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241精霊からの祝福10

 全ての日程が終わり、参列者を見送った命とトキワは着替えを済ますと、西の集落の役場へ行き婚姻の手続きをした後、残りの命の荷物を取りに行く為彼女の実家へ向かった。


「ただいまー!」


 実家に帰ると既に光と実が帰宅していて、夕飯の準備をしていた。桜も一緒に食べるのかソファで寛いでいた。


「なんだもう出戻りか?」


「うん、そう」


 桜の冗談に命が乗っかると、トキワが大袈裟に首を振って否定した。


「おかえり命、トキワくんも。疲れてるでしょうから夕飯食べて行きなさい」


 光が台所から顔を出して夕飯を食べて行くよう勧められたので、命とトキワはお言葉に甘える事にした。


 夕飯が出来るまでの間に命は自分の部屋へ行き、忘れ物が無いか確認する事にした。残されたトキワは桜の向かい側のソファに座り背もたれに身を預けた。


「お疲れ様。トキワくんの花婿姿、大好評だったぞ。まさに精霊の化身だってな」


「ありがとうございます。まあちーちゃんの素晴らしさには敵わないけどね。本当に可愛くて最高に綺麗だったな…今日はまるで夢の世界にいるような気分だった」


 今日という1日を振り返るだけでトキワは言葉では言い表せない位の幸福感に満たされた。


「そうだな。ついこないだまで私の周りをうろちょろしてる子供だと思いきや、あんなに立派に美しく成長して…感慨深いよ」


「でも夢じゃ無いんだよね…本当にちーちゃんが俺のお嫁さんになったんだ」


 子供の頃から思い描き憧れていた命との結婚が叶ったトキワは嬉しさから声を震わせた。その様子を見た桜は、こんなにも命を愛しているトキワが命の夫になった事を長年彼女を叔母として見守ってきた身として心から喜んだ。

 

「あ、忘れてた」


 トキワは何かを思い出したようにソファから立ち上がると、棚の上に飾ってあるシュウの写真の前に立って胸に拳を当てた。


「熊先生…お義父さん、これからは俺がちーちゃんを全力で守ります」


 真剣な眼差しで天国のシュウに誓いを立てるトキワの横顔に、桜は彼が大人になったことを実感した。


 食事の支度が出来て命も部屋から降りてきた所で、食卓を囲み夕飯となった。昨夜しばらくは食べることが無いと思っていた光の料理と早くも再開した命は、嬉しくもあるが、結婚して早速親に頼るという情けなさも感じ自嘲して、明日の朝食は腕によりをかけて作ろうと決めた。


 話題は専ら結婚式の事ばかりで、号泣する祈を宥めていたレイトも涙目だった事や、トキワの祖父がどちらも大男で驚いた事、パーティーの料理が美味しかったから今度店にも行きたいなどと和やかに会話した。


「そういえば、お披露目はうまく行ったのか?私達はパーティー会場で待機してたから見てないんだ」


 桜から尋ねられて命は公衆の面前でキスされた事を思い出して、気まずそうに視線を泳がせた。


「バッチリ!原稿通りに挨拶したよ」


 トキワは喋ったら品の無さがバレるからと、風の神子からの方針で代行を務める際は、基本話す内容は原稿が用意されおり、それ以外は喋らない様に言われている。トキワもそっちの方が楽なので従い、無口で無表情でいた結果、村人からは氷の神子代表の霰と同じく、クールビューティーだともてはやされているが、今日の甘ったるい笑顔とキスのせいで印象は変わってしまっただろう。


 夕飯が済んだので命とトキワは家に戻る事にした。幸い明日は休日だからもっとゆっくり桜達と語りたかったが、トキワは早く帰りたいのか、そわそわしていたし、桜や光と実も早く帰れと言わんばかりに他の用事を始めたので、命は諦めて新居に初めて帰る事にした。


「じゃあ明後日診療所で…」


「ああ、またな」


 一緒に家を出た桜に声を掛けてから、命はトキワと手を繋いで家を目指した。実家に残っていた命の荷物は異空間収納に入れて身軽な帰り道だった。

 歩いて10分ほどで新居に辿り着いて、トキワが鍵を開けた。命が先に入ると新築の木の匂いが鼻をくすぐった。


「やぁー…っと、一緒に暮らせる」


 玄関のドアを閉めたトキワが後ろから命を抱きしめて幸せを噛み締めた。熱を孕んだトキワの声に命は全身が熱くなって心臓が早鐘を打った。


「ちーちゃん大好き」


 甘える様に頬に何度も口付けてくるトキワに命は今日一日の疲れと胸のときめきで体の力が抜けて、その場にへたり込みそうになると、トキワは命を抱き上げてソファに運んだ。


「ねえ、お風呂入りたいんだけど…全身汗と化粧でベタベタして気持ち悪い」


 季節は既に夏だし今日一日の疲れを汗と共に風呂で流したくて命は懇願した。


「そうだね、じゃあ夫婦になったことだし早速一緒に入ろうか?」


「今日はゆっくり一人で入らせて…」


 もはや定番になったトキワの提案に、命はテンション低めに断ると、トキワを押し除けて風呂場に向かった。湯船にお湯を溜めると、トキワに先に入ってもらい、命はソファでうたた寝をした。



