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58※残酷な描写あり 優しい魔女7

 命は楓に言われた通りに身体を休めるつもりでいた。背中の傷を考慮して、ベッドにうつ伏せに寝て、右側の顔を庇うような体勢で休もうとしたが、傷が痛み身体中から汗が吹き出てきた。止血していた傷口からも魔術が解けたのか、血が包帯やガーゼから滲み始めている。しかし命の魔力はほぼ無くなっていたため再度術をかけるのは叶わない。


「ちーちゃん!」


 ドンドンとドアが叩かれる音と共にトキワが名前を呼ぶ声が聞こえた。今の姿を見られたく無い命は慌てて火事場の馬鹿力でドアの前に家具を運んで塞ぐ。


「母さん鍵!早く!」


 どうやら楓も一緒らしい。つまりは闇の神子の件は片付いたらしい。命はほっと安堵のため息をつくが、このままトキワに見られるのは苦痛でシーツを頭から被り顔を隠した。


「来ないで!」


 部屋の中から命は叫んだ。


「ちーちゃん!無事なの?」


 次に祈の声が聞こえる。実からの伝言が無事伝わったようだと命は勘違いする。


「私は大丈夫だから、今は少し眠いからしばらく休ませて」


 本当は傷の痛みで全然眠くない。とにかく独りになりたかった。それどころか早く神殿から抜け出して誰にも見つからないようにこの村を離れたかった。

 しかし命の要望は叶わずドアが開錠されて開こうとされた。


「開かない!?どうしたのちーちゃん!開けて!」


 焦りが混ざった声でトキワはドアを開けるよう懇願する。とにかく一目でも命の無事を確認したかった。


「絶対駄目!後で開けるから今は放っておいてよ!」

「やだ!ちーちゃんに会いたい!」


 強情なトキワに命は苛立ちを感じ、部屋の壁を足の裏で思いっきり蹴った。


「お願いだから来ないで……今の姿をトキワに見られたら私、生きていけない!」


 命は泣きながらベッドに蹲った。泣いている命を放っておけないトキワはドアを何度もガチャガチャと動かす。


「どういうことなのちーちゃん?もしかして怪我してるの!?」


 祈の問いかけに命は泣き声を上げる。


「……命ちゃんは顔と背中にひどい傷を負っている」


 楓の一言に一同は驚愕し強く胸を痛めた。祈は辛さのあまりに泣き出しレイトに縋り付いた。


「ちーちゃん!俺はどんな姿になってもちーちゃんの事大好きだから!」


 ドアを叩き続けながら命への変わらぬ愛をトキワは伝えるがドアの向こうで命は首を振りながら否定する。


「そんな綺麗事聞きたくない!お願いだから独りにして」

「嫌だ!ちーちゃんを独りで泣かせたくない!」


 トキワは一旦部屋から距離を取り、足に風をまとわせ助走をつけて壁を蹴破った。空けた穴から部屋に入ると、ベッドの上で血に染まったシーツに丸まった命を発見した。トキワはシーツの上から愛おしげに命を優しく抱きしめた。



「……命ちゃん、うちのに責任取らせるから、大至急一緒に来てくれないか?」


 楓の語りかけにトキワは顔を上げて目を丸くした。


「えっ!それって俺がちーちゃんをお嫁にもらっていいって事?」

「あ、言い方悪かった結婚は違う。ていうかトキワ、お前壁の修理代小遣いから引くからな。話が脱線したが、命ちゃんの傷は母に、光の神子に絶対治してもらう。善は急げだ。行こう」


 楓の申し出に命は希望の光を見出して、トキワをやんわり押し除けて起き上がると、血だらけのシーツで顔を隠したままドアの前の家具を退けて部屋から出てきた。シーツの隙間から見える肌は青白く、赤い瞳は涙で濡れ服はボロボロで足は裸足だった。

 傷口が直接見えないものの、悲惨な命の出で立ちに祈は顔を歪めて命に抱きついた。


「ちーちゃん絶対治してもらおうね」

「うん…」


 祈は足取りが覚束ない命を支えて元気付けてから、光の神子が待つ部屋へ誘導する楓を追いかけた。レイトとトキワもその後に続いた。




 



 

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