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57※残酷な描写あり 優しい魔女6

「この馬鹿息子が!神殿をぶっ壊すつもりか!」


 神殿の入り口から現れたのは楓だった。周囲に炎を纏わせ顔を顰めて歩む姿はまるで女王の様だった。


「母さん、だって、ちーちゃんが死んで……」

「勝手に殺すな!!」


 再び絶望でトキワの風が強まりそうになったが、楓の一喝で風は完全に止んだ。


「命ちゃんは生きている。私が保護した」


 怪我を負っている事は伏せて楓は命の無事を告げる。祈はその言葉に安堵で声を上げて泣き出した。


「姉さん!!会いたかった…!」


 待望の楓の降臨に闇の神子は狂喜した。楓は蛇蠍のように彼を見てため息を吐く。


「イザナ、お前と会うのは今日で最後だ」


 両手の拳を突き上げて炎を呼び出した楓は冷たい視線で闇の神子を見据えた。


「トキワと師匠よ、倒れている神官を神殿に運んでくれ」

「わかりました」


 レイトは楓の指示に従い闇の神子の動向に気を配りつつ、倒れている神官達を担いで運ぶ。トキワも神官に風を纏わせ移動させていく。全員を運び終わると、楓がトキワに手招きした。


「師匠とお嬢さんは一旦神殿に下がって。トキワお前は残れ」


 楓の進言通りレイトは祈を連れて神殿へ向かう。トキワは緊張した面持ちで楓の隣に立った。


「いいかトキワ、あいつは……イザナはかつて私の弟だったが今はもう人じゃない、魔物だ。私は今からあいつを全力で燃やすから…見届けてくれ」


 闇の神子はこちらを攻撃する様子はなく、ただ立って不気味な笑みを浮かべている。


 楓は両手を前に伸ばして火柱で闇の神子を包み込んだ。ダメージを受けている様子はまるでない。


「姉さんの炎、綺麗だ…」

「どうやら痛覚が無くなっているらしいな」


 炎を止めることなく、楓はじりじりと闇の神子に歩み寄る。


「母さん!?」

「来るな!これは私の戦いだ。そこで見ておけ」


 近寄ろうとするトキワを楓は制止して、闇の神子へ歩みを進めると炎の中で彼を抱きしめた。


「姉さん…」

「これは私からのせめてもの弔いだ。イザナ、安らかに眠れ」


「ありがとう、姉さん…」


 楓が魔力を強めると次第に闇の神子の身体は焼き尽くされ炭から灰となり、そして残った魔核は音もなく崩れ去った。


「イザナは死ぬために……私に殺される為にここに来たんだろうな。わざと戻れないところまできて」


 俯いて消えた弟を想い呟く楓をトキワは後ろから労わるように抱きしめた。


「お前にも嫌な思いをたくさんさせたな。謝っても謝りきれない……」

「いいよその話は。今日でおしまい。そんなことより早くちーちゃんに会わせて。どこにいるの?」

「私の部屋だ」


 命の安否が気になるトキワは素早く気持ちを切り替えて、楓から離れると神殿内へ入っていった。楓は一度振り返り灰となったイザナに静かに別れを告げた。


「さようなら、イザナ……」

「母さん早くして!」


 感傷に浸る間も無くトキワが急かすものだから、楓は小さく笑い神殿の自室へと向かった。



 

 

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