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33誕生日にはチェリーパイ9

 昼食後、塗料が乾いたのを確認してから命とシュウはベンチの組み立て作業に移る。命が木材を支えてシュウが釘を打つ。トントンと心地よいリズムが静寂に響く。

 釘を打つ事ニ時間程して、金槌の音は止まり、ベンチが完成したのでシュウが診療所の前に設置した。ぐらつかないように足元を石で固定してから命と二人で早速座ってみた。


「わー!いい感じだ!」


 ベンチで足をバタバタさせて命は完成を喜ぶ。喜ぶ命にシュウは満足げに目を細めた。


「おやつはベンチで食べよ!」


 命はベンチから飛び上がり家にお菓子を取りに行こうとしたら、祈が家から出てきた。


「お姉ちゃん!見て、お父さんとベンチ作ったの。座ってみて!」


 祈の手を取って命はゆっくりベンチへと誘導して座らせた。


「なんか朝からやってるなーて思ってたけど、素敵なベンチが出来たわねー」


 ベンチの出来を褒められて命は嬉しくなる。これから祈が気分転換に外出する時にも役に立ちそうだ。


「お姉ちゃんもここでお茶しよう!お父さん折り畳み机と椅子取ってきて!私はお菓子とお茶の用意するから!お姉ちゃんはそこにいて」


 命は家に戻るとお湯を沸かしてお茶の用意をする。それを、お菓子と一緒にトレーに乗せて再び外へ出ようとする時、ソファにあった膝掛けが目についたのでそれを腕にかけて家を出る。既にシュウがテーブルと椅子を用意してくれていたのでテーブルにお菓子とお茶を置いた。


「おまたせ、お姉ちゃんこれ使って!体冷やしちゃ駄目でしょ?」


 祈に跪いて命は膝掛けをふんわりと乗せた。


「ありがとうちーちゃん、さっきね赤ちゃんがお腹蹴ったよ」

「えー!本当⁉︎すごい!」

「そろそろパパ達が帰ってくるよーって教えてくれたのかもねー」

「そんな事がわかるの?」

「そうだったらいいなーなんて……あ、本当に帰って来た!」


 冗談で言った事が事実になったので祈は驚きで声を上げた。駆け寄りたいという気持ちを抑えて祈はベンチに座ったまま手を振るとレイトは気付き走って来た。


「おかえり、レイちゃん」

「ああ、ただいま」

「お義兄さんおかえりなさい。ここ座って!」

「命ちゃんただいま、お義父さんもただいま戻りました」

「うん、おかえりレイトくん」


 命は自分が座ろうとしていた祈の隣を譲る。レイトは地面に荷物を置いてベンチに座る。


「あれ、トキワちゃんは?」


 トキワが一緒じゃないことは命も気付いていたが、それを自分から言い出すのも照れ臭く黙っていたので祈の問いかけはありがたかった。


「ついて来るって聞かなかったけど、家に帰らせた。疲れが溜まっているだろうし、親御さんも心配させてるからな」


「怪我とか、しなかった?」


 一番気にかけた事を問いかける命にレイトは優しく笑い頷いた。


「ピンピンしてるよ。初陣の割に落ち着いてた。そうだ、これあいつから命ちゃんにお土産だって」


 レイトは件の花束を……トキワから女の子にもらったことは絶対に言うなと口止めされているので事情を省いて……命に渡す。


「そっか、よかった。わー!萎びちゃってるけど可愛い!水切りしたら復活するかな?ちょっとやって来る!」


 トキワが無事だということと可憐な花束に命はパッと笑顔を浮かべていそいそと家に入っていった。


「ち、ちーちゃん!バケツどこにあるかわかるかな?ち、ちょっと一緒に探して来るよ。ふ、二人はゆっくり休んでてっ…ね?」


 気まずそうにどもりながらシュウも家の中へ向かう。彼なりに気を利かせたようだ。二人きりになり、祈はレイトの肩に寄りかかり、手を繋いだ。


「悪いことしたな」

「何が?」


 レイトの呟いた言葉が理解出来ず祈は訊ねる。


「あいつに命ちゃんが喜ぶ顔見せてやらなかったからさ」

 「あー確かに。ちーちゃんの笑顔は最強に可愛いもんね。トキワちゃんが悔しがる様子が目に浮かぶわ。」


 妹大好きな祈らしい返しにレイトも想像して一つ笑う。


「祈はさ、後悔してないか?」

「後悔?なに突然?」

「昨日トキワと話してて、あいつが命ちゃんと結婚したら絶対二人っきりでラブラブに暮らすとか言い出すからさ……」


 自分達の結婚生活は親と妹達との同居でスタートだった。レイトはそれを後悔してないかと訊いてきたと理解した祈は首を振ってレイトの手を強く握った。


「全然後悔してないよ!むしろ感謝してる。じつは私、あの時結婚するかまだ迷ってたの!だってレイちゃんと一緒になれるのは嬉しいけど、まだ大好きな家族と離れたくなかったから」

「祈……」


 当時は結婚したい一心でちゃんと祈と話し合ってなかった気がしていたレイトはその言葉に安堵する。


「レイちゃんはお婿さんとして両親とも妹達とも仲良くしてくれて……家族になってくれて嬉しいの。もちろん私との時間も大事にして色んなところに連れて行ってくれているし!これから赤ちゃんも生まれるから二人っきりの暮らしなんてまだまだ当分先だけど、私はそれでもいいよ」


 思いの丈をぶつけた祈はレイトに向き合い彼の首に腕を回した。


「愛してるよ、祈」

「知ってる」


 レイトが囁くと祈は勝気な表情で自信満々に答えてから、どちらからともなく深く口付けた。


 

 





 


 

 



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