47恋せよ乙女2
その夜、南の家に集まった命を始めとする少女三人が各々とっておきのネグリジェを着て、大方祈が言ってた通りの話題で菓子を摘みながら盛り上がっていた。
「今度の精霊祭はハヤトくんと二人で行く事になったの…」
昨年の精霊祭でハヤトと交際する事になった南はその後順調に愛を育んでいた。
「付き合ってちょうど一年目の記念日になるんだよね!精霊祭が記念日とかすごいロマンチック!」
そう言ってはしゃぐのは命と南の親友である樹だ。日頃はこの三人で行動することが多かった。
「樹だってアスカ先輩と行くんでしょ?」
「そりゃそうだけどー!先輩どんな服が好みかな?やっぱりスカートは外せないよねー!」
樹は先月から一つ年上のアスカと交際を始めている。言ってしまえばフリーなのは命一人だけだ。命はニコニコと親友二人の恋愛事情を聞きながら、普段夜には絶対食べないと決めているクッキーを口にして、その甘さと背徳感から悦に浸る。
「それで、命はどうなのよ?」
「私?妹と一緒に行こうかなーなんて考えているけど?」
南の問いに命はのほほんと紅茶を飲みながら答える。
「例の彼とはあれからどうなったの?」
南の追求に命は腕を組んで考え込む。彼と言われて思い当たる人物がいないからだ。
「ああ!あの彼ね!ほら、去年の模擬挙式で一緒になった銀髪のすっごい美少年!」
先に樹が南の言ってる人物に気が付き説明をした事により、命はトキワのことだと気づき、胸の鼓動が早まるのを感じた。
「そうよ!紹介してくれるって言ってたのに!他の子に聞いても、とにかく美少年とか、天使すぎるとかしか言わないの!」
「あー…きっと本当に天使だったからもうこの村にはいないのかもねー」
苦しい言い訳をする命に南と樹は厳しい視線を向ける。これは素直に話さないと今夜は眠らせて貰えそうに無い。命は腹を決めた。
「えっとー、あの子はうちの義兄の弟子で、ちょっと私に懐いてるだけです」
これで完璧だと言わんばかりにふふんと胸を張る命に南と樹は白い目で見る。
「くっ、自分で言うのも恥ずかしいんだけど……めちゃくちゃ好かれてます」
観念し背中を丸め顔を俯かせて正しい現状を命が白状すると二人は黄色い声を上げる。
「何それー!年下の美少年に好かれるとか最高じゃないー!」
クッションを抱きしめて足をバタバタして樹はテンションを上げる。南も両頬に手を当ててうっとりとする。
「でも三つ年下だし、まだ子供っぽいから彼氏というより弟ていう感覚がまだ強いし……」
家族には中々吐露できない心情だが、命は同い年の親友たちには自然と顔を赤くして話す。
「好きなの?その美少年くんのこと」
「……好きか嫌いかで言えば好きだけど、それが恋愛感情かって聞かれたらわからない」
それは当初からの命の考えだったが、南と樹はニヤニヤしながら命に卓上に置いてあった手鏡を見せてきた。
「この顔を見ても恋愛感情は無いって言えるの?」
樹に問いかけられて命は鏡に映る自分を見る。顔を耳まで赤くして熱っぽく瞳を潤ませた命の表情はどこからどう見ても恋する乙女だというのが親友二人の結論だった。
「いやいやでもほんと子供だし……」
この期に及んで認めようとしないい命に樹は命の両肩に手を置いた。
「あのね命、男は一生子供だから!」
樹の持論に南もうんうんと頷く。
「ハヤト君も最近急に背が高くなって、大人っぽくなったなって思うけど、相変わらず子供っぽい所あるよ」
「でも老けた私とじゃバランスが……身長だって私の方が頭一つ高いんだよ?」
続いて見た目について自虐する命に二人は揃って首を振る。
「老けてない!命は可愛いんだからもっと自信持ちなよ!それに身長なんて直ぐに追いつくし、追いつかなくても女の子の方が背が高いカップルだって割といるじゃない。ほら保健の先生とか旦那さんの方が低いけど素敵な夫婦だし」
「あ、確かに…」
次々と南と樹に論破されていくうちに命はトキワに対して今まで悩んできたのが不思議なくらい前向きな気持ちになってきた。
「ねえ命、美少年くんを精霊祭に誘ったら?」
「南それ名案!じゃあ命も明日の買い物でデート服選びだ!」
本人そっちのけで盛り上がっていく二人を他所に命は自覚してしまったトキワへの恋心で胸がおかしくなってしまいそうだった。




