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211準備は着々と5

「ようやく命も結婚かあ……」


 感慨深げに言ったあと、樹はハーブティーを口にした。以前、南と会った時に命は樹と三人で会ってお茶でもしようと話していたが、先日タイミングよく樹が秋桜診療所に検診に来たので、計画を口にすると週末が空いているというので、命は昼休憩中に南の家に赴き伝えた所、南はたまたま休憩で戻っていた夫のハヤトと姑に相談して承諾を得た。そして当日娘の歩の面倒は見るから、家で楽しめと場所まで提供してもらい、こうして久しぶりに親友三人娘のお茶会は開催された。


「そういう樹はもうすぐお母さんじゃない」


 命は樹の大きなお腹に視線を移す。先日彼女が診療所に訪れたのは妊娠していたからだった。すでに臨月に入っていて、出産は自宅で産婆を呼ぶらしい。一応秋桜診療所でも出産の手伝いは行っているが、村では産婆に頼むのが主流になっている。


「まあね。今の所順調だけど、やっぱ怖いな。南の時はどうだった?」

「私は産気づいてから、大体十二時間かかったよ。大変だったけど、産後はお義母さんが積極的にお世話してくれたから、産後の肥立ちもよくて、本当に助かった」


 南とハヤトは彼の実家で同居していた。ハヤトの母親は命も幼い頃から知っている。先程久しぶりに顔を合わしたが、命の婚約を自分の娘のことのように喜んでくれた。優しくて働き者なので、彼女が嫁と孫に尽くす様子はすぐに頭に浮かんだ。


「そっかーうちは実家に頼るし、何とかなるかな。産後バッチリ体調を整えて、命の結婚式に参加しないとね!日取りは決まったの?」

「明日神殿の近くの婚礼衣装のお店に打ち合わせしに行くから、そのついでに決めるつもり。予定としては半年後、六月か七月位になると思う。空きが無ければそれ以降かな」


 そう言いながらも、空いてる日取りが予定より先なら、トキワが待ちきれず、早くなる可能性もありえるなと命は想像した。


「あー、私もあの店にしたよ。南もだよね?ていうか村じゃあそこしかないしね。作るの?」

「うん、借りるつもりだったんだけど、桜先生にお金出してもらって作ることになったの」

「そっちの方がいいわよ。私とハヤトくんは模擬挙式の衣装を取り入れて作ってもらったから、大事な一着になったよ。しかもサービスで婚礼衣装を素材に、赤ちゃん用の民族衣装を作ってもらえるの。家族写真の撮影の時便利だったよ!」

「あ、うちも今お願いしている!あと追加料金払えば、民族衣装にもリメイクしてくれるんだよね。注文した時オススメされた」


 南と樹の情報に命は興味津々だった。一度しか着ない婚礼衣装に再利用の道があるならば、活用しない手は無い。追加料金がかかる分は自分で作るのもありだと考えた。


「あ、そうだ。私も南みたいに模擬挙式で使ったベールを花嫁衣装に使えないか相談してみよう」


 命は南の代理で模擬挙式に出た時身につけたベールの存在を思い出した。模擬挙式の後に南に返そうとしたが、命に貰って欲しいと辞退されてしまい、タンスに仕舞い込んだままだったので、すっかり忘れてしまっていた。


「いいじゃない!相手も模擬挙式の相手だしね。いやー、でもあのジンクス凄いよねー!代役でも結婚しちゃうんだから!」


 まだ学生の頃企画して発表した模擬挙式のジンクスがまさか自分にも及ぶとは、当時の自分に言っても、きっと信じて貰もらえないだろう。命は想像するだけで笑いそうになった。


「でもあの天使過ぎる美少年が、今じゃ風の神子なんだから驚きだよねー。うちの妹すっごいファンなんだよ。こないだの会合について行ったんだけど、あの子感激のあまり泣いてた」


 この場にトキワがいたら代行を付けろと訂正していただろう。身近なトキワのファンの存在に、命は複雑な気持ちになる。


「樹は妹さんにトキワが私と結婚するのは話してるの?」

「うん、そしたら真の信者は神殿からのお知らせ以外の情報は信じないんだって」

「あはは、でも妹さんの気持ち凄くわかる。私もミナト様のファンをしていた時そんなだったし」

「命はミナト様のファンだったわね。やめたの?」


 学生時代から命がミナトに憧れていたことを知っていた南の問いに、命は不本意そうな表情を浮かべた。


「今でもミナト様は憧れの存在だよ。それこそ暦様と結婚しても。ただトキワの嫉妬が凄くて、喧嘩の原因にもなったから、ファンを辞めざるを得なくなったの。まあ一応、トキワとミナト様どちらが大事かと聞かれたら、トキワだから諦めはついてる」


 幼い頃から大事にしていたブロマイドも、大精霊祭の集合写真以外、全部実にあげてしまった。実の彼氏であるイブキは心が広いらしく、実がミナトのファンなのは受け入れているらしい。


「なんか嫉妬深い風の神子て、想像出来ないなー。天使時代はニコニコしてて可愛かったけど、神子として姿を見せる時って、いっつも真顔だから。でもうちの妹はそこがたまらないんだとさ」


 逆に真顔の方が珍しい命は今度こっそりトキワの真顔ぶりを見物に行こうと決めた。見つかったらどんな顔をするだろうか、少し興味もあった。


「ねえ、思ったんだけど命とトキワくんの結婚式て、私達が出席しても大丈夫なの?親族と神殿関係者だけとかじゃないの?」

「ああ、それなら大丈夫。神殿関係者には参列してもらわないで、報告するだけらしいから。結婚式は親戚と友達同級生、あとはトキワの仕事場の人達を招待する予定なの。先日挙げた土の神子の結婚式みたいな規模じゃなく、ごく普通の村人と同じ形式だよ。村人には挙式後、回覧板で結婚したことを報告するんだって」


 光の神子からはに大々的に挙式しようと提案されたが、トキワが断固拒否して、普通の結婚式になった。これには命はトキワに心から感謝した。神子の結婚式は精霊の間で行うパーティーの前に、野外劇場で祝福に集まった村人達の前に姿を現して自身と配偶者をお披露目しなくてはならない。そんなことになったら、命は重圧で押し潰されるかもしれない。

 

「じゃあ、招待客以外は風の神子の晴れ姿が見れないんだ。妹が残念がるだろうなー」

「ごめん……」

「謝らないで。大丈夫、あの子訓練されたファンだから、推しの幸せは自分の幸せと割り切るよ」

「そうよ。命が謝ることじゃないよ。だって結婚後も診療所で働くのに、風の神子の奥さんだって、不特定多数に知られたら大変だもの」

「南……」


 理解を示す南に命は感謝して、思わず抱きついた。トキワと結婚することで生活が大きく変わってしまうのは覚悟はしているつもりだが、不安でいっぱいだったのだ。


 そして命は結婚に関しては先輩である南と樹に多くのアドバイスをもらってから、日が傾いて来たので、南の家を後にすると、樹を家まで送ってから帰宅した。



 




 

 

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