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223現実逃避行8

 ギルドに辿り着いた命は璃衣都の無事を確認すると、急ぎ近寄った。


「ごめん璃衣都さん、交渉決裂になった。とりあえず移動しよう。事情は馬車の中で話す」


 命は近くにあった自分のリュックを背負ってから、璃衣都の手を取り、準備を整えた後に馬車に乗り込んだ。


 一時間ほどしてからようやく命は大きなため息を吐き、先程遭遇した水鏡族の男とブルネットの女について話をした。


「そんな、ママの形見が盗品だなんて信じられない」


 動揺する璃衣都を心配するように、命はそっと彼女の手を握る。


「私もそう思う。もしあっちの言い分が本当なら、璃衣都さんのお母さんは盗品と知らないで買ったのかもしれない。その辺りは何か聞いてない?」

「確かこのイヤリングはパパとママが昔貿易都市でデートした時に露店でパパが買って、ママにプレゼントした物だって言ってた」


 ならば盗品という自覚は無いだろう。もしかしたら露店も、下手したらイヤリングを作った職人さえも知らなかったかもしれない。


 水晶を盗んだ犯人が上手く市場に流したのだろうと命は推測した。そして璃衣都のイヤリングを今一度じっくりと見ながら、先程出会った水鏡族の男の姿を思い浮かべた時、一つの結論に辿り着いた。


「あ、分かった。そういうことだったんだ!」


 思わず声を上げた命に馬車の乗客の視線が集中したので、命はヘコヘコと頭を下げて謝ると、小声で璃衣都に解説することにした。


「残念ながら、このイヤリングに使われている水晶は盗品で間違いないみたい。もちろん璃衣都さんのお父さんはそんな事情知らないと思うから、気にしなくていいよ」

「なんで盗品だって分かるの?」

「この水晶は水鏡族が生まれた時に握っている水晶なの。どこか見覚えがあるなと思ったのは、私のお母さんの水晶の色と似ていたからなんだ」


 母の水晶は雷属性で金色がベースになっているが、父と結婚して融合分裂を行っているので、淡い水色が混ざっていて、完全に金色ではないため、命は気付くのに時間が掛かったのだ。


 イヤリングをよく見ると、右耳は黄金一色だが、左耳は少し琥珀色が混ざっていた。つまり土属性の配偶者と融合分裂を行った可能性がある。おそらくこちらが男の母親の形見なのかもしれない。

 

 移動時間の暇つぶしと、知っておいて貰った方がいいと思った命は璃衣都に以上のことと、水鏡族の水晶について性能も交えて詳しく話した。


「ほえー、世の中不思議なことがまだまだ沢山あるんだねー。ちなみに亡くなった人の水晶てどうなるの?」

「亡くなった人の水晶は持ち主がいないから、ただの水晶になっちゃうの。配偶者や家族が遺品として大事に持っていることが多いかな。私のお母さんの場合、ピアスに加工して、左耳につけているよ。大体配偶者に先立たれた人はそうしてる。身寄りが無い人については、手に握らせて一緒に弔ってるよ」


 水鏡族は神殿の地底湖に水葬するので、水底には先祖達の水晶が大量に眠っているのかもしれないと命は想像した。


「それで本題なんだけど、今日出会った水鏡族の男に私は違和感を感じたんだけど、さっきそれに気づいた。あいつは耳に穴が開いてなかった……つまり水晶を持っていないと思ったの。武器もその辺で売ってる槍だったから、間違い無いと思う。魔術も使ってこなかったしね」

「なるほど、確かに命さんが話した水鏡族の特徴から外れてる」

「しかもあいつはイヤリングを母親の形見だとも言っていた。だから多分こっちの水晶が母親の物なんだと思う」


 自分の母親の形見が、他の人間の母親の形見でもあるだと知った璃衣都は複雑な表情で黙り込んだ。命はそんな彼女を静かに見守りつつ、無事に静嵐村まで送り届けようと固く誓い、水鏡族の男とブルネットの女と再び遭遇した時の対策を頭の中で懸命に考えていた。


 馬車に揺られて小さな町に辿り着くと、既に夕方になっていた。今日はここに宿泊して、翌日また乗り合い馬車に乗ってから、最寄りの村から歩いて静嵐村を目指す。命は村から静嵐村に向かう時に彼らは現れると予想していた。何はともあれ、命と璃衣都は宿屋で受付をして、また二人同じ部屋で夜を明かすことにした。



 宿屋の一階にある食堂で夕食を取り、割り当てられた部屋にて順番にシャワーを浴びて、一息ついた所で璃衣都は今日一日考えていたことを命に話すことにした。


「私、この水晶を元の持ち主に返したい」

「そんな、これは璃衣都さんにとってお母さんの形見なのに」

「だってあっちは形見な上に、生まれた時から一緒だった水晶とずっと離れ離れなんだよ?身体の一部が無くなった状態でずっと苦しんでいるはずだよ!」

「璃衣都さん……」


 命の話を聞いて、水鏡族と水晶の関係を理解した璃衣都には母親の形見だからとイヤリングに執着し続けることは出来なかった。


「分かった。次に奴らと遭遇したら、穏便に交渉出来るよう私も尽力する。ただ水鏡族の男は比較的冷静なんだけど、そばかすの女の方が考え無しに動いてるところがあるのが、不安要素だな」


 朝宿泊先に入っていた手紙も女が書いた物だと命は予想していた。次に遭遇する時は男の方を説得した方がスムーズに事が進むだろう。


「まあ、なるようになるよ!それより今夜は命さんの話を聞かせてよ!婚約者ってどんな人なの?」


 悩み事が解決した璃衣都が興味を持ったのは、命の恋愛事情のようだ。昨夜散々璃衣都の片想いの相手について根掘り葉掘り聞いた命は自分だけ話さないのはずるいと思い、トキワについて少しずつ話すと璃衣都に質問攻めにあいタジタジになってしまった。

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