6美少女を拾ったつもりが…6
翌日、学校を終えた命はトキワの風邪の調子はどうだろうか?昨夜作っておいた牛乳プリンを一緒に食べようなどと、ワクワクしながら診療所に向かった。
この感覚を言葉にするなら、新しく弟が出来た。というのが近いだろうか。妹も勿論可愛いが弟もかなりいい。しかも美少年だ。桜に対して白い目で見ていたが、血筋なのか命も美少女や美少年が好きだった。卑屈な言い方をすれば、自分に無いものだからだと分析している。
「あれ?もしかして…」
診療所の外に大人と子供の人影があった。子供は自身の身の丈ほどの剣を素振りをしていて、大人はそれを腕を組んで見守っていた。
近づくにつれて、その二人がレイトとトキワだとわかった。トキワは姿勢もしっかりしてるし元気そうだ。命は距離を取って様子を窺う。
どうやらトキワは武器は両手剣のようだ。そしてレイトも両手剣なので、同じ武器を扱う者同士気が合ったらしい。
「なかなかいい筋してるな」
「ありがとうございます!」
「師はいるのか?」
「……剣の先生はいません。両手剣の訓練所は北の集落にあるから遠くて行けないし、魔術も苦手で何も出来ない」
しょんぼりと肩を落として寂しそうに呟くトキワにレイトは蹲み込んで視線を合わせると、口角を上げてニッと笑った。
「そうか、じゃあ俺の弟子にならないか?」
突然のレイトの提案にトキワは呆気に取られるが、すぐさま喜びに震えてレイトに抱きついた。
「なりたい!レイトさん!俺を弟子にしてください!」
ぴょんぴょんと飛び上がりながら、切望するトキワに日頃から弟子を取りたいと思っていたレイトは悪い気がしないようだ。トキワを抱き上げると高く掲げた。
「よし!今からお前は俺の弟子第一号だ!」
「やったー!師匠!よろしくお願いします!」
弟子にしてもらえた感謝で地面に下りてから勢いよくトキワは頭を下げた。レイトも満足げに笑っている。邪魔をするのも悪いと思い、命は静かに診療所に入ろうとしたが、トキワは見逃さず駆け寄った。
「ちーちゃん、おかえりなさい!あのね、俺レイトさんの弟子になったんだ!」
「ただいま、よかったわね。お義兄さん厳しいから泣かされたら慰めてあげるねー」
「うん!」
少し意地悪のつもりで言ったのだが、トキワには通じ無かったようだ。しかしレイトの修行が厳しいのは事実だ。
命も一度一緒に訓練をしたが、ついて行くのが精一杯で、あまりの過酷さにもう二度とやりたくないと叫んだものだ。
あの修行について行けるのは現在祈しかいないはずだ。昨日の温泉旅行も普通の人間なら歩いて三日はかかる道のりを加速魔術を使い、不休で走って日帰りだったのだから、あの夫婦は異常なのだ。
「お義兄さん、トキワは病み上がりなんだから今日はこれくらいにしてあげて。トキワも中でおやつ食べよう」
すっかり元気になっているとはいえ、昨日は熱が出て喉も声が出ないくらい腫れていたのだから、無理は禁物だ。しかも先輩の子供を預かっている桜の立場が危うくなってはいけない。
「確かにそうだな、トキワ今日はこれまでだ。おやつ食べてきな」
すんなり意見を受け入れたレイトは訓練を引き上げる事にした。
「やったー!ねえ、ちーちゃん今日のおやつはなに?」
天使のような破壊力を持つトキワの上目遣いに命はくらりと目眩を覚えた。この時初めて自分の年齢の割に高い身長に感謝した。
「じゃ、俺は一走りして来るわ」
まだ動き足りないレイトは返事を待たず風のように去っていった。夕飯には戻って来るだろう。命はすっかり慣れていたので、既に姿が無い義兄に向かって軽く手を振ってから診療所に入った。
「トキワは両手剣使いだったんだねー、属性は何?」
思えばこの子のことを何も知らない。牛乳プリンを食べながらトキワの事を知ろうと命は話題を振る。
「風の加護を受けてるよ。これも師匠と一緒だったからビックリした!ねえ、ちーちゃんはどんなの?」
なるほど、レイトが弟子にしたがる訳だ。西の集落では両手剣使いは少ないし、ましてや属性なんて炎、水、風、土、雷、氷、光、闇と様々なので同じとなれば親近感が湧く訳だ。
「私は弓使いで水属性。よく似合わないて言われるけどね」
よくお前はどう考えても氷か闇属性で鞭を振り回しているだろうと弓仲間にからかわれている。命はうんざりしながらも、お望みならばやってやろうと、ヤケクソで試しに鞭を使ったら案外楽しくて、時々鞭使いの同級生に手ほどきを受けている。弓自体の実力は平均的だと自己評価している。
「そうかな?ちーちゃんの横顔カッコいいから弓を構えたら似合うと思う。あとで見せてよ」
家族以外にそんなことを言われたことが無かった命は顔が熱くなるのを感じた。
「今のちーちゃんは可愛い」
命の顔が赤くなっているのに気付いたトキワは、はにかみながら眩しい笑顔で追い討ちをかける。もう止めていっそ殺してと褒められ慣れてない命は顔を背けた。