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48恋せよ乙女3

 翌日命たちは早起きをして粧しこみ、港町へ向かった。命は手先が器用な南に編み込みが施されたポ二ーテールにしてもらい上機嫌だった。


 港町では若い女の子に人気の洋服屋に行き、互いに似合いそうな服を選びながら盛り上がった。


「ねえ、このブラウス命に似合うと思うの!着てみて!」

「そのブラウスならスカートはこれとかどう?」


 自分の服よりも先に南と樹はデート服にと命に黒レースのブラウスと白の膝丈のフレアスカートを差し出すと、有無言わさず服と共に命を試着室に放り込んだ。早速スカートを履いてブラウスに袖を通したが、胸周りが窮屈で、ボタンを止めるとはちきれてしまいそうだった。


 買う前の商品を壊すわけにいかないので、ボタンを全部止めるのは断念して、試着室のカーテンから顔だけ出して南と樹に事情を説明した。


「あー……そっか、サイズの事考えてなかったわ。ごめんね」

「私としては胸が大きくて命が羨ましいと思うけど、こういう時は大変なんだね」


 同情してくれる南と樹に命は申し訳ない気持ちになりつつ、このままだといつも通り大きめサイズの地味な服になりそうだが、それで二人が首を縦に振る気がしなかった。


「うーん、じゃあこれ買った後、手芸店で似た色の生地とレースを買ってサイズを直してみる。よく桜先生にしてもらってるし、精霊祭までには間に合うと思う」


 親友達の気持ちを無碍にしたくなかったし、デザインも気に入っていたので命は工夫する事にした。


「出来るならそうした方がいいよ!そのブラウス命が来たら絶対可愛いし!ね、南」

「うん!当てた感じピッタリだよ」


 純粋に絶賛してくれる二人に命は頬を緩ませてから、今度は自分が二人のために勝負服を選ぶ事に専念した。


 服を選んだら、次はアクセサリーを見たり、服に合う鞄や靴なども見て回った。命は家にあるもので作れそうと考えてしまい、服以外は結局何も買わずじまいだった。


 買い物を済ませた三人娘はフルーツと生クリームがたっぷり乗ったパンケーキが有名なカフェで昼食を取る。歩き疲れた体に甘いものは格別だった。


 そして手芸店に寄って命のブラウスの補正に必要な材料を購入してから、各自家族にお土産を買い、待合馬車に乗って村へ戻った。


 村に着いたらお泊まりグッズを南の家に置いていたので取りに行き、そこで各自解散となった。


「命、頑張って誘ってね!」

「今度確認するからね!」

「う、うん…じゃ、また学校でねー」


 南と樹に出来れば忘れたかった事を念を押されて、命は顔を引きつらせ、手を振り両脇に荷物を抱えて家へと歩き出した。


 家と診療所が見えてくる頃には今夜の夕飯と思われる肉料理の匂いが命の空腹をくすぐった。


「ちーちゃんおかえり!」


 家の前で腕立て伏せをしていたトキワが命の帰宅に気づき、忠犬の如く駆け寄る。


「ただいま」

「その髪型すっごい可愛いね!ワンピースも似合ってて可愛い!あーもうずっと見ていたいー!」


 デレデレになりながらトキワは今日の命の服装を褒める。褒められたこともあるが、昨夜彼への恋心を自覚したばかりなので、命は赤面してしまう。


 このままではトキワに胸の内がバレてしまう。両想いならバレても問題ない気もしたが、彼女の中でまだその時じゃないと判断していた。


「ねえ、ちーちゃん。今度の精霊祭、一緒に行かない?」


 まさかトキワの方から誘ってくると思わなかった命は私もそう思っていた一緒に行こうと言えばいい話なのに、素直になれなかった。


「ごめん、精霊祭はみーちゃんと行く予定だから…!」


 結局逃げてしまったと思いつつも、命はこの場を凌ぎたかった。


「実ちゃんなら友達と行くって言ってたよ?」


「じゃあお母さんと行こうかなー?」

「光さんは師匠と祈さんがデートしてる間ヒナちゃんの面倒見るから行かないって」


「桜先生と…」

「桜先生はいつ患者が来てもいい様に診療所にいるってさ」


 まさか完全に先回りされて逃げ道を塞がれるとは…こんなことならもっと早くに実と出かける約束を取り付けておけば良かったと命は己の準備の悪さを恨んだ。


「俺じゃダメ?」


 少し寂しそうに問いかけるトキワに命は罪悪感が湧き上がるが、それでも首を縦に振る勇気が無かった。


「ほ、保留でっ!」


 先延ばし宣言をすると、命は逃げる様に家の中に入り自室に飛び込んだ。


 荷物を降ろしてから命はベッドの上でしゃがみ込み頭を抱える。自分がこんなにも意地っ張りで天邪鬼だとは思っていなかった。


 一体これからどうすればいいんだと頭を悩ませている命はふと机の上に置いてあるハードカバーノートが目につき、手に取る。このノートは命がトキワの誕生日にプレゼントしたもので、後日トキワからこのノートで交換日記をしたいと申し出があって始めたものだ。


 ノートにはトキワの命に対する想いがびっしりと綴られていた。拙いながらも丁寧な字で今日の服装や髪型を褒めたり、命のいい所や可愛い所、好きな所など惜しみなく書かれていて、読む度顔が真っ赤になりながらも、温かい気持ちになり自尊心が満たされていた。


 一方で命は返事をせずにトキワの苦手な科目の勉強を出題していた。思えばまるで交換日記にないってない事に気づき、命は思わず吹き出した。


 そうだ、口に出せないなら文字で返事をしよう。命は新しいページに胸の高鳴りで震える手でペンを持って、一言だけ書くと、自室を出て勢いよく階段を降り家から出て、今度はクロスクランチをしていたトキワの腹の上にハードカバーノートを置いた。


「私が家に入ってから読んで」


 そう言って命はまた家に入っていった。言われた通りにトキワは彼女を見送った後、ノートを開くとたった二文字だが待ち望んでいた言葉を目にした。



 「行く」



 広いノートの一ページにそれだけしか書いてなかったが、トキワは愛おしさを感じてノートを抱きしめた。


 




 





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