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289番外編 とある夫婦の休日

 トキワが風の神子代表を退いて早1ヶ月、今日は祈達がクオンを預かると言うので、命は夫婦水入らずで港町まで出掛けることになっていた。


 久しぶりの遠出に命はワクワクしながらも、クオンを置いて大丈夫だろうかと心配していたが、日頃から託児所にいるからか、親と離れるのにあまり不安を覚えておらず、寧ろ仲良しの従兄弟達と一日中遊べるからか、ぞんざいなお見送りをされたのであった。


「ちーちゃん、今日は久々のワンピースで格別に可愛いね」


 夕方までにクオンを迎えに行きたいので、港町への移動は飛行移動一択だった。トキワは命を横抱きして空を舞いながら服装を褒めると白い頬に短く口付けた。

 

 折角のデートなんだからと実が用意してくれた膝下のワンピースは深緑の森を彷彿させる生地で、派手好きな妹が選んだ割には落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


「それで今日の予定はなんだっけ?」


「うん、お姉ちゃんが予約してくれた美容室で髪を切って、冬に備えて厚手の服を中心に買いたいな。あとクオンが気に入りそうなおもちゃも欲しい」


「そっか、じゃあちーちゃんが髪を切っている間、俺は指輪のクリーニングをお願いしに行こうかな。随分と汚れているからね。あとでちーちゃんの分も貸して」


 どうやらのんびりデートとはいかないようだ。何せ最後に港町に行ってから4年は経っているので、命もトキワも済ませたい用事は山ほどあった。


 美容室まで命を送り、トキワは結婚指輪を作った店に立ち寄った。店員にクリーニングを依頼すると、工房からあの時と同じ水鏡族の職人が出て来て、トキワの顔を見るなり驚きながらも顔を綻ばせた。


「元気そうでなによりだ。桜さんから聞いたよ。まさか風の神子なっていたとはね。君達にはずっとお礼を言いたいと思っていた」


「お礼?」


「ああ、君達がうちで作った結婚指輪をしてお披露目をした影響で、結婚を予定している水鏡族のカップルが指輪を作りたいと押し寄せて来て、定着したのか今でも依頼が来ている。お陰で潤っているよ、ありがとう」


 確かに結婚のお披露目の際に指輪をして臨んだが、まさかこんな余波があったとは思いもせずトキワは驚きを隠せなかった。


 職人に指輪を預かると、命の指輪は仕事上あまりつけてないからかすぐに綺麗にできるが、トキワは風の神子になってからずっとつけていた為、傷が多く、汚れていたので少し時間が掛かるそうなので、また帰りに寄る事になった。


 店を後にしてトキワは左耳のピアスに触れて妻の居場所を確認した。紫に指摘されるまで気付かなかったが、風の神子代表として神殿に入ってから少しでも時間が出来ると、いつもピアスに触れて居場所を確認するのが癖になっていた。


 どうやら命はまだ美容室にいるようだ。ならば先に他の用事を済ませておこうと、トキワは自分用の買い物リストに目を通してから近くの店から順に回る事にした。


 順調に買い物を済ませてから再びピアスに触れると、命がこちらに向かっていたので下手に動き回らない方が良いと思ったトキワは道の端で立ち止まり、可愛い妻がやって来るであろう方角を見守った。


「ちーちゃん、こっち!」


 手を振り呼び掛けて来た夫に命は口元を緩ませて、肩まで切った髪の毛を揺らして駆け寄った。


「髪の毛スッキリしたね、可愛い」


 愛おしげに髪の毛に触れながら褒める夫に命ははにかみながら小さくお礼を言うと、自分の方から手を繋いで夫を驚かせた。


 お昼には早いのでまずはクオンの冬物の服を探す事にした。祈に教えてもらったという子供服専門店に辿り着くと、乳児から12歳くらいまでの子供服が所狭しと並んでいた。


「一応カイちゃんのお下がりとかは貰えるんだけど、ヒナちゃんの頃からのだからだいぶ古いし、やっぱ新しい服も買ってあげたくなっちゃうよねー」


 小さな服を手に命は我が子の服を物色する。子供の成長はあっという間だから今後も通う必要がありそうだ。


「次の子のお下がりにする為にもなるべく丈夫なものを選ばないとな」


 まだ授かってもいない子供へ配慮している命にトキワは思わず苦笑を漏らしつつ、子供はクオン1人で充分だと考えていたが、愛しの妻の期待に応えたい気持ちにもなった。


 気の済むまでクオンの服を購入した命は次に自分の服を買いに行く。


「たまにはこんなのも着て欲しいな」


 膝上20cm程の黒いタイトミニワンピースを持ってきた夫に命は真顔で首を振る。


「そんなんじゃクオンと追いかけっこ出来ない。動きやすい服を選ばないと」


「じゃあ俺がプレゼントするから夜にクオンが寝たら着てよ」


「無駄遣いしちゃ駄目」


「無駄遣いじゃない。俺の心が豊かになる有意義な買い物だよ。それにここ数年ちーちゃんの誕生日をちゃんとお祝い出来てないしね」


 そうトキワは主張すると、有無言わせない為か黒のミニワンピースを持ってレジへと向かい購入してプレゼント用に包装してもらっていたので、命は諦めてかごに入れた服をレジに向かった。


