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279今までも、これからも8

 トキワは早朝に目を覚ましたクオンと共に、神殿内を散歩した。まだまだ頼りない足取りで歩く息子を応援しながら見守って、厩の前を通ると、雀が契約している一角獣のディエゴに魔力を与えていた。トキワはディエゴと相性が悪いので、息子にも同じ対応をされたらたまらないと思い、興味津々のクオンを抱き上げて危害を加えられないように距離を取ってから、雀に挨拶をした。


「おはよう、朝から親子でお散歩?可愛い」


 朝が似合わない妖艶な微笑みで挨拶をする雀に倣うように、ディエゴは一つ鼻息を鳴らした。クオンは目を輝かせて声を上げて手を伸ばすが、危ないとトキワは窘める。


「大丈夫よ。ディエゴはトキワくん以外には優しいから。私に任せて」


「もしクオンになんかしたら、その駄馬を解体して夕飯にするからね」


「あら野蛮ね。さあ、クオンちゃんおいで」


 雀はトキワからクオンを受け取ると、ディエゴに近寄った。クオンは物怖じせず、ケラケラと笑いながらディエゴの鼻梁に手を伸ばすと、やや乱暴に撫でた。しかし雀の言う通り、ディエゴは怒る事なく大人しくしていた。


「へえ、見直した。ありがとうな」


 上機嫌のクオンを受け取り、トキワが素直にお礼を言うと、ディエゴはそっぽを向いた。雀が言うには照れているらしいので、吹き出しそうになりながら厩を離れた。神殿内を一周してお腹も空いて来た所で、風の神子の間に戻ると、朝の礼拝を終えた旭と、先日採用したもう1人の女性神官の涼が紫と共に待っていた。


「にーに、くーちゃんおはよー!ごはんたべよう」


「おはよう旭、朝ご飯待っててくれたんだ」


 先に食べていていいと紫伝えていたが、旭がみんなで一緒に食べると聞かなかったらしい。トキワは旭の頭を撫でながら食堂に行こうと誘った。命は様子を見た所、まだ寝息を立てていたのでそっとしておいた。


「奥さんお疲れなんですね。やはり子育てと仕事の両立が大変なのでしょうか」

 

「…そうだね。まあ今日は俺がクオンと一緒にいる分ゆっくり休んで貰うつもりだから、もしちーちゃんに来客があっても絶対取り継がないでね」


「かしこまりました。他の者にも伝えておきます」


 母親として孤軍奮闘しているのに、昨晩は更に妻として求めた自分にも責任がある自覚があったので、トキワは今日一日は命を労ろうと決意していた。

 食堂に着くと、朝食を取る神子と神官で溢れていた。紫が素早く場所取りをしてくれたので、席に着くと食事の用意をした。

 トキワはクオンに朝食をやりながら自分はパンを口に放り込み、涼に今日の旭の予定について確認した。午前中に両親が来るらしく、その際トキワにも話があるので顔を出して欲しいとの事だった。恐らく旭の今後についてだろうと予測して了承すると、手掴みで食べ出したクオンの様子を見ながらゆで卵にかぶりついた。

 

 朝食を終えて、食堂で命の為にパンと茹で卵とトマトとフルーツを籠に詰めてもらい、風の神子の間に戻った。応接スペースでトキワは旭とクオンと積み木遊びをして時間を過ごしていると、命が顔を見せた。シャワーを浴びたのか髪の毛がほんのりと湿っている。


「おはよう…もうこんにちはかな…」


「おはようちーちゃん、ご飯あるよ。食べたら?」


「うん、ありがとう」


 母親に気付きながらも積み木遊びに夢中なクオンに笑みを浮かべながら、命は甲斐甲斐しく食事の用意をするトキワに勧められて席について、遅めの朝食を取った。

 朝食を終えてもう一休みすると命が寝室に戻ろうとした矢先に、トキオと楓がやってきた。義両親が来たのなら寝ていられないと、命は申し訳程度に化粧をしてから2人に挨拶をすると、クオンの遊びに付き合う。旭はサクヤに会いに行くと神官と共に退室した。


「旭はどうだ?神殿の生活にはなれたかな?」


 まず最初に旭の心配をする父親にトキワは問題無いと頷く。両親は安堵しながらもどこか寂しそうだった。これから可愛い盛りの娘と離れ離れなのだから無理もない。自分も愛する妻子と同じ状況だから、トキオと楓の気持ちは痛いくらいに分かった。


「じつは旭が通っていた幼稚園から手紙が届いてな、旭を揶揄っていた園児たちが旭がいなくなってから元気が無いそうだ。まったく旭を散々追い詰めておきながら都合の良い話だ」


「元気が無いというのは旭ちゃんがいなくて寂しいから?それとも傷つけた事を悔いているからでしょうか?」


「両方だろうね。先生が言うには旭は可愛いから男の子達が照れ隠しにちょっかいを出してきたり、女の子から嫉妬されたりしていたらしいから」


 楓のぼやきに命が問うと、トキオが事情を説明した。確かに旭の珍しい銀髪と愛らしい容姿は、羨望と憧れの的だったのかもしれない。しかし素直な気持ちで接することが出来ないのは大人も子供も同じなのだ。もちろんだからといって傷つける理由にはならない。


「トキワは幼稚園の頃どうだったの?旭ちゃんみたいに揶揄われたりしなかった?」


 命が知る限り少なくとも1人、同級生の香は妬んでいたので何かしら被害に遭っていると推測した。しかしトキワは心当たりが無いのか首を傾げていた。


「こいつは何か言われても言い返さず暴力で解決していた。トキオさんが何度謝りに行ったことやら…」


「ああ、そうだった。髪の色がおかしいって言われたから、近くにあった積み木で…今クオンが持ってる奴みたいなので殴ったんだ。あの時カナデが証言してくれなかったら、俺が一方的に悪くなる所だったんだよね」


 天使の顔をしておきながら、トキワは幼少の頃から悪魔な一面があったようだ。命はクオンにその点は父親に似て欲しくないと心から願った。


「旭ちゃん達が仲直りした方がお互いにとっていいとは思うけど、どうしたらいいのかな…」


「そういった場を設けてはどうかと園からは提案されているけど、旭は神殿から出る事を拒んでいる。家にさえ帰ろうとしないよ」


 親が恋しくなって、すぐ帰って来ると考えていたトキオの予想を大きく裏切り、旭は頑なに家に帰ろうとしなかった。それだけ神子になるという意志が強いようだ。


「じゃあガキどもをこっちに来させよう。以前から幼稚園や学校に通う子供達に神殿を見学させる計画を立ててたから、会議で提案するよ」


 園児達が銀髪持ちに対する偏見を無くすには、他にも銀髪持ちがいる事を示す方がいいとトキワは考えていた。それが功を成すかどうかは分からないが、やってみる価値があるし、見学をする事で神子や神官に憧れてくれたら、将来の人材確保に繋がると期待していた。


「…お前、すっかり神子らしくなったな」


「そりゃどうも」


 感嘆する楓にトキワはサラリと返したが、母親に褒められて少しだけ嬉しくもくすぐったい気分になりつつ、クオンの世話を両親に頼み、命には部屋で休むよう伝えると、早速書類の作成に取り掛かった。


 


 




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