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231現実逃避行16

 無事に命が帰って来た事で結婚式の準備は謝罪と共に再開された。遭難により命は少し痩せてしまい、花嫁衣装が緩くなってしまったが、1か月前までに元に戻す事を約束して様子見となった。


 結婚式の打ち合わせは招待客リストの提出が遅れてしまったが、許容範囲内だと許してもらえた。


 マイホームの建設はトキワが休んでしまった分支障が出たと思いきや、雨が降って作業が中止になっていたので問題はなかった。


 このように色々あったが命とトキワの結婚式の準備は想像よりも順調に進んでいた。蟠りが出来た原因であったトキワの挙動不審な動きも、命に打ち明けて己の煩悩に向き合えるようになった様子で、いつも通りの言動に戻った。


 そして結婚式まであと2ヶ月となった今日は命の家でトキワの両親と妹の旭を招いてホームパーティーを催すので、朝から命は腕によりをかけて料理を用意していた。


 トキオと楓の為に香辛料をふんだんに揉み込んだチキンソテーや、トキワが好きなハンバーグには中にチーズをたっぷり入れた。


 そして旭とカイリが食べれるように薄めの味付けにしたマッシュポテトや蒸したカボチャ、ふわふわのスクランブルエッグと小さいハンバーグを可愛くワンプレートにまとめた。サラダはボリューム満点のスパゲティサラダにして、スープはミネストローネにした。


 パンは行きつけの店で購入した物を切って並べて、あとは光が祈の家のキッチンを借りて作っている家族でお祝いする時の定番メニューであるチェリーパイを待つのみだ。


「ちーちゃんお花買って来たよー!」


「ありがとうみーちゃん」


 花束を抱えて実とイブキが帰ってきた。命は出迎えると花束を受け取って花瓶に生ける事にした。


「お片付けは私とイブ君に任せて」


 実とイブキは腕まくりをすると、エプロンをつけて台所へと向かった。花を生けた命がテーブルセッティングに移る頃には桜も来て命を手伝い始めた。そして光がチェリーパイを持ってきて祈とレイト、ヒナタとカイリも家に集まっだ。


 テーブルにご馳走が並び実とイブキが片付けを済ませた頃、玄関の呼び鈴が鳴ってトキワ達がやって来た。


「本日はお招き頂きありがとうございます」


「ようこそ、さあどうぞ」


 一家を代表してトキオが挨拶をして光にお土産にドーナツを手渡した。光はトキオ達を家の中に招くと料理が並ぶテーブルに誘導した。


「あー!ドナドナのドーナツ!」


 目敏く実が箱のパッケージから港町の行列店のドーナツである事に気がつくと、テンション高めに喜んだ。


「トキワが買って来たの?」


 旭を抱っこしているトキワに命が尋ねると、朝6時から並んだと苦笑して旭を子供用の椅子に座らせた。

 そしてテーブルの上のご馳走を一瞥して、チェリーパイと目が合うと顔を青ざめさせて突然床に正座して頭を床に擦り付けた。


「ごめん!!ちーちゃんの誕生日完全に忘れてた!!」


 命の誕生日から1ヶ月が過ぎてようやくトキワは自分が彼女の誕生日を忘れている事に気がつくと、己の過ちを反省して謝罪した。


「あーそうだったね。私も去年トキワの誕生日忘れたからおあいこだからいいよ。ほら起きて旭ちゃんがびっくりしてるよ」


 すっかり悲しみの旬が過ぎていたので命は特に気にせずトキワの手を取ると、旭の隣の席に案内した。

 全員が席に着くと、飲み物を片手に乾杯して料理を楽しんだ。


 トキオと楓に向けて用意した激辛のチキンソテーは2人に好評で辛さが足りなかった時のために作っていた唐辛子がたっぷり入ったソースまで全部完食した。


 旭も普段は小食らしいが、ワンプレート料理の見た目と味が好みだったらしい。いつもより多めに食べていると彼女の両親と兄を驚かせた。


「いやあ、トキワから聞いてはいたけど命ちゃんて料理上手なんだね」


 命の料理を褒めるトキオに楓も頷く。近々義父と義母になる2人に褒められて命は嬉しそうに口元を緩める。


「ちーちゃんは小さい頃からお母さんのお手伝いでよく料理してたもんねー。ああ、あの頃のちーちゃんも可愛かったなあ…お母さんのエプロンに着られちゃってて天使だったわ」


 祈は昔の命の姿を懐かしむと、光と桜も思い出したのか優しい目をしていた。


 命が大量に作った料理は綺麗さっぱりと無くなり、一同は光が作ったチェリーパイとトキワが買って来たドーナツをお茶と共に楽しむ。既にお腹いっぱいで飽きていた旭とカイリはソファで命に絵本を読んでもらっていた。


「あと2ヶ月か…待ち遠しいな…」


 テーブルに頬杖をついてトキワは絵本を読む命を宝物を愛でるような目で見つめると、彼女との結婚生活を想像して胸を膨らませた。



 日も傾いて来たのでトキワ達はお暇する事にした。全員で外に見送りに出ると、トキワは隣にいた命の肩を抱いて真剣な表情を浮かべた。


「俺、絶対ちーちゃんを幸せにします!」


 突然のトキワの宣言に命は驚きつつも幸せな気持ちに満ち溢れた。そして彼の気持ちに応えたくて、高鳴る胸の鼓動を右手で感じながら口を開いた。


「わ、私もトキワを幸せにします!」


 こうして両家が集ったホームパーティーは2人の初々しい宣言と共にお開きとなった。


 

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