「次はどこに行くの?」


「下着屋。着いてこないでね」


 圧のある笑顔で念を押してくる妻の機嫌を損ねる訳にはいかないので、トキワは諦める事にして、せめての希望を伝える事にしてお金も渡した。


「一着だけでいいからセクシーなの買って」


「この…ドスケベ変態神子!」


 何となく言うだろうとは思っていた命は軽蔑する様に睨み罵ると、お金を受け取り近くの喫茶店で待つように伝えて下着屋へ入った。店員にサイズを測ってもらってから、今持っているのは傷んできていたので、服と同じくデザインよりも丈夫そうな物と気分が上がりそうな自分好みのデザイン、そして運動時につける物に就寝時用、そして夫の機嫌を取る為のデザインを選ぶとレジへ並んだ。


 こんなに一気に買い込むのは初めてだったので、会計時の値段にヒヤリとしつつ、長い間買ってなかったから仕方ないと自分を正当化しながら支払いを済ませると、待ち合わせ場所の喫茶店に入り、トキワと合流して昼食を取った。


「ちゃんと買ってくれた?」


「多分ね」


 店の名物の煮込みハンバーグを食べながら、命は適当に相槌を打った。絶対今夜着てくれと言っていた気がしたが、無視して買い物メモに目を通す。


「あとはクオンのおもちゃか。お姉ちゃんがおすすめの店を教えてくれたんだけど、ここから近そうだね」


「持つべきは先輩ママさんだね」


「本当それ。友達の出産祝いとかはギフト店で買ってたから、子供向けのお店って行ったこと無かったんだよね」


 子供が生まれたことで立ち寄る店も大幅に変わるものだと思いつつ、食事を終えると荷物を異空間収納にまとめておもちゃ屋へ入る。店内は家族連れも多く、様々なおもちゃが並んでいた。


 その中から命はクオンが託児所で気に入って持って帰ろうとしていたカラフルな積み木を手に取っていた。


「ねえ、これとかどう?」


 トキワが手に持っているのは木製の工具遊びのセットだった。


「それ自分が欲しいんじゃないの?」


 かつて大工をしていたトキワなら欲しがるおもちゃだと思った命が指摘すると、笑いながら肯定した。クオンと一緒に遊びたいらしい。


「まあいいけど。手先を動かすのは発達にいいらしいし」


「やったー!」


 一度に2つも買うのは甘やかし過ぎだろうかと思いつつも、クオンが可愛いから仕方がないということで、結局積み木と工具セットの両方を購入して店を出た。


 後の買い物は生活品や調味料に保存が利くお菓子などをまとめ買いして、もう買い忘れは無いだろうと新しくできたカフェでティータイムをしながら確認をしてから村へ帰ろうとした所で、トキワが指輪の回収をしていなかったと思い出し、急ぎクリーニングされた指輪を受け取りに行った。


 今度こそ本当に大丈夫だ。もし忘れてたら次の休日にトキワが買いに行く事にしようと決めてから、日が沈む前に港町を出た。


「クオン、喜んでくれるかな?」


 可愛い我が子がおもちゃを手にした時の顔を想像して命は顔を綻ばせる。やはり一番可愛いのは我が子なのだ。


「きっと喜ぶよ、あー、今から一緒に遊ぶのが楽しみ!」


 横抱きしている妻の髪を鼻で撫でながら、トキワは含み笑いをして、同じく我が子の笑顔を思い浮かべる。


「ところでちーちゃん、覚えてる?」


「何を?」


「確かこの辺りで初めてキスしたんだよ」


 そう言ってトキワは立ち止まり、あの時と同じように命の額にコツンと額を合わせた後、唇にそっと口付けた。


「好きだよ、ちーちゃん」


 片想いから両想いになって、恋人同士になって付き合いを得て結婚して夫婦になって、今は父親と母親にもなっているけれども、この気持ちだけは一生変わらない。そう思いつつトキワがもう一度口付けようとしたら、次は命から口付けて来て至福に胸を熱くさせた。

 

「私も好きだよ」


 初めてキスした時よりも素直で積極的になった命は、これからも彼の愛に応えて行きたいと思いながらギュッとトキワの首に抱きついて、可愛い我が子の元を目指してもらった。

 

 


 

 

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