63魔力の増やし方2
次の休日、命は神殿内にある図書館に来ていた。ここは村一番の蔵書を誇るので、魔力が強くなる方法が載っている本があるかもしれないと、淡い期待を抱いていた。
しかし見た所、各属性の魔術書はあっても、魔力を強化する本は、どこにも見当たらなかった。
「あらあなたは確か……」
声を掛けられた方を振り向くと、トキワの叔母で、炎の神子の暦がいた。神殿内だし、確か彼女は図書館の館長なのてわ、遭遇するのは当然の事ではある。
「トキワの彼女ちゃんよね?」
「違います」
両想いを自覚してはいるが、命は未だにトキワに想いを伝えきれず、友達以上恋人未満の関係が続いているため、そこは否定した。
「そうだったの?残念。今日は調べ物かしら?」
特に深く言及する事なく、暦は命が図書館に来た理由に興味を持った。
「じつは私、魔力量が少なくて……それで多くなる方法を調べに来たんです」
魔力の塊のような神子の暦に相談するのは気が引けたが、命は素直に事情を説明した。
「なるほどね。その件については、こっちの棚にある本の方が詳しい筈よ」
暦は命に該当する本がある棚まで案内して、三冊の本を取り出した。
「この本は貸し出し可能だから、借りてからゆっくり読むといいわ」
「ありがとうございます!」
「もしこの本を読んでもわからない事があったら、いつでも聞いてね」
先に調べて知識を得た方がいいと判断した暦は命に本を読むことを勧めた。元々読書は好きな命は喜んで本を借りて、家に帰る事にした。
「ちーちゃんおかえり!」
家に帰ると、トキワがレイトと雪掻きをしていた。魔術で風を操れば、簡単に出来そうだが、体力と筋力を鍛えるために、自力でやっているようだ。
命はトキワの髪の毛に視線を移す。魔力不足とはまるで縁がなさそうな、睫毛まで銀色の髪が羨ましいを通り越して、恨めしかった。
「ただいま」
返事だけして命はトキワに背を向けて家に入ると、自室で本を読もうか悩んだが、寒いので暖炉でよく温まったリビングで読む事にした。
一冊目の本には魔力量を自力で増やすのは不可能という結論が書かれていて、命は早速打ちひしがれる。
いっそ筋肉を鍛えて、弓矢で殴りつける戦闘スタイルにしてしまおうかと、命が迷走していると、祈がお茶とお菓子を用意してくれた。
「だいぶ煮詰まっているようね」
「お姉ちゃん…」
「あれから私ももう一度、診療所で魔力測ってみたんだけど、八に上がってたのよね」
「自慢か!」
完全に捻くれている命に祈は苦笑して、まあまあと宥める。
「それで思い出したことがあるんだけど、水鏡族って結婚する時に水晶を融合分裂てのをするじゃない?多分あれが影響してると思うのよ。ほら、ちーちゃんが借りてきた本にもそんなタイトルの本があるじゃない」
命がまだ読んでない本の背表紙を祈は指して、手にする。
「ほらこれ『融合分裂によってもたらされる効果』て書いてる!お茶したら次はこれを読んでみたら?」
「本当だ。ありがとうお姉ちゃん」
「どういたしまして!ちなみにあと一冊の本は何が書いてるのかなー」
祈は残りの一冊の本を手に取りパラパラと目を通すが、次第に表情が固くなっていった。
「これは……ちょっとちーちゃんには出来ないことだわ」
「なんて書いてあったの?」
「魔力を得たければ魔力を多く持つ者の体液、特に生き血を摂取するのが好ましい。などオカルトな事が書いてます。しかも、文面からして魔力が増えるんじゃなくて、回復方法みたい」
「なかなか恐ろしいわね」
どうやら眉唾物の文献の様だ。それだけ魔力を手に入れるのは難しい事だと改めてわかり、命はしょんぼりと肩を落とすのであった。




