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54※残酷な描写あり 優しい魔女3

 闇の神子に拘束されたまま命は神殿の門前まで連れてこられた。明らかに不審な様子に門番の神官は身構える。


「炎の神子……今は違うな。光の神子の娘、楓を出せ!さもなくばこのお嬢さんの安全は保証しない」


 やはり闇の神子の目的はトキワの母親である楓だった。以前聞いた話によると、彼は姉である楓に恋愛感情を持ち関係を迫った結果、周囲に暴力を振るい幽閉され、トキワが三歳の時に神殿から逃走して、楓達の前に現れてから再び囚われ、次は何もない島へと連れて行かれたと聞いていたが、今回は魔物との契約を交わして島を抜け出し、ここまで戻ってきたようだ。


 門番の神官の一人は闇の神子に背を向けない状態でじりじりと後ずさると、伝令のため神殿の中へ消えていった。もう一人は人質である命を解放すべく武器である槍を構えて思考を巡らせているようだ。


 今の実力じゃ闇の神子を倒すことは出来ない…悔しいけれど命はその位分かっていた。ならば今できる事は他の戦士の足でまといにならず、時間を稼ぐことだ。既に人質になっているから足でまといなのは認めるが、この状況を脱して汚名を返上するつもりだ。


 まずこの拘束を解きたい。魔術で出来ている様だが、そこまで強度は高くなさそうだ。膝は拘束されていないので足の曲げ伸ばしも出来る。これなら闇の神子が他の魔術を発動した隙に解除出来るかもしれない。


 伝令が届いたのか、神殿から次々と武装した神官達が現れた。流石にこれなら勝てる。後は自分がこいつから離れないと……命は闇の神子の様子を窺うと、敵に囲まれているというのに涼しい顔をしていた。


「気をつけて!この人は闇の神子で魔物と契約している!」

「闇の神子……それは昔の話だよ」


 命の警告に一同が動揺する一方で闇の神子は左手を前に出し、魔術を発動した。


 すると、彼の影から黒い獰猛な猛禽類のような形をした影が大量に発生し、神官達に襲い掛かってきた。


 神官達は果敢に一体一体倒していくが、影の数が多い上に次から次へと湧いて出てくる。



 魔術がそっちに集中している今なら何とかなるかもしれない。


 命は集中して全身から水の刃を発生させて、闇の神子からの拘束を解くと、即座に距離を取り右耳のピアスに触れて弓を作り出す。そして力を込めて水の矢を弾き、猛禽類の形をした影を複数射て霧散させた。


「あーあ、逃げちゃった。本当にお転婆さんだ」


 人質である命が解放された事により、神官達は本領を発揮した。槍を持った神官が闇の神子に切りかかり、一閃を浴びせるが、闇の神子は余裕の笑みを浮かべている。


 命は止め処なく発生する影に多量の弓を弾き、近くに来た影は蹴りで対処する。魔力切れを起こす前に倒せたらいいが、それが無理ならそうなる前に神殿内に撤退した方がいいだろう。


「下がれ!」


 神官の一人が魔術を展開させると、天から雷が降り注ぎ一気に闇の神子の使いは消滅する。流石は神殿に仕えるだけある。


 それを合図に数人の神官が攻撃を仕掛けた。強力な魔術が黒衣の闇の神子に降り注ぐ。


「邪魔だ!」


 闇の神子が踵を二回踏み鳴らすと、神官達の足元に黒い沼が発生して彼らを捕らえ、沼の中に徐々に飲み込んでいった。


「安心して、遠くに追いやっただけだから。僕ってば優しい!」


 手練れの神官達の登場にこれでどうにかなりそうだと命は期待していたが、一筋縄では行かず悔しさで歯軋りをした。


「でも、このまま姉さんが来ないと誰か殺っちゃうかもね」


 冷酷に笑い闇の神子は猛禽類の影に加えて、今度は狼の形をした影をまたもや大量に生み出す。


 神子の魔力の高さは普通の水鏡族の数倍、高位の者になると無尽蔵と言われている。光の神子と対をなす闇の神子となれば無尽蔵だと考えても過言ではない。


 神官による二度目の雷撃で影は一掃された。また大量に沸く前にと、残された神官達は一斉に遠距離から魔術をぶつけて始める。


 命も負けじと深呼吸をして精神を統一すると、闇の神子に矢を射った。矢は心臓を貫通した。既に魔物と成り果てているとはいえ、人を殺める感触の悪さに命は顔をしかめる。


「すごーい!ハートをズキュンと射ち抜かれちゃったー!でもごめんね、僕は姉さん一筋だから」


 まるで手応えがない闇の神子の様子に命を始め神官達に絶望感が芽生え始めた。


「光の神子は何してるんだ…」


 恐らく唯一闇の神子に対抗出来るであろう光の神子が現れない事に神官は不満を漏らす。


「残念だったね。母は…光の神子は来ない。来れないんだよ!僕の水鏡水晶を取り込んでいるから、近寄ると僕が水晶を手に入れてしまうからね。さて、僕を倒せるかなー?」


 闇の神子が三度目の召喚を行えば、先程の倍の量の影達が襲いかかって来た。ここまで来ると命が出来る事は自らを守るため防壁を張る事だけだ。諦めて一旦退こう。そう思い神殿の入り口に視線を移すと、中から小さな子供を連れた親子が出てきた。


「危ない!」


 礼拝からの帰りだろうか。伝令が行き届かなかったらしい。命は防壁結界を母子を守る様に展開させたが、即座に破られてしまったので急ぎ身を呈して闇の神子の眷属に立ちはだかった。


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