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275今までも、これからも4

「雷?全然気づかなかったよー」


 次の休日、トキワは嵐の夜は大丈夫だったかと命に問うと、けろりと返事が返って来た。


「多分雷が酷くなる前に寝たからかな?クオンも私に似て寝つきがいいからお互い起こされもしなかったよ」


 妻子が雷に怯えて眠れない夜を過ごさなかった事にトキワはほっと胸を撫で下ろしてから、前方でランニングをしている男女の集団を見た。


 今日は休暇を取りたかったが、旭の補佐を担当する神官の採用試験があったので、命とクオンと共にベンチに座り、試験の様子を見守っていた。


 試験は平日に行いたかったが、休日の方が集まりやすいという紫からの助言で、仕方なく本日開催となっている。


「うーん、若い女の子ばっかだね。トキワ様モッテモテー!」


 体力と戦闘能力の試験にも関わらず女性達の化粧やヘアメイクは気合が入っていた。しかし初っ端から1時間のランニングという課題なので、彼女達の苦労も水の泡となるだろう。


「ちーちゃん以外にモテても嬉しくないよ。まあ、旭の補佐を担う神官だから女性も最低1人は採用する予定だけどね」


「まあそうなるよね。ところでこの採用試験はいつもこんな感じなの?」


「選ぶ神子によって違う。俺の場合は体力と戦闘能力で選ぶことにしてる」


「なんで?」


「俺の手合わせの相手になってもらいたいのもあるけど、旭はまだ子供で身を守る力が乏しいからね。大した魔術も使えないし、体力も無いし、自分の武器も使い方が分かっていない」


 両親によると旭は子供の頃のトキワと同様に制御が苦手で、幼稚園の大木を一刀両断してしまってから、怖くて魔術が使えなくなっているらしい。それも幼稚園に行きたく無い理由の一つのようだ。


「旭ちゃんの武器って何なの?」


 そういえば聞いたことがなかったと思い、命が問いかけると、トキワは言いたくなさそうに口をへの字に曲げたが、どうせバレる事だと観念して教える事にした。


「…弓だよ。ちーちゃんと一緒」


「えー!私と一緒なの!?嬉しい!」


 義妹が自分と同じ弓使いだという事に、命は手を合わせて歓声を上げた。友人や身内に同じ武器がいなくて少し寂しかったので、喜びもひとしおだ。


「基礎的な事なら私でも教えてあげられるからいつでも頼ってね!」


 やはりそうなるかとトキワは心の中で嘆いた。旭に弓を教える人間をいずれ雇うつもりではいたが、命に頼めば家族で過ごす時間が減ってしまうので、それは避けたかった。


「気が向いたらね…あ、ランニングが終わったみたいだな」


 試験の参加者達が足を止めて肩で息をしながら休憩していたので、トキワはベンチから立ち彼らに近寄ると、労いの言葉と休憩時間の後戦闘能力を見る為にトキワが直接実力を見る事を告げると、一部から嬌声が聞こえた。


「これはハプニングを狙った破廉恥な展開が起きそうですね」


 紫が飲み物を手渡しながらとんでもない予想してきたので、命は思わず吹き出してしまった。もしそんな事が起きたら流石にトキワも狼狽えるかもしれないと想像すると、堪えきれず笑い出してしまった。


「何笑ってるの?」


「ううん、なんでもない」


 戻って来たトキワは笑っている命に首を傾げながら、その場で準備運動を始めた。そして参加者達の休憩時間が終了すると、念の為にと命とクオンの周りに危険が及ばないように強力な結界を張ってから、参加者達の腕試しへと向かった。


「それでは受付番号順にお願いします。制限時間は1人5分、武器を落とすか、膝を突いたらその時点で終了になります。遠慮せず私を倒しても構いませんので本気でどうぞ。こちらも本気で挑みます」


 簡単な説明をしてからトキワは左耳のピアスを両手剣に変えると訓練場の中央へと移動した。その後ろを審判の神官と最初に挑む少女が続いた。少女の武器はトンファーにも関わらず、服装はふわりとしたプリーツミニスカートだったので、遠くから見守っていた命はアンダーパンツを履いている事を願った。


「あれは絶対偽乳ですね」


 少女の丸い胸に視線を向けると、紫が呟いた。命はスカートに気を取られていて気づかなかったが、言われてみれば胸の形に違和感があった。


「風の神子の巨乳好きは有名ですから好みを寄せて来たようですね」


「まさか私のせいでそんな不名誉な事になってるなんて…」


 直接聞いたことは無いが、トキワは胸が大きいから命が好きだという訳ではないはずだ。現に命よりも胸が格段に大きい雀にはまるで興味を示していなかった。とりあえず母乳が出なくなり、大きさが落ち着いたら、今よりも胸が目立たない服装を心掛けようと夫の名誉の為に誓った。


「始め!」


 神官の合図で手合わせが始まった。少女は可愛らしい掛け声と共にトンファーを振ったが、瞬時に動きを読まれてしまい、トキワから背中を足の裏で突き飛ばす様に蹴られて、前方に吹っ飛ばされてしまった。時間にすると僅か10秒ほどの出来事だった。


「うわあ…」


 少女相手に容赦しない夫の姿に命は引いてしまった。その後も参加者達はトキワの無慈悲な攻撃に悲鳴を上げた。


「前から思っていたのですが、風の神子の戦闘スタイルって品がないというか、型破りというか…粗雑というか…すみません、いい褒め言葉が見つかりません」


 紫の感想に命は苦笑を漏らし、心なしか楽しそうに参加者との手合わせをするトキワを見た。最後の対戦相手の女性の綺麗に巻いた髪の毛に目もくれず、女性のハンマーによる攻撃を刀身で受け止めた。


 武器の耐久性は魔力の量が影響するとはいえ、よく折れない物だと命が感心しながら行く末を見守ると、最終的にトキワが競り勝って、女性は尻餅をついて武器を離した為敗北となった。


「お疲れ様でした。別室にお昼ご飯を用意しているので召し上がって下さい。その後採用者を発表いたします」


 額から流れる汗を拭いながらトキワは参加者達を労うと、神官に案内を任せてから、休憩と選考の為に命達と風の神子の間に移動した。


「新しい神官は決まりそう?」


 クオンに離乳食を食べさせている命がトキワに問いかけると、少し考えてからニンマリとした。


「男2人と女2人、予想より筋がいいのがいて助かったよ。あとは旭との相性が良い事を願うのみだね」


 神官に採用する者達の名前を書類に書くと、紫に渡して今日の仕事は終わりだと言わんばかりにトキワは大きく伸びをして、シャワーを浴びに行くと浴室に向かった。


「あとの仕事を私に押し付けるつもりみたいですがそうは行きませんからねー」


「いつも夫がご迷惑お掛けしています…」


 眉間にしわを寄せる紫に、命は思わず労いの言葉を掛けるのだった。それに対して紫は今の言葉凄く人妻ぽくて色気があったと言うので、命はまたも紫に笑わされてしまった。



 

 



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