235精霊からの祝福4
いよいよ結婚式に明日に控えた今日、命はトキワと港町にいた。結婚式に出席する為に昨日からエミリアとクラークが使用人と共に港町に滞在しているのだ。
「お久しぶりです!エミリアお嬢様」
「命、会いたかったわ!」
滞在中のホテルのロビーで再会を喜び、命はエミリアと抱き合った。久方ぶりのエミリアはすっかり大人びて更に気品を兼ね備えていた。
長旅なのでエミリアとクラークの子供は留守番らしい。命は落胆したが写真を見せてもらい心を温めた。
一同は昼食をゆっくり一緒に楽しんで、近況を話し合いながら、翌日の結婚式でまた会う約束をすると、結婚式の最終打ち合わせがある為、命はトキワと水鏡族の村に戻ると神殿に向かった。
そして神殿でプランナーと打ち合わせをしてからチャペルで段取りの確認をした後、野外劇場に訪れた。
「うわ…観客席側からじゃ分からなかったけどここからだと全体が見渡せるんだ」
当日、ステージで晴れ姿を村人達に披露すると考えただけで命は足が竦みそうになった。
「大丈夫、ちーちゃんは俺の隣にいるだけでいいから。なんなら俺だけを見ていればいい」
命の肩を抱いてにっこりと笑うトキワに、命は頼もしさを感じて少し惚れ直すと、トキワに寄り掛かった。
「あのー、お披露目の流れについて説明してもいいですかー?」
気まずそうに紫が声を掛けてきたので、命は慌ててトキワから離れた。
「どうぞ説明お願いします」
「はあ…」
説明を催促するトキワに、紫は呆れた様子で説明した。どうやらトキワは風の神子代行として挨拶をしないといけないらしいが、命は本当にトキワの隣で立ってるだけでいいらしくて、内心ホッとした。ちなみに雨が降ったら屋内劇場で行うそうだ。
「やっほー!トキワきゅん!」
紫の説明が終わる頃、こちらに向かって手を振りながら若い男性がやってきた。近づいていくにつれてそれが勇者エアハルトだと命は視認できた。
「久しぶり!会いたかったよー!」
「何でいるの?魔王は潰してくれたの?」
「…まだ見つからない」
「ゴミ、役立たず。紫さん拡声魔術についてだけど…」
トキワはエアハルトを汚い物を見るような目で一瞥してから、紫にお披露目時について質問を始めた。
「ちょっと無視しないでよ!折角大親友が明日の結婚式のために駆けつけてあげたのに薄情者!!」
「は?勇者様なんて友達ですらないんだけど。そもそも招待してない。なんで明日が結婚式て知ってるの?」
たまにエアハルトから一方的に手紙が届く事があるが、トキワは一切返事を書かないで交流を絶っているので、結婚式の日付を知っている事に疑問を持った。
「光の神子が手紙で教えてくれた」
「ばあちゃん…余計なことして」
まさかエアハルトが光の神子と文通を続けていると思わなかったトキワは顔をしかめた。
「あの、他の仲間の皆さんは一緒じゃないんですか?」
見たところエアハルト1人だけしかいないので命が尋ねるとエアハルトは微笑する。
「今は各自休暇を取っている。故郷に帰ったり、僕のように親友の結婚式に出席したりと充実した日々を送っているはずだ」
「要様は?神殿に里帰りしてないよね?」
勇者一行の仲間であるハジメと結婚した要は水鏡族の元土の神子だから神殿に里帰りしている可能性があると命が指摘すると、エアハルトは歯軋りをして無駄に整っている顔を歪めた。
「…要たんはご懐妊してハジメの実家で出産に備えている…だからこそ皆に休暇を与えているわけだが…ぐぬぬ羨まけしからん!」
「えーそうだったんだ!いいなー…」
いつもなら生まれてくる赤子に思いを馳せる命だったが、今日は要に感情移入してそっと指を唇に触れた。その姿が妙に色っぽくてトキワは勿論、エアハルトと紫まで思わず息を呑んだ。
「どいつもこいつもイチャラブしやがって…クソ!トキワくんなんてもげちまえ!つうか明日の初夜を邪魔して…うぐっ!」
八つ当たりをするエアハルトの腹部にトキワは容赦なく拳を入れて、いつもの暴言を発した。
「死ね」
「むふぅ、やっぱトキワくんはそうこなくっちゃ」
暴言を吐かれ殴られているのに嬉しそうな表情を浮かべるエアハルトに、命と紫は軽蔑の眼差しを向けた。
結局招待してくれないと結婚式の誓いのキス直前で乱入すると言い出したので、トキワは渋々エアハルトの出席を認めた。
結婚式の準備を終えて、あとは当日を迎えるのみとなったのでトキワは命を家まで送った。
「今日で恋人のちーちゃんとはお別れだね。少し寂しいな」
そう言ってトキワは命をギュッと抱きしめてから彼女の唇に口付けてから名残惜し気に離れた。
「2年間、色々あったね…」
アンドレアナム家の中庭で改めて恋人同士になってから、命とトキワは楽しい事や苦しい事、様々な事を2人で乗り越えてきた。
「トキワ、今までありがとう。これからもよろしくね。じゃあまた明日…ね」
「うん、またねちーちゃん。大好きだよ」
明日から夫婦になっても変わらず互いに手を取り合って共に生きていくことになる事を命は願うと、トキワに微笑みかけて、今日は実家に泊まるというトキワの背を見送った。




