5美少女を拾ったつもりが…5
「おいしい!ちーちゃんありがとう!」
夕飯のリクエストはまさかのプリンだった。まさかプリン以外の食べ物を知らないのかと命は危惧したが、ただ単にもっとプリンが食べたかったらしい。
買ってきたプリンは残っていなかったが、材料はあったし、何より食べたいものを作ると言い出したからには約束を違えるわけにいかないと命は謎の正義感で作ったのだ。
「こんな大きなプリン初めて食べた!おやつに食べたプリンよりもおいしい!」
蚊の鳴く様な声ではあるがテンションは高いらしくトキワはニッコニコでプリンを語る。それにしてもいつの間にちーちゃんと呼ばれる様になったのか。おそらく自己紹介をちゃんと聞いておらず、桜を始め薬草摘みから帰ってきた命の父親と妹が、そう呼んでいたからだろう。しかし彼の口から紡がれるのは悪い気はないので、命は気にしないことにした。
「ほーんと、ちーは見た目に似合わず料理が上手いなー」
同じ食卓で桜は命の作ったマカロニサラダを食べながらニヤリとする。
「失礼なんですけどー」
「いやだって料理とか手が荒れるから一切しないタイプに見えるし」
初対面の人間はきっとこの娘は性格がキツくて冷たい、家庭的で無い人間だろうと判断してしまいそうなくらい、命の容貌は良く言えば大人びていた。本人としては実際早熟だし、いつもニコニコして変な奴に絡まれる位なら、他人に悪い印象を持たれる方がマシで、分かってくれる家族や友達がいるから平気だった。
「ちーちゃんの作ったご飯も食べたい!」
プリンを食べた後にも関わらず、トキワは命が作った料理に興味を示した。元々トキワの分も作っていたので、命は台所に行ってマカロニサラダとミネストローネと白身魚のムニエルを盛り付けてトレーに乗せると、トキワに出してあげた。
しかし野菜がたっぷりと入ったミネストローネに少し表情を固まらせた。どうやら野菜が苦手らしい。それでもお願いした手前やっぱり食べられないとは言えず、トキワは恐る恐るスプーンでミネストローネを掬って口に運んだ。
「おいしい!」
目を輝かせてトキワがミネストローネを絶賛したので、命はホッと胸を撫で下ろした。ムニエルも魚が嫌いなのか最初は小さな一口だったが、こちらもお気に召したのか、次々と口に運んで行き、用意された料理を残さず全て平らげた。
食後に命は着替えを取りに一旦帰宅した。リビングには日帰り温泉旅行から帰ってきた姉夫婦が仲睦まじくティータイムを楽しんでいた。
「おかえりちーちゃん。一緒にお茶しない?」
六歳離れた姉の祈は、命とは違い、母親似の柔和な目元で、ボーイッシュなショートヘアなのに可憐さを感じる。父親の目元も比較的優しく、どちらかというと垂れ目なので、命は自分は捨て子だったのではないかと危惧していたが、桜曰く、祖母の目元に瓜二つらしい。身長は同じくらいで近々姉を超える日も近いなと命は腹の中で自嘲した。
「ごめん、また今度。しばらく診療所に泊まる事にした」
「重病人がいるとは聞いてないけど、どうしたんだ?」
祈の夫であるレイトは率直な疑問を投げかける。最近義兄になって日が浅いレイトに対して、適当に話を流せば溝が出来ると感じた命は、面倒だが素直に事情を話すことにした。
「なるほど、家出少年を匿っているわけだ。それでそいつは武器は何使ってんの?属性は?」
レイトが興味を持ったのはトキワの複雑な家庭の事情ではなく、戦闘面だった。一見レイトは涼しい切れ長の目元が印象的な戦闘とは無縁そうな美男子だが、中身は戦闘狂そのもので、日々トレーニングを欠かさないし、仕事も西の集落の自警団に所属して、警備という名目で魔物やお尋ね者を狩り、休みの日は港町の方でギルドの依頼もこなしている。
「属性は多分風かな?武器はわかんない。元気になったら聞いてみるよ」
トキワの左耳のピアスはエメラルドグリーンだったから、恐らくは風属性だ。もちろん実際どうかは訪ねてみないと分からない。
着替えを用意してから命が診療所に戻ると、トキワは既に眠っていた。連れてきた時よりは元気になったようだが、まだまだ療養が必要そうだ。
「ちーにおやすみするまで寝ないて言ってたが、眠気に負けたみたいだ」
可愛らしい寝顔を前に、腑抜けた顔して桜は経緯を説明する。
「遅くなってごめんね、おやすみトキワ」
起こしてしまわないよう命はトキワの髪を優しく撫でてから囁くと、桜と病室を後にした。