30 ※残酷な描写あり誕生日にはチェリーパイ6
たどり着いた村は情報通り民家の周りを南瓜畑で囲まれた農村だった。しかし名産の南瓜は所々で荒らされて無残な姿となっている。
「遥々お越しいただきありがとうございます」
レイトとトキワは村長の家を訪問して簡単に手続きと説明を受けることにした。家には村長の他に彼の娘夫婦とトキワと同い年くらいの孫娘がいた。
「魔犬は村の北側の森をねぐらとしていまして、夜になると畑を荒らしに来ます」
「ねぐらの場所はわかりますか?」
「村の若いのが仕掛けたマーキングが機能していたら恐らく…」
出されたお菓子を食べながらトキワがレイトと村長のやり取りを聞いていると、孫娘のじっとりとした視線を感じた。
「村を案内してあげる!」
おさげの孫娘が目をキラキラさせて手を掴もうとしたがトキワは反射的に振り払った。
「こらトキワ、何してるんだ!」
「ごめんなさい」
レイトの叱責にトキワは村娘に素直に謝るも、心の中では全く反省していなかった。整った顔立ちと珍しい銀髪から学校などでも女の子から好意を向けられることは度々あったが、いつだって拒絶してきた。
命しかいらない。それがトキワの信条なのである。もっとも最近は、授業参観で命のことを将来の結婚相手として発表した影響で言い寄るのはいなくなり、むしろ応援してくれる方が増えた。
「すみません、こいつ女の子の扱いに慣れていないもので」
「いえいえ、うちの孫が失礼しました。……君もお父さんと魔力犬を倒しに来たんですよね?」
村長の問いかけにトキワは首を振る。
「親子じゃないです。けど、俺も魔犬退治をします」
「それは失礼、魔犬退治よろしくお願いしますね。小さな冒険者さん」
「はい」
小さなは余計だと思いつつも、トキワは孫娘への失態をごまかすように行儀のいい笑顔で返事をした。
話を終えたレイトとトキワは早速、準備を整えると、魔犬のねぐらと思われる森へ入る。村人が仕掛けたマーキングは効果を発揮しているのか、村の北から森へと青い塗料がポタポタと不規則に落ちていた。
「なあ、トキワ。俺ってそんなに老けてるか?」
ギルドではトキワを隠し子にされ、村長から親子に見られたレイトはこれでもまだ二十一歳なのにと傷ついていた。
「そんなことないよ、パパ!」
「気持ち悪いやめろ。つうかお前もしっかりしろ!今回は村長が温厚だったからいいが、今後いろんな所で依頼を受けていく中でああいった態度だと、ただでさえ目立つ外見なのにトラブルを起こすぞ」
「はーい」
先の事を考えたらトキワの銀髪を目立たせないようにフード付きの外套を用意するかとレイトが考えていると、突如禍々しい気配を感じ取った。トキワを制止して辺りを確認すると青い塗料が続く茂みの先に洞穴があった。
「恐らくあそこだな。準備できてるな?」
「はい!」
返事を確認してからレイトは照明魔石を取り出した。これを使えば一定の時間、自身の周囲を明るく照らす。これを後で自分とトキワに使う。そしてもう一つは閃光魔石だ。これはいわゆる目眩しの効果がある。ちなみにどちらの魔石も雷属性を持つ義母の光のお手製だ。
「洞窟に入って魔犬のねぐらを見つけたらこの閃光魔石を投げる。合図で伏せろ。じゃあ行くぞ」
慎重な足取りで二人は武器を構えて洞窟へ入って行った。一本道の洞窟を五分程歩いた所でねぐらへと近づいた。レイトは魔犬達に気づかれる前に、トキワに閃光魔石を見せてからねぐらへ投げつけた。
「伏せろ!」
レイトの号令で閃光から体ごと目を逸らし、魔犬達の咆哮を聞いてからねぐらへと向かった。
魔犬達は目眩しでパニック状態になっている様だ。レイトは近くにいる魔犬から手当たり次第切り捨てていく。目眩しが解ける前にとトキワもそれに続く。
「親玉がいない…恐らくはこの奥だな。構えろ」
その場にいる全ての魔犬を仕留めた後もレイトは気を緩めず、ねぐらの奥に続く道を睨んだ。しばらくすると足音がどんどん近づいてきた。
姿が見えるか見えないかで大きな黒い物体が猛烈な速さで突進してきた。
「こいつが親玉か」
二人は難なく突進を避けたが、休みなく成人男性の二回りほどの大きさをした魔犬の親玉が襲いかかる。
仕留めた魔犬を蹴飛ばし足場を作りながらレイトは親玉の隙を狙う。
弱い方から狙うことにしたのか、トキワは先ほどから親玉に執拗に狙われていた。剣で攻撃を躱すも、一撃が力強く、体のバランスを崩しそうになるが、なんとか耐えればレイトが親玉の胴体に切りかかった。鮮血を吹き出しながらも親玉は怯む事なく体勢を立て直し咆哮を上げる。
「うるさっ!」
レイトが魔術でかまいたちをおこし親玉の傷口に当てた。大きなダメージになったのか、バランスを崩した。
「トキワ、やれ!」
とどめは任せよう。レイトの命令と共にトキワは魔犬との間合いを詰め、顔面を蹴飛ばして転倒させると胴体を叩き切り両断した。




