250思い出作り3
トラブル吸引体質な命の事だから、海の魔物で有名なクラーケンでも出て来るのではないか、もし出てきたらどうやって倒すか命とトキワはレストランでイカがたっぷり入った海鮮パスタを食べながら作戦を立てていたが幸い魔物は現れず、旅客船は順調に航路を進み波も比較的穏やかだった。
昼前から夕方までぐっすり眠ってしまったから夜眠れるか命は不安だったが、照明を消してベッドに横になるとたちまち睡魔がやって来て夢の中へと誘われて新婚旅行1日目を終えた。
翌朝命はいつもより早く目が覚めた。まだトキワがベッドで横たわり寝息を立てている。結婚してからはいつも彼が先に起きて後に寝ていたので久々にお目にかかる天使の様な寝顔に命は愛しさを表情ににじませた。
トキワが起きてからはレストランで一緒に朝食を取ってから、運動がてら船内とデッキを散歩して設備にトレーニングルームがあったので午前中はそれぞれ体を虐めて時間を潰した。その後シャワーを浴びて昼食を取ってからは、客室で命は手慰みに編み物をトキワは読書の続きをしながらゆったりとした時間を過ごした。
2時間程して旅客船は常夏の島に寄港した。ここで補給を済まし、翌日の昼に再び大国を目指し出航となる。命とトキワは夏物の服に着替えて受付に外出届を出してから船を降りると、予約していた水上コテージを訪れた。
「すごーい!素敵!」
リゾート感溢れるコテージに命は目を輝かせた。天蓋付きのベッドや自然素材を生かしたインテリアが南国情緒を引き立たせて、気分が盛り上がった。ジャグジー付きのバスルームはガラス張りで外の景色を楽しめる仕様になっている。
「見て見て!海が透明だ!非日常感に癒されるぅー!」
設備の説明をしたスタッフが用意してくれた南国の花をあしらったトロピカルフルーツのウェルカムドリンクをテラスで二人で肩を並べて飲めば命はすっかり上機嫌だった。
「早速海に入ろう」
「泳げるの?」
「足がつくところで遊ぶ」
あまりにもテンションが高い命にトキワは釘を刺す様に確認すると、命は海へと続く階段を指差してから
部屋に入り、黒のノースリーブワンピースをたくし上げてから一気に脱いだ。普段の彼女からは想像出来ない大胆な行動にトキワは目を見張ったが、下に水着を着ていた事に気付くと少しホッとした。青の三角ビキニを着た命は脱いだワンピースを畳んでベッドに置くと、タオルをテラスの椅子に引っ掛けてから思いっきり海に飛び込んだ。
「がぼっ…思ったより深い!助けて!」
海が透明で底が見えていた為、浅いと思っていた場所が殊の外深く足がつかなかったので、命は手足をバタつかせて溺れてしまった。トキワは右手で頭を抱えてため息をついてから靴を脱いで服を着たまま海に飛び込むと命を救助した。
「ちょっと浮かれすぎちゃったね」
「はい…」
「あと準備運動忘れてたよ」
「はい…」
びしょ濡れになった服を脱いで絞りながら、トキワはテラスで正座する命を静かに説教した。
「それと気になったんだけど、その水着新しく買ったの?」
新婚旅行を計画した時には新しく水着を買おうと考えていたが、二人揃って買いに行く暇が無かったので持っている水着で済ます事になっていた筈だが、命が着ていたビキニはトキワにとって見覚えのないビキニだった。
「え?去年みんなで川で遊ぶのにお姉ちゃんが買ってくれた水着だよ。覚えてな……あっ!」
言葉の途中で命は去年の川遊びはトキワは不参加で、後々面倒だから秘密にしていた事を思い出して顔を青くさせた。
「へえ、俺に黙ってそんな露出度が高いビキニ着てみんなと遊んだんだ…」
去年の夏は風の神子が病で伏せがちになり命とろくに顔を合わすことが出来なかったが、まさかこんな事をしていたとは思わずトキワは嫉妬に震えた。
「みんなってあれかな、実ちゃんと祈さんとヒナちゃんカイちゃん…師匠とイブキか…」
自分より先に命のビキニ姿を見たと思われる面子を恨みリストに入れるように挙げるトキワに、命はリストを破り捨てるように声を上げてトキワに抱きついた。
「い、今は新婚旅行なんだから私以外の名前を呼ばないで?」
必死に取り繕う命の言葉にグッときたトキワはこれ以上追及するのを止めて、ニヤリと笑うと命の背中に手を回して強く抱きしめ返した。
そしてトキワは濡れてしまった事だしと水着姿にはならず上を脱いだだけの状態で改めて夫婦仲良く水遊びをしてからシャワーで海水を流し着替えると、身なりを整えてからひと休みした後、水上レストランでディナーを楽しんだ。海鮮を中心としたこれまで食べた事ないような珍しいメニューが殆どだったが、意外と口に合い命はパイナップルのカクテルが気に入りトキワの制止を振り切り何杯もおかわりした。
食事を終えてへべれけになった命を背負ってトキワは水上コテージに戻ると、酔い覚ましに水を飲ませてあげた。
「えへへ、トキワぁ…チューして」
「はいはい」
酔っ払った命がキス魔になる事が予想出来ていたトキワは歓迎するように彼女の唇に食らいついた。パイナップルとアルコールが混ざった吐息がいつもと違う命の魅力を引き立てて、酒を飲んでいないのにこっちまで酔っ払ってしまいそうだった。
このまま寝かせてあげたい気持ちもあったが、化粧を落とさないと命が翌朝悲鳴を上げる事を知っていたので風呂に入れる事にした。
「ちーちゃん、お風呂に入ろうね」
「はーい」
言質を取ってからトキワは理性と戦いながら赤ら顔の命が風呂で溺れないか見守って風呂から出た命をタオルで包み込んだ後着替えを手伝うと、髪の毛を乾かしてからベッドに転がせば、すぐ様命は寝息を立てて眠り出した。
「そうだよね、このベッド…天国の様な最高の寝心地だからね」
昼間のスタッフの説明でコテージのベッドが因縁の天国のベッドだと聞いた時からトキワはこうなる事は予想がついていたので、くつくつと喉の奥で笑うと浴室に向かいゆっくりと湯船に浸かって月明かりに照らされた海を楽しんだ。




