は雪だるまを作って遊んでいた。次々と作っている為、診療所の周りは雪だるまの集団に取り囲まれていった。


「ねえ、トキワ聞きたいことがあるんだけど」

「聞きたいこと?好きな女の子ならちーちゃんだよ」

「そうじゃなくて、トキワの魔力ていくつ?こないだ学校で測ったでしょ?」


 命の質問にトキワは無邪気に微笑んだ。


「わかんない」

「なんで?」

「測ったことが無いんだよね。父さんが言うには乳児検診の時に測定器をぶっ壊したから測定禁止なんだって」


 つまり魔力が多すぎて測定不能だということか。魔力が多いと多いで苦労もあるらしい。


「ちーちゃんは魔力どの位なの?」


 出来れば聞かれたくなかったがこっちが聞いてきたのに答えないのはずるいと思い命は素直に答える事にした。


「私の測定値は十段階中二。少ないから今日はどうやったら魔力を増やせるか調べてたの」

「それで何か分かったの?」

「魔力の強い人と……結婚したら増えるんだって」


 照れ臭そうに話す命にトキワは一瞬驚いた顔を見せたが、次第に穏やかな笑みを浮かべた。


「ちーちゃん、それって俺にプロポーズしてるよね?」

「ち、違っ!!」


 せっかく外の空気でひんやりしてきた命の頬が再び火が出そうなくらい赤くなる。その姿が愛おしくて、にやにやしながらトキワは歩み寄り手を伸ばすとそっと抱きしめた。


「可愛いなあ、本当に好きだなあ」


 熱を帯びた言葉に反して、冷え切ったトキワの身体が火照った身体には心地良くて、命は戸惑いつつも受け入れた。


「俺、絶対強くなって必ず守るから、その時はずっと俺のそばにいてね」


 命の事を守るため強くなりたい。彼女が死んだと思った時、我を失って魔力を制御できない位の絶望をもう味わいたくなかった。


「……もうじゅうぶん守ってくれてるよ」


 微かな声で命は呟く。トキワからいつも可愛いと褒められていくうちに外見に関するコンプレックスや卑屈さも減ってきた。父が亡くなった時も支えてくれて、我慢してた涙も優しく受け止めてくれた。顔面の右半分に傷を負った際にはどんな姿でも大好きだと言ってくれた。言われた時は綺麗事だと思ったけど、あの言葉があったから光の神子からの治療を拒否する勇気があった。


「トキワ、私も……」


 今なら素直な気持ちを伝えられそうだったが、命は急に周囲の大量の雪だるまが一斉に溶け始めたことに気付き言葉を詰まらせた。トキワも変化に気づくと、げんなりとした顔になった。


「父さんと母さんだ。晩飯に激辛麺食べに行くって言ってたんだよね」


 トキオと楓が現れるであろう方向を一瞥してぼやいてから、トキワは命をしっかり抱きしめたまま見つめる。


「そんなことより何を言おうとしてたの?」

「えっ、いや、その……」


 このままではトキオと楓にイチャついてるのを見られてしまう焦りから命は言葉を詰まらせた。


「また今度…ちゃんと、二人っきりの時に言うね?」


 最近すっかり先延ばしの癖が出来てしまった事を心の中で嘆きながら、やんわりとトキワの腕を解いた。


「期待してるね」


 そう言ってトキワは少し長めに命の右頬に口付けてから、人間融雪機となっている両親を迎えに行った。


 

 

 



 

 

 




 

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