44突然の出来事9
「うわあああっ!」
悲鳴と共に飛び起きると、まだ辺りは暗く真夜中だった。トキワは全身汗に塗れて、心臓は壊れてしまったのかと思うくらい暴れていた。
息を荒げながら確認するように何度も両腕を見ると、呼吸を整えるように深呼吸をした。
「っはぁ、夢か……」
掠れた声で額の汗を拭い、前髪をかき上げて自分が見たものが夢だったと把握した。
夢の中ではまた楓から炎と否定の言葉をぶつけられて腕を燃やされてしまった。その時実際に火傷した時と同じような熱さがトキワの記憶から大袈裟に、恐怖と共に再現されたようだ。
実際起きて見れば夢なのは一目瞭然で、腕の火傷も祖母が治療したので傷痕一つ無かった。
呼吸は整ってきたが不安に押し潰されそうなトキワはいつも枕元に置いている命がくれたハードカバーノートを探すが見当たらず、先日から交換日記を始めたため手元に無い事を思い出すと頭を掻き毟った。
「トキワくん、どうした?」
先ほどの悲鳴で起こされたのか、桜が様子を見に来た。診療所で寝泊りしているから当然の事だ。トキワは必死に笑顔を作ったが息は荒い。
「ちょっと、変な夢見ただけです……起こしちゃってごめんなさい」
明らかに取り乱しているのに隠そうとするトキワに桜は怪訝な顔をするが、深く追求する事は止めることにした。
「凄い寝汗だな。シャワー浴びてきなよ。ベッドも隣のを使って寝るといい」
「すみません、そうします」
「……もし眠れないなら先生が添い寝してやるぞ?」
「嫌だ」
桜の冗談交じりの誘いを即答で断って、トキワはリュックから着替えを取り出し、シャワーを浴びに行くことにした。
「桜先生、この事は内緒にしてね……」
特に命には……そう含めつつトキワは部屋から出て浴室へ向かった。
***
翌日トキワが学校から戻ると、診療所でトキオが桜と話をしていた。遂に迎えが来たのかとトキワは嬉しいような寂しいような気分になる。
「トキワ、遅くなってごめんな」
最後に会った時よりやつれたトキオはトキワを抱き上げて再会を喜び、挙げ句の果てには頬擦りやキスまでされそうになったので、トキワはげんなりとした表情で抵抗した。
「もう子供じゃないんだけど」
「すまない、こんなにトキワと離れたのが初めてだからつい……」
そういえばそうだったなと思いつつ、自分は命がいたから全然寂しくなかったなんて言ったら、落ち込まれそうだったのでトキワは黙った。
「桜から聞いたよ。暦ちゃんとお義母さんに会ったって。シュウ先生の事も……」
「うん、ばあちゃんに火傷も治してもらった」
トキワは祖母に治してもらった両腕を見せるとトキオは心底安堵した表情を浮かべた。
「もう一度改めてお礼を言わないとな」
「ばあちゃん達に会ってきたの?」
言葉に引っかかりを感じたトキワが尋ねると、トキオは頷く。
「会ってきたというより、暫く母さんを神殿に保護してもらう事になった。昨日ようやく説得に応じてくれて、さっき送り届けたんだ」
「保護?」
楓を保護する理由に見当がつかないトキワは首を傾げる。もしかしたら以前トキオが話があると言ってたのはこの事なのだろうか。
「ただいまー。あ、トキワのお父さん。こんにちは」
このタイミングで命が帰宅した。全員が神妙な顔つきをしていたので、命はまずい所に居合わせた気がしてくる。
「えっと、お取り込み中みたいなので失礼しますね…?」
空気を読んで命が診察室から出ようとすると、トキワが腕を掴み引き止めた。
「ちーちゃん、そばにいて……」
上目遣いで切なく懇願してくるトキワに命は返答をつまらせる。
「命ちゃん、良ければトキワと話を聞いてやってくれないかな?」
自分が踏み込んでいい領域の話なのだろうか?命はためらいそうになるが、腕を掴むトキワの手がどこか助けを求めているような気がしてた。
「わかりました」
あとは野となれ山となれと覚悟を決めて、空いてる椅子をトキワの隣に移動させて座ってトキワの手を握りしめてあげた。




