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22燃えるお母さん4

 ティータイムを挟んでから命はトキワに勉強を見てあげた。命がトキワと同じ年齢の時に使っていた教科書と同じ物を使っているという事なので、それを元に教える事にした。


「ここは…五を三で割ると…て、聞いてる?」


 折角教えてあげているのにトキワの視線は数字ではなくこちらの目をうっとりと見つめていたので、命はつり目を更につり上げて睨みつけた。


「ちーちゃんの目っていつ見てもキレイでかっこいいね…ずっと見ていたい」


 コンプレックスである目を褒めるトキワが命は信じられず顔を顰めて俯く。


「ちゃんと勉強しないなら、帰る」

「ごめん、頑張るから教えて!」


 勉強は嫌いだが命と同じ時間を過ごす事が出来るならと、トキワは気を引き締めて継続を希望した。


「次ふざけたら二度と教えないからね」

「はーい」


 ふざけたつもりは無いが、これ以上命を困らせてへそを曲げられても困るのでトキワは大人しく勉強の続きに挑んだ。


 すると普段先生やカナデに教えて貰っても全く解けない問題も、命の解説は不思議と頭に入って時間は掛かったが、見事全問正解する事が出来て、これが愛の力かとトキワは感動さえ覚えつつ、頭を撫でて褒めてくれる命の笑顔に見惚れた。


 勉強を教わっている内にあっという間に夕方になった。ニ人は外でトキオを待つことにした。


「今日はちーちゃんとずーっと一緒だったね」

「そういえばそうだね」


 こんなに長い時間一緒にいたのは初めてかもしれない。トキワが診療所に入院してた時も命には学校があったし、レイトの元で修行するようになってからはそちらが優先で顔を合わす事が少なかった。


「ちーちゃん、今度こそデートしようよ!どこでもいいからちーちゃんと一緒に出かけたい!」


 レイトが祈と仲睦まじくデートに出掛けたのがよっぽど羨ましかったのか、トキワは懇願する。確かにあのニ人を見てたらデートに憧れを持ってしまうと命は思った。


「だったら……えっ?なにこれ!?暑い!」


 命が前向きな返事をしようとした時、不意に暑さを感じた。冬が目前でしかも夕方だというのにこの不自然な暑さに命は不安になる。


「母さん…」


 トキワが呟いた人物に命は驚き彼の視線を追うと。毎度お馴染みのトキオと腕を組んだ儚くも幻想的な雰囲気の長いふわふわとしたウェーブがかかった銀髪を揺らした小柄な女性がいた。


 彼女がトキワの母親だというのだろうか?命が想像してた姿と全く違っていたその女性からは炎の魔力による熱気が発せられていた。


「トキワー今日は母さんも一緒だぞ!」


 同じく炎属性だからか、トキオはけろりとしている。トキワの母親の楓が無表情で命を見やると、トキワが命を守るように母親の前に立ちはだかる。


「何しに来たの?」


 険しい表情でトキワは母親に問い掛ける。楓は無表情のままだ。


「西の集落に美味しい激辛麺のお店があるって言ったら楓さんが行きたいって、だからトキワの迎えのついでに食べる事にしたんだよ」


 妻子の険悪な雰囲気にトキオは努めて明るい口調で説明する。命は甘党なので食べに行った事は無いが、激辛麺で評判の店がある事は知っていたので理由に納得がいった。


「あなたが命ちゃん?」


 命の名前を呼ぶと楓が近づいて手を伸ばした。


「ちーちゃんに触るな!」


 楓の手を振り払い、トキワはこれまでに聞いた事無いくらい怒りがこもった声で叫んだ。命もそれには驚く。


「……可愛い」


 一体何が可愛いのか?威嚇してる我が子の事なのか、それとも命のことなのか…楓の表情から読み取ることは出来ない。


 ふと楓は視線を山盛りになった落ち葉に移した。


「あ、これはトキワが風で集めてくれたんです。掃除が大変だったから助かりました!」


 トキワを落ち着かせようと命はトキワを後ろから抱き着いて話題を逸らし、今日の彼の功績を報告する。


「へー!あのトキワが…凄いな!魔力をコントロール出来るようになったんだなー!」


 心底嬉しそうにトキオが褒める横で楓は無表情から眉間にしわを寄せた。


「そんなことしなくてもお前が炎属性だったら簡単に処理できたのに」

「まあまあ楓さん!そんな顔したら美人が台無しだよ?それにトキワにはトキワの良さがあるんだから」


 この緊迫した空気で惚気るトキオに命は呆れを通り越して感心した。


「だったらこの落ち葉燃やして貰えますか?うちの家族に炎属性がいないから火炎魔石の消費が多くて困ってるんですよ」

「うん、いいよ。この山だけでいいかな?」


 ここまで来たらせっかくだし落ち葉を片付けてもらおうと思い、命が依頼するとトキオが快く引き受け魔術を発動しようとしたが、楓がそれを制止した。


「私が愚息の不始末を片付ける」


 楓が両手を掲げ振り下ろすと辺り一帯が急激に熱くなり、落ち葉のみが瞬時に燃え尽きた。


「すごい…」


 ここまで高位の術式を見るのが初めての命は素直に感動した。一方でトキワは悔しそうに命の腕をぎゅっと掴んでいる。


「ありがとうございますトキワのお母さん!おかげで助かりました」

「べ、別にトキワがいつも世話になっているからやっただけのことだ!」


 命が楓にお礼を言うと周囲の気温がまた上がる。もしやこの人は俗に言うツンデレなのだろうか?命はそう推測するも口にはしなかった。


「トキオさん!は、早く激辛麺を食べに行こう!トキワも行くぞ!」


 母親に呼ばれたトキワを解放すべく命は腕を退けようとしたがトキワは離さなかった。


「やだ!行かない!」

「なんだと?!」


 反抗的なトキワの返事に更に気温が上がり、もはやこの暑さは真夏で命は全身から汗が吹き出るのを感じた。


「あーもう、ニ人とも!人様の家の前で喧嘩しないの!」


 慣れた様子で仲裁するトキオの声は母子には届かない。このままじゃ本当に家が燃えてしまう危機を感じ、命は一計を投じた。


「あ、あの……トキワのお父さんとお母さん、せっかくだし二人でデートしてきたらどうですか?トキワはその間私とデートしますから!」

「それはいいね!楓さんも久しぶりの外出だしね!じゃあ命ちゃん、もう少しトキワのことよろしくね!さ、楓さん行くよ!よっと…」

「トキオさん恥ずかしいからやめて」


 これだとばかりにトキオは命の提案に食いつき、この場から速やかに離れる為に楓を横抱きすると、あっという間に見えなくなっていった。


 妻と子供に挟まれて苦労してるんだな…と、命は初めてトキオに同情した。

 



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