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214準備は着々と8

 結婚式の日取りが決まったので、トキワと命は再度光の神子の間に赴き、光の神子たちに報告した。


「わかったわ。神子待遇の挙式をしたくなったら、いつでも言ってね」

「しつこいな。そんなことしたら、同級生や仕事場の人が招待出来ないだろう?」


 食い下がる祖母に対して、トキワは首を振る。


 神子待遇の挙式は会場の都合上、親族と神殿関係者以外はごく限られた人間しか招待出来ないし、ドレスコードがカジュアルスマートから、フォーマルに上がってしまうので、招待客に負担がかかってしまうのだ。


「じゃあ私を含めて、神子は参列出来ないの?言うなれば私たちもあなたの仕事場仲間よ?」

「出来れば遠慮して欲しいけど、どうしてもって言うなら、ばあちゃんと暦ちゃんとミナト叔父さんは目立たない格好で、親戚として参列して」


 この三人は親族だから仕方ないと、妥協案を提示するトキワに、光の神子は納得いかない様子だった。


「じゃあ挙式はそれで我慢する。だけどやっぱり、お披露目だけは行って欲しいの」


 先日行われた要の結婚式のように、挙式後パーティーに移る前に、野外劇場にて神殿関係者や村人に晴れ姿をお披露目を懇願する光の神子に、トキワは渋い表情を浮かべたままだった。


「百歩譲って俺は我慢するけど、ちーちゃんが晒し者にされるのは耐えられない。今日だってたくさん嫌な気持ちにさせてしまった」


 先程の出来事は自分が至らない対応を取ったせいで、命に無理をさせてしまった自覚があったトキワは、もうこれ以上命を大衆からの好奇の目に晒されたくなかった。そもそも、命の花嫁姿は独り占めしたい所を我慢しているのだ。


「愚息よ、神殿関係者以外と結婚した先輩として助言するが、お披露目はした方がいいぞ。私とトキオさんの結婚は、ミナトと暦の四人だけで、婚礼衣装も着ないで挙式して、そしてお披露目もしないまま神子を辞めて、神殿を出ていったから、神殿内は大混乱だったし、村でも炎の神子を誘惑した犯人探しみたいなのが起きて大変だったぞ。まあその辺はイザナが企てた所もあったが」


 楓が言うには、当時先代の闇の神子が楓が結婚したショックから闇の魔術を駆使して、神官や村人を惑わせて、騒ぎを大きくしたらしい。その結果、闇の神子は幽閉されて、光の神子に水晶を没収される結果となった。


「結局イザナの悪事の方がインパクトが大きくて、私たちのことは有耶無耶になったが、あの時ちゃんと筋を通しておけばこんな事にならなかったかもしれないと今でも悔やんでいる」


 そういえば、楓についてはあまりいい噂がないと、桜が口にしていたのを命は思い出す。もしかしたらこの事件のせいなのかもしれない。


「だからお前は命ちゃんの存在を隠す形で守るんじゃなくて、しっかりみんなに大切な存在だと紹介するべきだ。村や神殿のみんなは敵じゃない。堂々としていれば、二人の仲を認めて歓迎してくれるはずだ」


 楓の説得にトキワは風の神子代行になってから、自分は命を守りたいが故に、周りを敵対視していると気がついた。そして、堂々と命との関係を公表すれば、案外受け入れて貰えるかもしれないと、考えを改め始める。


「まったく楓の言う通りだわ。私は水鏡族ですらないあなたのおじいちゃんと結婚したけど、お披露目で村人を黙らせたわよ?」


 そういえば光の神子の夫は水鏡族ではない。元炎の精霊だということは隠匿されているし、当時は楓以上に反感を買ったのは間違いないだろう。


「大丈夫、心配しないで。フォローはバッチリするから。当日あなた達は誰もが羨む最高の夫婦として祝福されるわよ」

「ばあちゃんのフォローとか、それはそれでなんか信用できないんだけど」


 光の神子にトキワは疑いの眼差しを向ける。残念ながら、祖母に対して信頼がなかった。


「命さんを守るためにも、味方は多い方がいいわよ。それこそ今私が敵に回ったら……まず御大を殺して、トキワを風の神子にするわ。そしたらもう一緒には暮らせないわね。更に命さんには身を引いてもらうために、秋桜診療所への給料保証を止めるわ。あと弓の訓練所も閉鎖します。あとはご家族に無実の罪でも着せて、村から追放させようかしら?」


 穏やかな笑みを浮かべながら、残酷な例え話をする光の神子に一同は震え上がる。そして、トキワは改めて光の神子は一番敵に回してはいけない人間だと痛感した。

 

「わかった。今までも俺は一人でちーちゃんを守ってこれた訳じゃないし、これからもそうだと思う。だからばあちゃん、今後も力を貸してください」


 深々とトキワが光の神子に頭を下げたので、命もそれに倣う。自分のために苦手な相手に協力を求めるトキワの姿が頼もしく、そして大人に見えて、頼もしさを感じ、自然と頬が緩む。


「じゃあ命さんも結婚のお披露目は行う方向でいいわね」

「ちーちゃん、嫌ならはっきり言って。俺達の意見に流される必要はないよ」


 トキワは命の意思を尊重して逃げ道を与えてくれたが、ここまでお膳立てされたら命に断る選択肢は無かった。


「ううん、大丈夫。結婚のお披露目に出ます」


 何あってもトキワが味方でいてくれて守ってくれる。そして、自分も彼を守ろうと命は決意すると、野外劇場でのお披露目を承諾した。


 二人の返事を確認した光の神子は嬉しそうに側近の神官に何やら話をしている。早速準備に取り掛かるようだ。


 もう後戻りは出来ない。命は神子と結婚するという例えようもないプレッシャーを感じながらも、自分のトキワへの愛を信じようと強く言い聞かせた。


「さて、話もひと段落したみたいだし、旭を迎えに行こうか」

「旭ちゃんとは久しぶりに会えます!サクヤ様も一緒ですか?」


 可愛い我が娘へと気持ちを切り替えるトキオに将来の義妹大好き人間の命は乗っかる。色々決め事が多くて混乱した頭に、旭とサクヤは最高の癒しとなるだろう。


「……トキワ」


 盛り上がるトキオと命の後ろについて光の神子の間を出ようとするトキワの肩を楓は叩き制止する。


「結婚式の予定を狂わせないためにも、命ちゃんに絶対手を出すなよ?」


 反射的に顔を顰めるも、結婚が決まり浮かれている自覚があったトキワは、母親の言うことを聞くのは不本意だが、今回ばかりは大人しく頷くのだった。

 






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