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236精霊からの祝福5

命が帰宅すると光と実は勿論のこと、桜や祈とレイトそれにヒナタとカイリまで揃っていた。今晩は命の結婚前夜なので、家族で夕食を取る事になっていたのだった。


「遂にお嫁に行っちゃうのね…」


 寂しそうに笑うと、光は命の頬に優しく触れた。他の面々もしんみりとしていた。


「なんだか祈の時よりも寂しいわ」


「そりゃ私は結婚後もここに住んでいたし、今も家から徒歩1分だもの。私の時に寂しがっていたのはお父さんだけだったわ!」


 祈の結婚前夜も面子は違うが、同じように家族で夕飯を取っていたが、祈が家を出るわけではなかったのでいつも通り賑やかな夕飯だった。そんな中、シュウだけは既に同居していたレイトに絡みながら酒を飲み涙に暮れていた。


「お父さんが生きてたら同じように泣いていたかもね」


 シュウの遺影に視線を移して祈はその様子を想像しながら笑った。


「ちーちゃんは本当にトキちゃんと結婚するの?」


 以前から知ってる筈だがヒナタは確認するように問うてきた。


「うん、明日トキちゃんと結婚するんだ」


 もしやヒナタは自分と結婚したかったと思ってくれていたのか、そんな叔母バカな思いを胸に命がニヤニヤしながら答えると、ヒナタは真顔になった。


「そうなんだ。おつかれさま」


 労うヒナタに命を始め、大人達は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。まさかヒナタがそんな事を言うとは誰も思いもしなかったのだ。幼いうちはトキワを優しいお兄ちゃん的存在だと思っていたかもしれないが、最近は面倒臭い奴だと感じ始めているのかもしれない。


「あ、ありがとう…」


 命は返す言葉が見つからず、とりあえずヒナタにお礼を言うと、周囲からどっと笑いが溢れ出したので、ヒナタは不思議そうに首を傾げた。


「…正直な所俺は責任を感じている。軽い気持ちであいつを弟子にしなければ、命ちゃんはもっとマシな奴の所に嫁に行っていたかもしれない」


 神妙な顔つきでレイトがトキワを弟子にした事を人生の汚点のように語ると、祈は手を振り否定して快活に笑った。


「やあねレイちゃん、トキワちゃんはレイちゃんの弟子にならなくても絶対ちーちゃんに付き纏い続けてたわよ!だからレイちゃんがトキワちゃんを弟子にしてちーちゃんを守れるように鍛えてくれた事、私は凄く感謝してるのよ!」


「そうだな、トキワくんのちーへの執念は今も昔もとてつもないからな。子供だからすぐ飽きると思いきや飽きないし、歳を取れば落ち着くと思いきや全く落ち着かない…結婚したら少しは落ち着くといいな」


 レイトと祈に桜まで言いたい放題であった。

 

「みんなトキワの事が嫌いなの?」


 思わず命が問いかけると、祈達は満面の笑みで首を振った。


「大好きに決まってるじゃない。でないと結婚を認めるわけないでしょ?ただ今夜は寂しいから文句を言いたい気分なのよ」


「はあ…」


 いまいち理解出来ない命はその後もトキワのダメ出しを続ける祈達をぼんやりと見ながら、しばらくは縁遠くなるかもしれない光の手料理を味わうのだった。

 夕飯が済んでから命は伝えるなら今だと思い、スカートをギュッと握って口を開いた。


「あ、あの!お母さん、お姉ちゃん、みーちゃん、お義兄さん、ヒナちゃんカイちゃん…桜先生。今までお世話になりました!」


 思い出を語ればキリが無いので命はありきたりな言葉に全ての感謝を込めた。


「こちらこそ、ありがとう」


 光は涙声で命に感謝を伝えてると、優しく命の頭を撫でた。桜達は目に涙を浮かべてその様子を見守っていた。


「いつでも気軽に家に帰って来てね。ここはあなたの実家なんだから」


「うん…ありがとうお母さん。お昼休憩や仕事終わりに顔出すね」


 考えたら結婚しても今とそう変わらないのかもしれない。命は光達にそう告げると、確かにと笑いが起きてから明日は早いからという事で解散となった。



 ***



 命が家族に感謝して温かい時間を過ごした一方でトキワはトキオと楓に旭そして結婚式の為に駆けつけてくれたカナデとプリシラ、更にはトキワの父方の祖父と共に食卓を囲んでいた。


 珍しい顔触れが揃った為、明日の主役のトキワをそっちのけでカナデとプリシラの馴れ初めや現在に至るまでや、トキワの祖父がこれまで行った場所の話などが中心となっていた。果てには3人を泊めるから部屋が無いのでトキワは新居に帰って寝ろとまで言われた。


 ちゃんと両親に感謝の言葉を伝えようと命と約束していたのでトキワはさっさとやっつけて家に帰って寝る事にした。


「あのさ…父さん、母さん。今まで育ててくれてありがとう、あと俺をちーちゃん好みの顔に生んでくれてありがとう」


 感謝の気持ちをトキワが口にすると、トキオと楓は呆気に取られたがすぐに笑い出し、カナデ達も吹き出していた。


「そうだな、お前は顔だけはトキオさんに似て良いから多少の事は許してもらえるからな。トキオさんに感謝するがいい!あとお義母さんにも」


 父は祖母似だというのはトキワも薄々気付いていた。何故ならば目の前にいる祖父が中性的な美形から掛け離れた髭面が似合い、眼光が鋭く野性味あふれる筋肉隆々の大男だったからだ。母方の祖父も熊みたいな大男だが、こっちの祖父の方が歴戦の猛者といった雰囲気が強かった。


「何言ってるんだ。楓さんが大変な思いをしてトキワを産んだのだから一番トキワが感謝しなきゃいけないのは楓さんだよ」


「俺も難産だったの?」


 トキワが疑問を持つとトキオは頷いて肯定した。


「はあ、それなのに懲りずに旭を産んだの?しかも難産で。2人とも馬鹿なの?」


 率直な感想をトキワが述べると楓は嘲笑いつつも隣にいたトキオの肩に寄りかかった。


「お前にはまだ分からないかもしれないが、最愛の人との子供なら難産でも産みたいものなのだよ。しかも産後も変わらず甲斐甲斐しく世話をして大事に愛してくれたらまた産みたくなるのは必然だ。まあこれは私個人の意見だがな。他の家庭の事は知らん」


 楓の持論にトキワはやたら自分との子供を欲しがる命と重なった。母親と正反対の人を好きになったと思っていたが、意外な共通点を見つけてしまい、何とも言えない気分になる。


「暗くなって来たしお前はもう帰れ。寝坊して命ちゃんに恥をかかせるなよ」


「はいはい。帰りますよー」


 追い払うように手をひらひらさせて楓が邪険に扱うのでトキワは舌打ちするとカナデ達に手を振ってから家から出て行った。


「喧嘩相手がいないと張り合いがなくなるな」


 トキワがいなくなると楓はしょんぼりと肩を落として呟いたのでトキオは優しく楓の背中を撫でて慰めた。




 

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