281今までも、これからも10
休日明け、幼稚園や学校に通う子供たちに神殿見学は無事会議で可決され、早速旭が通っていた幼稚園に見学に来てもらう事になった。提案したのだから責任を持てと、光の神子に指名されたトキワは、神官たちと協力して前日の夜ギリギリまで準備に追われた。
当日午前中から、幼稚園の園児たちが神殿の入り口前の広場に集結していた。案内は神官たちに任せるつもりだったが、銀髪が珍しい存在では無いことをアピールすべきだと紫に言われて、トキワが担当する事になったが、旭もみんなに神殿が楽しい所だと教えると、一緒に案内すると名乗り出た。すると宣言通り旭を守る為か、サクヤも手伝うと言うので、風の神子代表と次席に加え、闇の神子の3人での案内となった。
時間になりトキワと旭、サクヤが広場に姿を現すと、賑やかだった広場がしんと静まり返った。それだけ銀髪の神子たちの美貌は異彩を放っているのだ。
「皆さん、おはようございます。ようこそ神殿へ。私は旭の兄で風の神子代表を務めているトキワと申します。彼が闇の神子のサクヤ、そして皆さんのお友達の風の神子の旭が今日は一緒に神殿を案内します」
努めて笑顔と優しい口調でトキワが話すと、一部の園児と引率の女性教諭が顔を赤らめて、目を蕩けさせていたが、教諭は我に返ると自らを律して、園児たちにお願いしますと一斉に言わせた所で、案内を開始された。旭は緊張した面持ちだったが、サクヤが手を握ってあげると励まされて、力強い笑顔を浮かべた。
「まず、こちらでは皆さんの生活に欠かせない魔石を販売しています。例えば、この水魔石でお風呂にお水を溜めて、この火炎魔石でお水をお湯にしたりします。他にも色々な使い方があるので、お家に帰ったらお父さんとお母さんに聞いてみてください」
説明に対して何か質問があるかとトキワが尋ねると、園児たちが元気よく手を上げたので教諭が指名した。
「ませきってだれが作っているの?」
指名された男児の質問に、トキワはにっこり笑うと事前に用意されていた魔石作成に使われる石を手に取った。
「神殿で販売されている魔石は、私たち神子と神子のお手伝いをしてくれている神官が作成しています。今から試しに作ってみますね」
魔力を込める前の白い石を園児たちに見せた後、トキワは石に魔力を込めて魔石を作成した。完成した魔石は緑色に変わり、早速使ってみると、周囲に風が吹いて園児たちを驚かせた。
そして同じフロアにあるお札の販売所、結婚式の受付所に写真館を説明してからチャペルに向かった。
「ここでは結婚式が執り行われます。皆さんのお父さんとお母さんもここで結婚式を挙げたかもしれませんね。私もここで妻と結婚式を挙げました」
この解説でトキワが既婚者だと知ると、先程目を蕩けさせていた女児はショックを受けた表情を浮かべたので、腹の中で苦笑しながらトキワは次に野外劇場のステージと屋内劇場の特別席などを案内した。
続いて厩に向かうと、馬車や早馬で活躍する馬たちに園児たちは目を輝かせた。中でも一番人気なのは、一角獣のディエゴだった。馬たちについては待機していた雷の神子の雀が分かりやすく園児たちに説明してくれたので、トキワは少し楽が出来たと、こっそりため息を吐いた。
その後図書館で暦の説明を聞いた後、訓練場に移動して手合わせをしている神官たちを遠くから観戦した。園児たちからトキワは戦わないのかと問われたので、手の空いていた神官と簡単に手合わせをして見せた所、熱い声援を貰った。
最後にメインイベントとなる精霊礼拝を風の神子の間に園児たちを招待して行う事になった。
「神子はいつも朝と夕方に精霊とお話をします。風の精霊が今日は風が強くなるとか、逆に風が吹かなくて暑くなるとか様々なことを教えてくれます。今回はその様子を皆さんに特別にお見せします。旭、よろしく」
トキワが目配せすると、旭は大きく頷いてサクヤを見てから手を離して、1人祭壇の前に立つと、古代語で感謝の言葉を唱えて、精霊たちを呼び会話を楽しんだ。風の精霊達は相変わらず「カッコつけているトキワがおかしすぎて笑える」「幼稚園の先生がいつもよりお化粧の時間が長かった」などと、どうでもいいことを話す中で「園児たちは旭との仲直りをしたがっている」「旭がんばれ!私たちがついているよ」と、激励の言葉を贈ってくれたので、旭は勇気づけられ笑顔を浮かべながら優しい風に包まれた。
「風の精霊は何て言っていた?」
礼拝を終えた旭にトキワが問いかけると、旭はクスクスと笑いながら風の精霊達が囁いたどうでもいいことを口にすると、園児と引率の教諭たちから笑いが沸き起こった。
「と、まあ村が平和だと風の精霊たちは余計なことしか言いません。これは風の精霊だけで他の属性の精霊達はもっと真面目です」
皮肉げにトキワが説明すると、園児と教諭は更に笑い、風の精霊たちはブーイングをするようにトキワの髪を乱そうとするが、今日は神子仕様に前髪を撫で付けていたのでダメージは少なかった。
予定していた見学を全て終えて広場に戻ると、園児達は声を揃えてお礼を言った後、数人の園児たちが旭の前に近寄って来るや否や「ごめんなさい」と大きな声で謝り出した。
「あさひちゃん、今までからかってごめんなさい」
「わたし、あさひちゃんのきれいなかみのけがうらやましくて、いじわるいっちゃった…ごめんなさい」
「こないだはじめてに港町に行って、いろんなかみのけの色の人がいるってわかった。あさひちゃんだけちがうからってなかまはずれにしてごめんなさい」
その後も口々に謝る園児たちに、旭は戸惑いながらもサクヤの手をギュッと握ると、春の風のような温かい笑顔を浮かべた。
「もういいよ。なかなおりしようね!」
旭が許した事で園児達も笑顔を浮かべた。教諭も長い事悩んでいたのか、旭たちの仲直りに涙ぐみながら良かったねと喜んでいた。そして見学を終えた園児達と旭とサクヤは、広場で仲良くお弁当を食べていた。園児達は旭にカッコいいお兄さんがいて精霊とお話ができてすごいと絶賛されていた。そんな微笑ましい光景の中、トキワは仲直り出来たのはいい事だが、旭が神子を辞めて幼稚園に通い出したら困るなと自己中心的な考えを巡らせるのであった。




