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283今までも、これからも12

「おかしいな…」


 神殿関係者が利用する入り口でクオンと共にトキワは命を待ちかねていたが、一向に帰ってくる気配が無かった。命の水晶の反応からしてあと10分程で帰って来れそうな距離だったが、その位置から全く動かなくなっていた。


「綺麗なお花でも見つけて摘んでるんじゃないんですか?」


 呑気な紫の発言にトキワは頷く事が出来ず、乳母車で眠るクオンの寝顔を見るも気分は晴れない。


「それにしても風の神子て、いつも奥様の居場所を監視してますよね。気持ち悪〜い。束縛しすぎるとフラれますよー」


 融合分裂を交わした夫婦はお互いの位置が水晶を通して分かる為、トキワは暇があればいつも命の居場所を確認していた。揶揄う紫を無視して、トキワはじっと馬車がやって来るであろう場所を見つめた。


 しばらくして命の居場所は動いていないのにも関わらず、馬の足跡と車輪の音が聞こえて来た。トキワは到着した馬車に乗り込んだが、命の姿は無く頭から血を流した神官の雫が旭を守るように抱き締めていた。


「にーにっ!」


 旭が泣きじゃくりながら抱きついて来たので、トキワは受け止めると、雫が事情を話そうと口を開いた。


「…突然、馬車が停まって奥様が外の様子を見に行っている間、涼が攻撃してきて私は気を失ってしまいました…気づいた時には奥様から次席を託されて…うっ…」


 頭を負傷している雫が苦しそうに呻いたので、これ以上は問い詰めず、トキワは旭と馬車から降りると、雫の手当てを近くにいた神官に依頼した。


「やばい事になりましたよ。彼が言うには今世間を騒がせている人攫いの集団に襲われたらしいです。しかも涼がその仲間だったらしいです」


 紫が馭者の神官から聞いた事情と、先程の雫の証言からトキワは妻が1人で人攫い集団に立ち向かっている事を察すると、しゃくり上げている旭を下ろしてから詰め寄った。


「旭っ!証を預かれ!」


 トキワは焦りから妹に恫喝して、命の救助に向かおうとするが、青筋を立てた兄の姿に旭は恐怖で悲鳴を上げて、錯乱してしまった。


「あーあ、泣かしちゃって…これじゃ証の受け渡しは無理ですね」


 最早手がつけられないほど泣き叫ぶ旭を紫が抱きしめて宥めるが、落ち着く気配は見せなかった。どうにもならない状況に、トキワは拳を強く握り歯軋りをしてから必死に心を落ち着けようとしたが、苛立ちが募る一方だった。


「あさちゃん」


 騒ぎを聞いて駆けつけたのか、サクヤが旭に優しく声をかけると背中を撫でた。


「サクちゃん…」


「大丈夫?落ち着いて」


 静かな口調でサクヤは黒い霧を発生させた。精神を落ち着かせる闇の魔術のようだ。旭は次第に落ち着きを取り戻し泣き止んだ。その様子にトキワも冷静になり、再度旭に証を託そうと試みる為、シャツのボタンを外して証が見える様に胸板を露わにした。


「旭、さっきは怒ってごめんな。にーに今から悪い奴からねーねを助けに行くから証を預かって貰えるかな?」


「うん、ねーねをたすけて」


 旭は手を差し出すと、兄の胸に触れて証を受け取った。トキワは証を渡すや否や神子の制服のジャケットを脱ぎ捨てると、猛スピードで空へと上がり、命の元へと飛び立った。



 ***



 その頃命は果敢に賊どもの相手をしていた。結界で負傷した者を除くと7人の賊どもが次々と襲いかかって来たが、自身の周囲に真空波を発生させて、距離を取りながら弓で矢を射て何人かの動きを封じた。


「無闇に手を出すな。先程の結界で魔力の大半を使ってしまっているはずだ。このまま魔力切れを待ってから捕らえるぞ。銀髪の子供より価値は下がるが、これだけの魔力があるなら魔石製造機になるし、若い女だから子供を産ませれば水鏡族の奴隷を増やせる」


 仲間に水鏡族がいるだけあって、こちらの魔力事情を知っているようだ。図星を指された命は撤退を考えたが、ここで奴らを逃すとまた子供が狙われるし、攫われた子供達の居場所も掴めなくなる。しかも銀髪の子供を狙っているのならば我が子も危険だ。


 一旦奴らを油断させる為に真空波を止めると、賊どもは再び襲いかかって来た。


「こいつのせいで銀髪の子供を逃したんだ。多少傷つけても構わん、捕らえろ!」


 代わる代わる襲いかかる賊どもの攻撃を命は躱すので精一杯だった。ここ2年間まともに戦闘訓練を行っていなかった為か、身体の衰えを痛感した。ひとまず数を減らそうと、命は攻撃を躱した瞬間に真空波を四方に飛ばして2人ほど気絶させると、武器を奪った。その様子に賊どもは、命にまだ魔力に余力があると判断して距離を取った。


「やはり戦民族は一筋縄では行かないか。だが余計に欲しくなって来た」


 下品に笑いながら舌舐めずりをして、頭らしき男が棒を構えて手下たちを下がらせると、命に襲いかかって来た。せめてこいつだけでも倒せればと、命は気を引き締めて応戦するが、棒術は未経験の為、相手に押された。


「近くで見たら割といい女だな。後で可愛がってやるよ!」


「お断り!」


 頭が振り上げた瞬間に命は、腹部に真空波を食らわせて怯ませると棒で突こうとした。


 しかし突如背後から無数の礫を喰らい、激痛で体勢を崩して武器を落としてしまった。その隙を突かれて命は髪を掴まれ、腹に蹴りを食らうと、意識を失った。



「よくやった。涼」


 礫を放ったのは涼だった。どうやら魔術で発生させてぶつけたらしい。涼は先程負傷した右足を引き摺りながら、仲間の元に近寄ると肩を借りた。


「一刻も早く撤退しましょう。この村には化け物が大勢いる」


「分かっている。収穫がこの女1匹だけなのは残念だが…行くぞ。倒れている奴らは放っておけ」


 手下に指示をしてから頭は地面に倒れている命を担ぐと、指笛で隠していた馬たちを呼んで飛び乗り、村から脱出しようとした。

 しかしその時、これまで経験した事のない位の激しい嵐に行手を阻まれた。


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