「ちーちゃん起きて」


 トキワに揺り起こされて目を覚ました命は、ぼんやりと風呂上がりでいつもの髪型に戻ったトキワを見つめた。前髪を上げた姿も精悍でいいが、命は前髪を下ろした髪型の方が落ち着くと感じつつ、大きく伸びをすると、トランクから下着とネグリジェを出して脱衣所へ向かった。


 そして既に用意されているタオルの下に着替えを挟み、服を脱いでから風呂に入った。頑丈にヘアセットされた髪の毛をお湯で丁寧に濡らしてから頭と体を念入りに洗った。そして洗い残しが無いか確認してから湯船に浸かって疲れた体を労る。


「ごめん、ちょっといい?覗いたりしないからこのまま聞いて」


 湯船で腕をマッサージしていると、風呂場のドアをトキワがノックして声を掛けてきたので、命は驚きながら返事した。


「さっき実ちゃんが忘れ物を届けにきてくれたよ」


「あれー、ちゃんと確認したんだけどな。まあいいやありがとう。後でみーちゃんにもお礼言わなきゃ」


「ここに置いておくね」


「はーい」


 そう言ってトキワは命の忘れ物を置くと、脱衣所から出て行った。命は内鍵を掛ける事を失念していたと反省して、今後は忘れずに脱衣所の内鍵を掛けることにした。


 さっぱりしたので命が風呂から上がり、体を拭こうとタオルを手にすると、衝撃の状況に気がついてしまった。用意していた着替えが消えて、代わりにあの先輩メイド達から貰った純白のベビードールと揃いのサイドを紐で止めるタイプのショーツが鎮座していたのだ。


「やられた…」


 初夜にベビードールを着る勇気が無かった命は、実家の自分の部屋の棚の隙間にこれを隠していた訳だが、どうやら実が目敏く見つけて、わざわざ家まで届けに来たようだ。そしてそれを受け取って中身を確認したトキワが平静を装い、用意していた着替えとすり替えたという訳だ。


 一体どこまで二人がグルか分からないが、脱衣所をよく見たら風呂に入る前の着替えまで消えていて、完全にベビードールを着るかタオルを体に巻くしか無い状況だった。


「くっ…どうせ脱がされる運命だ!」


 タオルで髪と体を拭くと、命は意を決してベビードールとショーツを身に付けた。洗面台の鏡で身なりを確認した所、隠すべき場所がうっすらと透けていて、まるで隠れていなかったので、慌てて上から更にタオルを巻いて防御力を高めた。


 そしてドアの隙間から顔を出して、部屋の様子を窺ってから、脱衣所を出てリビングに向かうと、トキワの姿は無かった。


 念の為台所など一階を見回ったが、いなかったので、命は階段を上り二階へ向かうと、寝室以外の部屋を確認したが誰もいなかった。そうなると寝室にいるのだろう。命は心臓がバクバクと暴れる胸を押さえながら大きく深呼吸をすると、寝室のドアを静かに開けた。


 小さなルームランプの灯に照らされて命がクイーンサイズのベッドに忍足で近寄ると、トキワが規則正しい呼吸で寝息を立てていたので、命はほっと胸を撫で下ろすもどこか寂しい気持ちになった。


 我ながら面倒臭い奴だと自嘲しつつも、命はベッドに乗ってトキワの頬に触れると唇にそっと口付けてから微笑んだ。


「不束者ですがよろしくね、私の旦那さま」


 起きてたら恥ずかしくて絶対言えない事を口にしてから命はネグリジェに着替えてから寝ようとベッドから降りようとしたが、突然体の自由を奪われベッドに寝転んでしまった。


「こちらこそよろしく、俺の奥さま」


「えーっ!寝てなかったの?」


「目を瞑ってただけ」


 どうやら狸寝入りをしていたらしいトキワに押し倒された命は、頭の中が真っ白になりそうだった。


「初夜なのに何もしないで眠れるわけないじゃん」


 言われてみれば兼ねてより楽しみにしていた様子だったので当然の流れだと、命は自分の考えの浅さを省みた。トキワは命が体に巻いているバスタオルを薄皮を剥ぐ様に外すと、露わになった透け感のある純白のベビードール姿に胸を躍らせた。


「凄い、最高だよちーちゃん」


「そ、それはどうも…」


 ベビードール姿を絶賛してから、命を抱き起こし膝に乗せると、濡れた髪の毛を乾かしてあげながら、トキワは息が出来なくなりそうなくらい情熱的な口付けで命の口を塞いだ。


「命、愛してるよ」


「はぁ…私も、愛してる」


 トキワが滅多に呼ばない名前呼びで愛を囁くと、命も酸欠気味に肩で息をして応えた。それを合図にトキワは命の胸の白いリボンを一気に引いて解いていった。




 




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