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3美少女を拾ったつもりが…3

 寝息を立てるトキワの傍で命が恋愛小説を半分程読み終えた所で桜が帰ってきた。


「トキワくんの身元がわかったよ」


 いつの間にやら桜はトキワの身辺を調べたらしい。命は返事をせず小説に目を通す。


「自警団が東の集落の自警団に問い合わせたら、父親が探してたらしい。もう少ししたらこっちに来るだろう」


 保護者が見つかったことは本来喜ばしい事なのだが、命はどこかスッキリしない表情を浮かべていた。


「でもトキワは家に帰りたそうには見えなかった」


 自分の名前しか明かさないということは、複雑な家庭事情があるに違いない。着替えさせている時に気付いたが、彼の身体は細く、所々に傷や痣があった。それが原因かもしれないと命は考えていた。そんな状態で父親に明け渡していいのか不安があった。


「じつはさ、トキワくんのお父さんて私の学生時代の一つ上の先輩なんだよな。トキワくんの顔を見た時どこか見覚えがあると思ったけど、名前を聞いたら一文字違いの先輩の顔が思い浮かんだんだよ」


 世間は狭いなと笑う桜にそろそろ話を聞こうと命はパタンと小説を閉じて向き直った。


「トキワくんのお父さん、トキオ先輩て言うんだけどね、すっごいカッコいいんだよねー。頭が良くて物腰が柔らかくておまけに強い。女生徒達の憧れの的だったよ。元々はこっちの集落出身なんだけど、結婚を機にあっちに引っ越していってから見掛けなかったけど、まだカッコいいんだろうなー」


 まるで恋する乙女のように語る桜に命は憧れの先輩にいたいけな少年を売ったのかと冷たい視線を向ける。


「ちーも会ったら驚くんじゃないかな。この子にしてこの親ありって感じ。目元が本当にそっくり!トキワくんも大きくなったらあんな感じの美形になるんだろうね」

「もしかして学生時代にトキワのお父さんが好きだったの?」


 未だに桜が独身なのはトキワの父への恋慕を引きずっているのだろうか。意地悪のつもりで訊いた命に対して、桜に動揺は無くにんまりと首を振った。


「先輩に対してはカッコ良すぎて恋愛感情は生まれないね。ただミーハーに愛でてたな」

「はあ…」


 熱弁をふるう桜に命は間の抜けた返事をした。確かに美形を愛でるのは命も趣味ではあるが、先輩とか身近な存在だと恋に落ちる可能性も無きにあらずと思っていた。しかし自分は恋に落ちてもきつい顔をしているから成就する気は全くしなかった。


「ただ奥さん……トキワくんのお母さんについてはあまりいい話を聞かないな。彼の母親は元神子で、先輩と出会って直ぐに結婚して神殿を逃げる様に神子を辞めて出て行ったから、当時村人達から反感を買ったんだよな」


 水鏡族の村は東西南北四つの集落の真ん中に広大な神殿が(そび)え立っている。神殿には精霊に毎日祈りを捧げて村の平和を守る神子という存在がいるが、どうやらトキワの母親がそれだったらしい。


 主に神子は魔力の多い人間がなる。そして特別に魔力が多い人間は銀色の髪を持つ為、神子は銀髪が多かった。だからこそトキワを初めて見た時は神殿の子供だと思ったのだ。


 そんな事情をぼそりと低い声で呟いた桜に命は息苦しさを覚える。いい話を聞かない。その噂とトキワの体の傷に関係がある気がしたからだ。しかし人の母親を疑ってはいけない。


 痣や傷だってこのくらいの子供ならよくある物だし、戦闘訓練でついたものに違いないと命は決めると、すっかり温くなったトキワの額に乗っているタオルを取って、冷たい水に浸して絞り、顔の汗を拭ってから再びトキワの額に乗せた。


「すっかりトキワくんにご執心だな。超絶美少年だもんな」


 揶揄って来る桜を命は睨み付けると、ふんと鼻を鳴らした。


「私が助けたんだから、責任を持って看病するのは当たり前でしょう?確かに可愛くて目が離せないけど…」


 こんなに可愛い少年に会ったのは恐らく生まれて初めてで、赤ちゃんに感じる可愛さや、学校で可愛いと噂されている友達や、姉の欲目もあるかもしれないが可愛がっている妹とは次元が違う可愛さを感じていた。


「相変わらずお人好しだな、せいぜい変な奴につけ込まれない様に気を付けろよ」


 困っている人がいたら放っておけない。それが命の性格だった。父親がそういう人間だったので、幼い頃からそんな父の背中を見てきた命は自然と体が動く様になっていた。


「そんな私みたいなのにつけ込む人なんていないよ。それこそトキワみたいに可愛ければ話は別だけど」

「なんだ、お前はトキワくんが可愛いからつけ込む為に拾ったのか?」

「違う!物の例えなんだから!」


 ぷくりと頬を膨らませる姪に桜は悪かったと謝りながらも含み笑いをしてしまったので、命はヘソを曲げてしまった。


「でもまあ、誰がどう言おうとお前は私にとって可愛い姪っ子なんだから、気を付けてくれよ」


 穏やかな笑顔を浮かべて桜は命が心配だと口にすると、命も素直に頷いて、読みかけだった恋愛小説のページを開いて視線を落とした。



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