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28誕生日にはチェリーパイ4

 翌朝、レイトに連れられ山を下り辿り着いたのは、港町だった。トキワにとっては年に何度か父親と乗合馬車に揺られて三時間くらいかけて遠出する場所だが、レイト曰く近道だからと獣道を進み一時間ほどで到着した。


「これからギルドに行ってお前の冒険者登録をして依頼を受ける」


 レイトの後ろを追いながら入った建物には屈強な戦士達がひしめき合っていた。見たところ同族が多い。トキワは大人しくレイトと列に並ぶ。


「レイちゃんお久しぶりー今日は祈ちゃんはいないのね、さみしー!」


 窓口で出迎えたのは金髪の妙齢の受付嬢だった。レイトと祈とは顔馴染みのようだ。


「祈は身重でな、もう連れて来れないだろう」

「あら、おめでとうございますー!でも優秀な働き手が減って残念だわー」


 ペンをくるくると回しながら受付嬢がケタケタ笑えば、香水の匂いが鼻につく。


「代わりと言っちゃなんだがこいつの登録を頼む」


 レイトの背中からトキワがひょいと顔を出し頭を下げると受付嬢は声を上げる。


「キャー可愛いー!!すっごい美少年じゃない!お目目ぱちくりでまつげバサバサでお人形さんみたい!なになに?レイちゃんの隠し子?」


 テンション高く捲し立てる受付嬢にトキワはひるみ、レイトの背中に隠れる。とって食われそうな気がしたのだ。


「馬鹿言うな!こいつは俺の弟子でトキワ。俺と同じ両手剣使いで風属性だ。年齢は…まだ十歳だよな?」


 レイトの確認にトキワは頷く。手続きで必要な情報なのだろう。


「ギルドに登録されてると思うんだけど、東の集落のトキオさんとこの息子だ」

「へー、父さんも登録してるんだ」

「水鏡族の大半はしてる。臨時収入が欲しい時に便利だからな」

「はいはいはい、私のトップイケメン冒険者に入ってますよ!パパさんだったのねー残念!奥さんは登録してないから独身だと思ってたのになー」


 登録名簿をめくりながら受付嬢はトキオの既婚を惜しむ。


「お前のお袋さん登録してないのか。珍しいな」

「……あの人引きこもりだし、働いたら負けだとよく言ってるので。最近は俺も手伝えるようになったけど、父さんが惚れた弱みか家事も全部引き受けてます」


 楓は毎日ごろごろと寝たり、本を読んでるだけの生活をしている。だからこそ最近ご機嫌で命のために火炎魔石を作る姿がトキワには異常に思えた。


「お前も色々大変だな」


 トキワの頭をポンポンと撫でながらレイトは労う。そして窓口に立たせて登録に必要な書類を書かせた。


「冒険者にはランクがあってそれに応じた依頼しか受けられないの。トキワちゃんは登録したての新人だからEランクね。ただし、同行者にBランクのレイちゃんがいるから今日は一つ上のDランクの依頼まで受けられるわ」


 書類を記入してある間、受付嬢はランクの説明をする。


「師匠のBランクてすごいの?」


「そうね、二十歳にしては凄い方ね。大体Bランクに到達するまで普通の人なら三十年、水鏡族なら十五年位かかる所を八年で到達してるからね」


 受付嬢の説明にまさかそんなに強いと思っていなかったため、トキワは改めてレイトを尊敬した。


「ランクはいくつまであるんですか?」

「ランクは基本SからEまでだけどー、度重なる依頼の失敗や犯罪を犯した冒険者はFランクにされちゃうの。あとSランクは世界の危機を救った冒険者…勇者様ご一行とかじゃないともらえないわね。ちなみに世界を救ってなきゃ例え勇者でもSランクはもらえないわ。だからここ百年くらいはSランクの冒険者は存在しないわ」


 今まで全く気にした事が無かった村の外の世界の話にトキワは興味津々だった。


「今勇者っているんですか?」

「いるわよ。現在十五歳でランクはDランク…海の向こうの国に所属してるわ。あまりやる気がある子じゃないって噂よ」

「まあ、魔王があれじゃ張り合いもないしな」

「魔王もいるの!?」


 レイトの発言にトキワは驚く。勇者とか魔王だなんて、命が読んでくれた絵本の世界の話だけだと思っていたからだ。


「魔物がいるからそりゃいるだろ。魔物を統括する王様みたいなものだ」

「そうね、ただ今の魔王て、世界征服には興味無くて人間の姿をして種族問わず女を食い散らかすことに夢中なのよ」

「人間の姿をしてても魔王て分かるんですか?」


 トキワの問いに受付嬢は首を振る。


「個人の特定は無理だけど、魔王がいる一帯は魔物が強くなるから後日報告されて、あーいたんだなーって具合にわかるの」

「あとは食われた女の証言だな。ただ決まって合意の上だったと言うから被害としてカウントされない。魅了(チャーム)されたか、本気なのか…そこまでは分からないしな」


 そこに愛があれば被害とはいえない。ずるいところを突く魔王にレイトと受付嬢も顔をしかめる。


「魔王に食べられた女の人が喋るって、一体どういうことなんですか!?もしかして幽霊?」


 魔王の蛮行を嘆く受付嬢とレイトの会話にトキワは心底驚いた表情で問いかけた事により気まずい空気が流れた。



「……あーすまん、お前にはまだ早い話だった。忘れてくれ」

「そうね、それより書類は出来たかしら?うん、はい!ばっちりよ。じゃあギルドカード作るから出来上がるまでレイちゃんと依頼を選んでねー。今ある依頼はこちらでーす!」


 完全にはぐらかされたが、トキワは特に気にせず手渡された依頼表をレイトと眺めてギルドカードを待つ事にした。



 

 



 

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