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273今までも、これからも2

 一旦トキオと楓は旭の着替えなどを取りに帰って行った。トキワは神官に頼んで自分が代行時代に使っていた部屋を旭が暮らすために整えてもらう様依頼すると、旭を風の神子の間に呼びつけた。


「にーに!ねーね!くーたん!」


 花が咲いた様な笑顔で旭が駆け寄ってきたので、命は優しく抱き上げると、甘やかすなというトキワの視線が突き刺さったので、旭を下ろす事にした。


「旭、本当に神子になるのか?」


「うん!」


 丸く大きな目をキラキラと輝かせて神子になるという妹に、トキワは真顔で問い続ける。


「神子になったらもう外には出られないし家にも帰れないぞ」


「うん!あさひ、しんでんにすむ!」


「遊ぶだけじゃ駄目だ。神子の仕事も勉強も運動もたくさんしないと行けない。やれるか?」


「うん!おしごともおべんきょうもうんどうもがんばる!」


「パパとママにもすぐ会えないけど平気か?怖くなっても毎日ずっと1人で寝るんだぞ?」


「…へいきだもん」


 5歳になり変現の儀を終えている旭は自宅ではもう既に1人で寝ているとトキオは言っていたが、まだ慣れないのだろう少し不安そうに旭は返事をした。


「にーには一緒に寝てやらないからな。サクヤもばあちゃんもだ。風呂もそうだ。1人で入れる様に練習しろ」


「………」


 厳しい兄の言葉に、旭の勢いは次第に無くなってきた。命は今にも泣き出しそうな義妹を慰めたくてしょうがなかったが、そんな事をしたら心を鬼にして突き放しているトキワの気持ちを無駄にする事になるので我慢すると、クオンを抱き上げて静かに退室しようとした。


「がんばるっ!ぜったい、ぜーったいみこになる!サクちゃんといっしょにいたいの!」


 両手を振りながら旭は部屋中に響き渡る位の大きな声で神子になる事を誓った。あまりの迫力に命はもちろん、クオンも目を丸くさせて驚いていた。一方でトキワは勝気に微笑んで、旭の頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。


「よし、じゃあ今から旭は風の神子次席だ。今日から毎日朝と夕方に精霊礼拝をするように!」


「はーい!」


「とりあえず夕方の礼拝まで勉強だ。紫さん、旭に色々教えてやって」


 入り口に控えていた紫にトキワは声を掛けると、紫は旭を連れて風の神子の間にある執務室に連れて行った。


「よっしゃ!これで俺も外に出られるようになる!クオン、お父さんとピクニックに行こうな!」


 旭の姿が見えなくなった途端、トキワは本性を現してクオンを命から受け取ると、高く掲げて親子でのお出掛けに胸を馳せた。


「あんなに偉そうにしておきながら勉強を教えるのは紫さんなんだね」


「ちーちゃんとクオンが帰るまで俺は休暇だから。終わったらちゃんと教えるよ。妹よりも家族サービスの方が大事!休みが明けたら色々忙しくなるしね」


 言い訳をしてトキワが愛おしげに頬擦りすると、くすぐったいのかクオンは声を立てて笑っていた。美しい父子の姿に命は目を細めつつ、これから困難と戦う事になるであろう義妹を少しでも支えようと心に誓うのだった。


 夕方になると勉強でクタクタになった旭が祭壇へ向かい、いつの間にか用意されていた神子の衣装に身を包んで精霊礼拝の儀を行なっていた。これについてはトキワが兼ねてより仕込んでいたので慣れた様子だった。その後夕飯はみんなで食べようという事になり、光の神子の間で光の神子とサクヤ、そしてミナトと暦夫妻、トキワと命とクオンに旭と賑やかな晩餐となった。


「遂に旭が風の神子になってくれて嬉しいわ」


 光の神子はご満悦の様子でワインを口にしていた。どうやらお酒が好きなようだ。


「この調子でクオンも神子になれば神殿も安泰ね」


「まだ卒乳したばっかりの赤ちゃんなので…当てにしない方がいいですよ」


 ひ孫が神子になる事を期待する光の神子に命は苦笑いをした。


「クオンは確か水属性だったわよね。水の神子はミナトさんのご兄弟と姪御さんが次席以降控えているから後継者には困ってないわ」


 暦のフォローにトキワと命は感謝した。クオンには医者になって欲しいという願望はあるものの、好きな職業を選んで欲しかった。


「だったら次の子供に期待ね。予定はいつなの?」


「ばあちゃんには関係ない」


 早くも第二子を希望してくる祖母にトキワはうんざりとした表情で睨んでから、クオンに離乳食を与えた。


「酷いわ、みんなして年寄りをいじめる…そうだ旭、神子になったならついでにサクヤの許嫁にならない?」


「いいなずけ?」


「そう、大きくなったらサクヤのお嫁さんになって欲しいの。そしたらサクヤとずっと一緒にいられるわよ」


 新たな光の神子の計画に大人達は仰天して耳を疑ったが、サクヤとずっと一緒にいられるという言葉に旭はこれまでにないくらい目を輝かせた。


「なる!旭、サクちゃんのいいなずけになる!」


「よし来た!サクヤもいいわよね?」


 上品にフォークで白身魚のフリットを食べていたサクヤは口の中の物が無くなると、コクリと頷いた。これで決まりだと言わんばかりに光の神子は手を叩いた。


「兄として止めないの?」


「めんどくさいからいいや」


 旭も嬉しそうだしと付け加えてから、トキワはまた一口クオンに離乳食を食べさせると、おいしいかと問いかけてそれ以上は言及しなかった。


 翌日、旭が風の神子次席になり、サクヤの許嫁になった事は神殿中に知れ渡り、様子を見に来たトキオと楓を愕然とさせたのであった。


 

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