240精霊からの祝福9
結婚祝いのパーティーが行われる会場に到着すると、家族や友人、同級生など気心知れた人物ばかり揃っていたので、命は先程まで張り詰めていた気持ちが少し解れた。主役が揃った所で全員で飲み物を片手に乾杯をする事になった。
「えーと、こちらの都合でお待たせしてすみません。今日は俺達の為に集まってくれてありがとうございました。もう飽きたと思うので飲み食いしたらさっさと帰って下さい。はい乾杯」
余りにやる気がないトキワの乾杯の音頭に多方面から笑いが起きながらパーティーは始まると、命とトキワを祝う為に参列者が次々と声を掛けてきた。
「命、トキワさんご結婚おめでとう。すごく綺麗よ。ドレスも命にピッタリのデザインだわ」
「ありがとうございます。エミリアお嬢様。こちらこそ今日はお越し頂きありがとうございます」
「水鏡族の結婚式て神秘的なのね。私思わず見惚れてしまったわ。あと遂に光の神子に会えましたのよ!素晴らしい淑女でしたわ」
エミリアは念願の光の神子に会えて興奮気味の様だ。帰ったらアンドレアナム伯爵に自慢するとはしゃいでいたのをクラークが宥めた。
見たところ光の神子と暦とミナトは混乱を避ける為かパーティーには欠席しているようだからエミリアは結婚式の合間に会ったのだろう。
「2人ともおめでとう、命すっごく綺麗だよ!トキワくんも物語から出て来たみたいにカッコいい!」
次に南とハヤトに樹など命の同級生が押し寄せる。命は嬉しそうに南と樹と手を握って笑い合った。
「そのドレス命じゃなきゃ着こなせないよ!よく見つけたね!誰が選んだの?」
樹の問いに命ははにかみながらトキワを指差すと、同級生達は納得したように声を上げた。
「そんな気がした!命が選んだらもっと地味で体型が分かりにくいデザインのドレス着てそうだもん」
「本当それ!命はスタイル良いんだからもっと出すとこ出した方がいいよ!」
親友が故に容赦ない南と樹に命は苦笑いをしているといつの間にか旭が足元にいたのでトキワが抱き上げた。
「にーに!ねーね!おめでと!」
「旭ちゃん!ありがとう」
トキオから習ったのか旭は命とトキワにお祝いの言葉をくれた。今日から旭が義妹だと思うと、命はこれまで以上に彼女に対して愛おしさが増した。
「なんだお前ら隠し子がいたのか」
「トキワの妹ですぅー」
何となく言われる予感がした命は動じる事なく、ハヤトに冷めた視線を向けた。
その後も止め処なくトキワの仕事仲間や同級生などが祝福する為に声を掛けてきた。そして一通りかけ終わった頃合いでブーケトスを行う事になった。
「じゃあ投げますよー!それっ!」
命がブーケを後ろ向きに高く放り投げた。放物線を描いたブーケを高く飛び上がり掴んだのは、トキワの同級生の苺だった。苺は嬉しそうに飛び跳ねていた。
「ねえねえ、トキワくん。ガータートスはしないの?」
「は?何それ」
エアハルトはニヤニヤしながらトキワの腕を肘で突いて問いかけた。
「花嫁ちゃんのガーターリングを花婿がドレスの中に顔を突っ込んで口で取った物を独身男性に向けて投げる大国で人気の余興だよ」
「ちーちゃんが身に付けてる物を他の人、しかも野郎にやるなんて有り得ない」
「そんなっ!僕にも幸せをお裾分けしてくれ!」
切実なエアハルトの願いにトキワは心底迷惑そうな顔をしていた。
「じゃあこれ投げたら?」
命はトキワの左胸に挿さっていたブートニアを指さしたので、面倒くさそうにトキワはブートニアを外した。
「オラっ!取ってこい!」
勢いよくトキワがブートニアを投げるとエアハルトは慌てて取りに行ったが、飛んで来たブートニアに気付いたカナデが片手で掴み取った。
「おい何投げてんだ危ないぞ!」
事情を知らないカナデがトキワに注意した。ブートニアを手に入れられなかったエアハルトは頽れて悲しみに暮れた。
「ごめん、カナデ。お詫びにそれ貰って」
「なんか知らんが分かった」
深く追及する事なくカナデは了承すると、隣にいたプリシラに渡した。
「よりにもよってカップルに奪われるなんて…ぐぬぬ」
悔しそうに項垂れるエアハルトを放置して、命は謝辞挨拶をしてパーティーを締めることにした。
「今日は…私達の為にお集まり頂きありがとうございました。無事結婚式を挙げることができたのは皆さまを始め、多くの方々の支援と応援のおかげです」
いい加減なトキワの乾杯の音頭に比べて、畏まった口調の命に参列者達は聞き入った。
「私はよくお人好しとかお節介だ世話焼きだと言われていて、たまに劣等感を覚える事もありました。でも父親から受け継いだ性分なのか、なかなか直せませんでした」
自分の事より人の心配ばかりしていた命を知る者たちは思わず頷いた。殊の外同士が多かったので、トキワは吹き出しそうになるのを堪えて顔を俯かせた。
「だけどこんな性格だったからトキワと出会えて、それが縁でこんなにも素敵な人達と出会えたから…私は私で良かったと今日改めて思いました」
命は損な性格と自分の目尻が吊り上がった第一印象で性格がキツいと思われがちな顔や、他の女の子より身長が高く胸が大きい事もコンプレックスだったが、開き直れと気にするなと自分に言い聞かせて来た。
けれどもトキワと出会い愛されてから自分と向き合えるようになった気がした。
「私達は先程夫婦になったばかりだし、人としてもまだまだ未熟者ですが2人で温かい家庭を築いて行きたいと思いますので皆さんに見守って頂けたら幸いです。本日はありがとうございました」
謝辞を終えて命とトキワは深々と頭を下げれば、温かい拍手が降り注いだ。頭を上げてから顔を見合わせると懲りずにトキワがキスを仕掛けてきたが、予想がついていた命が素早く手でトキワの口を塞いだ。それにより周囲から爆笑が湧き上がった所で結婚祝いのパーティーはお開きとなった。




