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242甘すぎる新生活1

 カーテンから差し込む太陽の光と鳥の囀りに顔をしかめると、トキワは上体を起こして体を伸ばした。どうやらもう朝の様だ。トキワは視線を落とし、傍らに眠る妻の姿を確認してから口元をゆるめた。


 トキワが命と結婚してから早3ヶ月、結婚して少しは収まると思ったトキワの命への愛情は、益々深まる一方だった。


 昨夜は少し無理をさせたし、もう少し寝かせてあげたい気持ちもあったが、残念ながら今日は平日で2人とも仕事がある。長針があと1つ動けば騒がしい音を立てるだろう目覚まし時計の仕掛けを切って、トキワは代わりに妻を起こす事にした。


「おはよう、朝だよ」


 妻に優しく声を掛けてから、トキワは優しく頭を撫でてそっと柔らかい唇に口付けた。


「うーん…」


 唸り声を上げて命は目を覚ますと、キスされている事に気付き、そっと夫の唇から離れた。結婚した当初は激しく動揺して悲鳴を上げていたが、毎日されると流石に慣れてしまった。それでも胸のときめきは相変わらずで、いつかときめき過ぎて心臓発作で死んでしまうのでは無いかと危惧していた。


「おはよう。今何時?」


「6時だよ」


「分かったー」


 ベッドから降りて命は伸びをしてからハンガーラックから今日着て行く服と、籠に入れていた下着を手にして、寝室を出て階段を降りて脱衣所で着替えを済ませエプロンを着けると、朝食と弁当の用意を始めた。


 家の中に朝食の匂いが広がる頃、あくびをしながらトキワが仕事着姿で脱いだ寝巻きを片手に階段を降りてきた。寝巻きを洗濯籠に放り込むと、トキワは台所に顔を出して朝食の配膳を行う。準備が出来たので2人で業務連絡を交わしながら朝食を取った。


 今日は命がお昼休憩に買い物を済ませる旨を伝えて、トキワは仕事が終わったら一旦診療所に寄って、買った物を家に持って帰り夕飯の準備をする事になった。朝食を終え命は弁当の仕上げをして、その横でトキワは食器を片付けつつ命の横顔を眺めて満面の笑みを浮かべる。


「手が止まってるよ」


 視線に気付いた命が嗜めると、トキワは益々破顔する。今日が休日ならこのままイチャイチャしたいところだが、平日なので気を取り直して作業を再開した。


 弁当が出来て片付けも身支度も済んだところで、家の戸締りを確認してから先にトキワが家を出た。


「行ってらっしゃい、トキワ」


 玄関で見送る妻の唇にトキワはそっと短く口付けると満足げに微笑んだ。


「行ってきます、ちーちゃん」


 手を振りながら仕事に向かう夫を見送ると、命は家から出て玄関のドアに鍵を掛けて勤務先である秋桜診療所へと向かった。診療所までは徒歩10分の道のりだ。結婚前は自宅の隣だったので、通勤時間はほぼ無かった分遠くなったが軽い散歩になっているので健康にはちょうど良かった。


「桜先生おはようございまーす!」


「ああ、おはよう」


 診察室の桜に声を掛けてから命は更衣室で仕事着に着替えると、箒を持って待合室の掃除をしてから、診療所の外に看板を出した。そして診療時間になると、桜と共に患者を迎えた。今日は検診の患者が多く、命は検査結果の記録に追われたり、乳幼児の相手をしたりと奮闘した。


 乳児検診には命の親友の樹も娘と共に訪れていて、検診を受けながらも、命の新婚生活に興味津々で質問攻めにあってしまった。


 昼休憩になると命は桜と昼食を取った後、一旦普段着に着替えて商店に買い出しに出掛けた。桜からのお使いも頼まれたのでメモをバッグに入れると、体に魔術で風を纏わせて加速移動した。トキワと結婚して融合分裂を行った結果、命は風属性の魔術も使えるようになり、休日はトキワに魔術を教えてもらっている。加速魔術もその一つだ。


 通常診療所から30分かかる商店をわずか10分で到着すると、命はメモを片手にテキパキと買い物を済ませてから休憩時間内に診療所に戻った。


 午後からの診察はお休みで看板を仕舞うと、桜と命は週に一度の往診に回り、最後の患者の往診から帰ると赤い夕焼けが空を支配していた。


「ちーちゃん、桜先生おかえり、お仕事お疲れ様。今日は往診だったんだね」


「ああ、ただいまトキワくん、君もお疲れ様」


「ただいま、待ってて今買い物したやつ渡すから」


 一足先に仕事を終えたトキワが診療所の前で待っていた。桜が診療所の鍵を開けて入ったので、命も後に続き昼休憩に買った物が入った袋を手にした。


「今日はもうトキワくんと帰っていいぞ」


「え、でも片付けが残ってるし…」


「あとは私がやっておくよ。ほらほら早く支度しな」


「ありがとうございます。じゃあお先に失礼します」


 桜の心遣いに感謝して命は更衣室で着替えると、鞄と買い物袋を持って診療所を出た。


「どうしたの?」


「先生がトキワと一緒に帰っていいよだって」


 命と一緒に家に帰れるという僥倖に、トキワは目を輝かせると診療所のドアを開けて顔を突っ込んだ。


「桜先生ありがとう!」


 そして桜に感謝を告げてから、トキワは嬉しさで命に抱き着きたい気持ちを抑えて、命が持っていた買い物袋を引き受けると、空いた手を握り家路へ着いた。


 道中トキワは作ってくれたお弁当が美味しかった事や、材木屋でハヤトに会った話をして、命も相槌を打ってから乳児検診に樹が子供を連れて来た話をしている内に帰宅した。トキワは鍵を開けて先に家に入ると、一旦荷物を置いてから命を迎え入れるように両手を広げた。


「おかえりちーちゃん!ご飯にする?お風呂にする?それとも俺?」


「一緒に帰って来たんだからご飯もお風呂も準備出来てないでしょう?」


 命の指摘にトキワは満面の笑顔のままだった。


「ていうことはつまり一択だよね?」


 言葉の意図に気付いた命は照れ臭い気持ちと戦いながら溜息を吐くと、愛する夫の胸に飛び込んだ。


「ただいま、トキワ」


 どうやら正解だったのか満たされた表情を浮かべるとトキワは可愛い妻の唇におかえりのキスをした。

 

 

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