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232精霊からの祝福1

 気付いたら結婚式まであと1週間となった。大方の準備は整っていた。婚礼衣装も何とか命の体型が元に戻りサイズ調整する必要が無くなりあとは3日前の最終試着をクリアするのみだ。デザイナーと職人が最高傑作だと自画自賛しているベールも見事な仕上がりだった。指輪の刻印もしてもらい手元に戻ってきたので休みの日はお互いの右手の薬指に光っていた。

 当日のパーティーの料理はトキワの同級生が家族経営しているレストランに頼む事になった。元々こういったパーティーの料理も請け負っている店で、以前命も同級生の集まりにトキワと出席した際口にしたが、美味しかったので問題はなかった。


 そして今日はトキワが完成していたマイホームに移り住む日だったので命は引っ越しの手伝いに来ていた。お互い荷物が少ない上、ボチボチと2人で選んで購入していた家具を運び込んでいた為に作業は昼過ぎには終了した。


「今日から1週間、初めての一人暮らしだね」


 レイトと祈から結婚祝いにもらった絨毯に寝転がって感触を楽しむ命がそう言うとトキワも寄り添うように横になった。


「じつのところ何度か一人暮らしする事は考えてた。まあ隙あらばちーちゃんを部屋に連れ込んでイチャイチャする為だけの目的だったし貯金したかったから踏みとどまったけどね」


「もしトキワが一人暮らしをしていたら…多分半同棲状態でダラダラ付き合って、この関係が楽だから別に結婚しなくていいやってなりそう…私が」


 命が出した結論をトキワは想像してみた。気が向いた時に顔を出して家事をしてくれたり甘えてきたりするのは至高だが、こちらが結婚を催促してものらりくらりと気まぐれな猫の様に躱されて我慢できず既成事実を作って強引に結婚に持ち込んでいたかもしれない。


「一人暮らししなくてよかった…」


 しみじみと自分の選択は間違っていなかったと痛感してトキワは隣の命の髪の毛にそっと触れた。


「ああでも今日からあの大きなベッドで1人で寝るのはしんどい。早速簡易ベッドの出番か」


 寝室のベッドはトキワの強い要望からクイーンサイズのベッドになった。最初命がシングルベッドを2台並べた形でいいだろうと提案した所、トキワは毎晩一緒に寝たいからダブルベッドがいいと要求した。しかしそれでは2人の体格的に狭いし、疲れた時や病気の時は1人で寝たいと命が主張すると、寝室にクイーンサイズを1台、1人で寝たい時は来客用の簡易ベッド購入しておいてそれを別室で利用するというトキワの提案で手打ちになった。


「あと1週間でちーちゃんが俺のお嫁さんになる…想像するだけで嬉しくて泣きそう…そうだ初夜は以前俺が買ったピンクのスケスケでヒラヒラの下着つけてね?」


 一体いつそんな物を買って貰ったのか記憶になかった命は記憶を辿ると、勇者の金でトキワが買ってきたピンクのベビードールの事だと気がついた。


「…ごめん、あれ一度も着なかったから人にあげちゃった」


「ええっ!?」


 以前命が買い物中にばったり出会った既婚者の同級生と話した際、最近夫婦生活がマンネリ化してるから何か刺激が欲しいと語っていたので、命は未着用のベビードールがあるからいるかと尋ねると、同級生は喜んで貰い受けてお礼に貰ったチョコレートケーキを家族で美味しく頂いたのだった。


「あれで初夜を妄想してたのに…」


 恥じらいもなく己の欲望を口にしてしょんぼりするトキワに命は若干引きつつもあの時プレゼントしてもらったフリルのピンクのワンピースは実に、ボディラインがくっきりと現れる胸元が開いたニットミニワンピースは祈に譲っていたので後ろめたい気持ちになってきた。

 残りの下着は見られなければ問題無いと開き直って愛用していたが、結婚して同居した際にバレたら恥ずかしいのでこの期に処分しようか悩みどころだった。


「よし、買いに行くか」


 ボソリと小さな声で呟いたトキワの独り言に命は危機感を覚えた。代行とはいえ風の神子が女性物の下着屋で嬉々としてセクシーな下着を選んでいる所を水鏡族に目撃されたら、ドスケベ変態神子として後ろ指を差されてしまう。命は仕方がないので奥の手を出す事にした。


「…先日、アンドレアナム家でお世話になっていた先輩のメイド達から連名で結婚祝いに真っ白なスケスケでフリフリなベビードールを頂いたのでそちらで譲歩して」


 この結婚祝いを命が開封したのはよりにもよって桜や祈達と昼食を取った後だったので恐ろしい位その場の空気が凍りついてしまった。出来ればタンスの奥底に閉まって折を見て処分しようと考えていたが、ドスケベ変態神子の誕生を阻止する為にも自らを犠牲にする事にした。


「ちーちゃんはいい先輩を持ったね!そうだよね!やっぱり初夜だし純白のがいいよね!」


 すっかり機嫌を取り戻したトキワに命はホッと一息ついてから、当日は紛失した事にして普通のネグリジェを着ようと心に誓うのであった。

 

 

 



 

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