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46恋せよ乙女1

 今年も精霊祭の季節が近づいてきた。とは言っても今回は南の集落が主催なので、西の集落に住む命は特に仕事は無く、民族衣装も着ないので、当日はのんびりと楽しめる。


 命は学校が終わると、今日は弓の訓練に寄らずに家に帰った。そして真っ直ぐ自室に入り荷造りを始める。


 今夜は友人の南の家に集まり、お泊まり会をする事になっている。次の日にはみんなで港町へ精霊祭で着ていく服やアクセサリーを買いに行く……なんとも充実した予定だ。


 何度か忘れ物が無いから確認した後、命が家から出ると祈がヒナタを抱っこして診療所のベンチに座っていた。


「あら、ちーちゃんおかえり、もう行くの?」

「うん、早目に行って色々話したいし。お姉ちゃんはヒナちゃんと夕涼み中?」

「そう、ついでに遠くから頑張るパパとトキワちゃんを応援中」


 祈が指差す方を見ると、空き地に人影を二つ視認できた。どうやら手合わせをしてるらしい。


「今日のハンデはレイちゃんが利き手じゃ無い方の手で両手剣を片手持ちして相手してるんだとか」

「改めて思うんだけど、お義兄さんて化け物だよね…」


 水鏡足も一般的な冒険者から一騎当千の武を持つ者までレベルに差はある。誰が一番強いかと問われても、人によって意見は異なる。武闘大会でも行えば、明確にわかるかもしれないが、一度古に行われた時に村が焼け野原になった為、以来行ってないとか。

 

「私お義兄さんより強い人見たことないかも」

「そうねー、レイちゃんのお友達に同じくらい強い子がいたそうよ。今その子は村を出て海の向こうの国で騎士団長をしてるらしいわよ」


 上には上がいる。自分も負けてられないなと思いつつも、今日はお泊まり会優先だと命は祈に明日戻る時間を告げて、南の家へ向かった。



「あれ、さっきちーちゃんいなかった?」


 手合わせを終えたトキワが息を整えながら祈の元へやってくる。あの状況で命がいた事に気づくとは彼女に対する執念が相変わらず恐ろしいなと祈は苦笑する。


「お前よそ見してたからヘマしたんだぞ。命ちゃんがいても集中しろっていつも言ってるだろうが!」


 次いでレイトもやってくると、ヒナタを祈から受け取り抱き上げる。


「ちーちゃんはお友達の家にお泊り会に行ったわよ」

「えー!じゃあ今日もう会えないの?」

「そうなるわね。ちなみに明日の夕方まで帰ってこないわ」


 祈からの無慈悲な返答にトキワはこの世の終わりの様な顔をして肩を落とす。


「ちなみにお泊まり会て何するの?」


 トキワの素朴な疑問に祈は少し考えてからにっこり笑う。


「やっぱ恋バナね!女の子同士ネグリジェ姿でお茶しながら、付き合ってる彼氏とか、好きな人とかのことを話して盛り上がるの!私もちーちゃんの年齢の頃はよくしてたわ」

「ふーん、つまりちーちゃんは俺のことを話して盛り上がるんだね。見たかったなぁ…」


 ポジティブ過ぎるトキワの解釈に祈とレイトは顔を見合わせて苦笑してしまった。そんな仲睦まじい夫婦にトキワはふと疑問が浮かんだ。


「そういえば祈さんと師匠ていつ頃知り合ったの?」

「珍しいな、お前が命ちゃんのこと以外に興味持つなんて」

「まあ私達の事も辿ればちーちゃんのことになるんじゃないの?えっと、初めて会ったのは私が十七、レイちゃんが十八の時ね。港町のギルドで同じ依頼を受けようとしてたから、じゃあ一緒にやってみる?て感じになったのよ。で、一緒に戦ってるうちに意気投合したわけ」


 そう言って祈がレイトを同意を求めると、レイトは頷き微笑む。


「祈さんって強いの?」

「試してみる?」


 トキワの疑問に祈はベンチから立ち上がると、右耳の水晶のピアスに触れて、一対の双剣を作り出した。途端に祈の表情に凛々しさが宿る。


「門限までまだあるわよね?トキワちゃん、産後のダイエットに付き合ってちょうだい!ハンデは…レイちゃんどうしたらいい?」

「双剣一本で丁度いいだろう」

「了解」


 祈は双剣の一本をベンチの下に置いてから空き地へ歩き出したので、トキワも左耳のピアスに触れて水晶を両手剣に象って祈の後を追った。


「じゃあ始めるわよ、トキワちゃん先攻どうぞ」


 お言葉に甘えたトキワは両手剣を構えて祈に立ち向かった。レイトの口ぶりから手練れだと思うが、命の大好きな姉なので傷付けたくない。そんな思いが両手剣を握る力を弱める。


「甘い!」


 迎え撃った祈は細身の剣一本でトキワの身の丈程の両手剣を一瞬で弾き返した。一体何処にそんな力があるのかと戸惑っているうちに祈は姿を消して、いつの間にかトキワはバランスを崩して尻餅をついた。


「はーい、私の勝ち」

「え、今何が起きたの?」


 自分は何故、どうやって負けたのか分からないトキワは頭の中が疑問でいっぱいになった。


「トキワちゃんの死角に回って足払いをして転かしました。どう?お姉ちゃんなかなかやるでしょ?」

「……はい、とりあえずちーちゃんを泣かして祈さんを怒らせないようにしなきゃと思いました」

「よく分かってるじゃない!ちーちゃんを傷付けたら酷い目に遭わせるからね。ふふ」


 元からそんなつもりはないが、命を悲しませたらレイトは勿論、更には祈も黙っていないことが分かり、トキワは絶対に命を幸せにしようとまだ結婚どころか交際もまだなのに、使命感が芽生えた。


 その後何度も祈に挑んだが、隙を突くのが上手く、素早い動きに翻弄されて、トキワは一度も勝つ事が出来なかった。

 



 

 

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