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29誕生日にはチェリーパイ5

 トキワ達が引き受けた依頼者は港町から二十kmほど離れた場所に位置する南瓜が名産の村だった。

 依頼内容は夜に畑を荒らす低位の魔犬の討伐だ。


「いきなりDランクの依頼だなんて…大丈夫かな?」


 農村に向かう道中、身の丈に合わない依頼にトキワは心配そうに呟く。


「ヤバくなったらお前は隠れろ。俺が片付ける。ただし報酬の分け前は無しな」

「オニ!」

「俺は一家の大黒柱としてマイホームと子育ての資金を稼がにゃならねーんだよ!」


 現在レイトと祈はマイホームの資金が貯まるまでという形で同居している。


「このままちーちゃんちに住めば必要なくなるじゃん」


 率直なトキワの意見にレイトは首を振る。


「そうはいかないさ、子供が増えて成長したら手狭になるからな」


 命の父、シュウを家主とする家は一階が生活空間で、ニ階の四部屋はシュウと妻の光、レイトと祈、命、実の部屋に分かれている為、レイトと祈の間に子供が生まれたら、赤子の時は多少の問題は無いが、成長すれば不便になるし、兄弟が増えれば窮屈だ。


「はいはーい!じゃあ生まれてくる赤ちゃんが大きくなるまでに俺とちーちゃんが結婚したら解決します!」


 まるで命と結婚することが決定事項のように提案するトキワにレイトは鼻で笑う。


「それっていつの話だ?」

「あと三か月位で俺が十一歳になるから…五年後?」

「それは待てない。それならニ年後に命ちゃんがお前以外の十六歳以上の男と結婚して出て行った方が早い」


 現在の所二人は婚約どころか、交際さえしていないのだから命がトキワ以外と結婚する可能性だってある。


「もしそんな事になったら絶対にその結婚めっためたにブチ壊します!」

「模擬挙式とはいえ実際にブチ壊した前科があるヤツが言うと説得力あるな」

「ありがとうございます!!」

「褒めてない!お前も今から金は貯めておけ。まあお前は今のところ一人っ子だから実家で二世帯で暮らすならそこまで貯めなくて済むだろうが」


 レイトの実家は九人兄弟で長男家族が親と二世帯で暮らしているため、末っ子のレイトが祈と結婚して実家で同居だなんてほぼ不可能だった。


 手頃な場所に借家があれば良かったのだが見つからず、結婚は先延ばしかと思われていたが、シュウが資金が貯まるまで一緒に暮らせばいいと同居を申し出てくれたのだ。可愛い愛娘と住処まで与えてくれたシュウにレイトは感謝してもしきれない。


「うーん…父さんと母さんが邪魔だから、頑張ってお金貯めて家建てて、ちーちゃんと二人っきりでラブラブな新婚生活送ります!」


 両親を邪魔者扱いをするトキワにレイトは吹き出しながらも、シュウの申し出を断り、少し条件が悪くても借家を探して祈と二人きりで新婚生活を送るのもありだったのかもしれないなと少しだけ後悔した。



「……魔犬は群れで行動するはずだ。今回は最低でも群れのリーダーを倒す。詳しくは着いてから作戦を立てよう」


 説明をしているうちに村に近づいてきた。トキワは命から貰ったお守りをぎゅっと握ると、走る速度をあげたレイトの背中を追った。


 

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