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207準備は着々と1

 要とハジメの結婚式とパーティーが終わってから、命はトキワと自宅に戻り、光を始めとする家族に集まってもらい、婚約を報告すると、全員からようやくかと、楓と同じ反応を取られてしまった。


 そして結婚式を挙げた経験のある祈とレイトにアドバイスを貰いながら、翌日から早速準備に取り掛かった。


 挙式の日程は、結婚式を挙げた当日から一緒に住みたいというトキワの希望があったので、早速彼の職場の工務店に婚約した旨と家の建設を依頼して、簡単に日程を組んでもらった所、土地の準備期間を除き、工期は半年とのことだったので、仮契約をして、まずは土地を探しとなった。


 土地については、トキワが日頃から目をつけていた場所がいくつかあったらしく、休みの日に命と二人で、西の集落中を歩き回り、診療所から徒歩十分、工務店からは徒歩二十分、そして神殿まで徒歩三十分ほどの、閑静な土地に決めて、役場に届け出をして土地を購入した。


 そして婚約してから早一ヶ月の休日、命はトキワとマイホーム建設予定地の樹木の伐採作業をすることにした。


 当初はレイトと樹木を伐採して、根っこを掘り起こして行こうと考えていたが、お互い昔の様に暇ではないので、断念した。


 命とトキワは伐採する樹木に神殿から賜った祝福の札を貼ってから、トキワが真空波で枝葉を刈り取って、周囲に結界を張ると、威力を最大限まで上げた真空波で二分割に伐採して整頓した。


 そして伐採した樹木を材木屋に売るための規格に切って、細かい枝葉を一箇所にまとめた。この作業も全てトキワが魔術を繰り出し行う。あまりに圧倒的なトキワの力は、最早水鏡族最強の風魔術の使い手と言っても過言ではないだろう。


「今日私がここにいる意味ってあった?」


 お昼時、伐採された切り株に腰掛けて、お手製の弁当を食べながら、命はトキワに問いかけた。


「頑張ってお札貼ってたじゃん。あとは俺のモチベーションを保つのに役立った。こうやってちーちゃんが作ってくれたお弁当を一緒に食べて過ごすなんて、最高の休日だよ」


 上機嫌に命の作った茹で卵入りのハンバーグを頬張っているトキワを横目に、こうやって一緒に食事をするのがもうすぐ日常になるのかと思うと、命はなんだかわくわくしてきた。


 食事を終えて一休みしてから、次にトキワは切り株を一斉に引き上げた。一体どんな術式なのか、命が興味本位で尋ねると、以前アンドレアナム家の令嬢エミリアを誘拐して、命を辱めたヴィンセントと彼が雇ったゴロツキ達を宙に浮かせた魔術と大体同じだと言うので、つい当時を思い出し、今ではすっかりお馴染みの姿だが、あの時会ったトキワの姿は美男子過ぎて衝撃的だったと、命は顧みた。


 そして不要な枝葉と切り株を一カ所にまとめると、楓特製の火炎魔石を周囲に置き、発火させて処理した。飛び火しない様に結界を張って、命もいつでも消火できるよう構えていたが、問題なく切り株は燃え尽きて炭となった。


 二時頃に材木屋が切った樹木を引き取りに来るので、その間、命とトキワは樹木と枝を自宅や診療所、祈達の家、そして新居で使う分の薪にするために取り分けた。



「よう、待たせたな!」


 大型の荷車を体格のいい馬に引かせてやって来たのは、命の同級生のハヤトだった。隣には南と娘の(あゆみ)もいる。じつはハヤトの実家は材木屋で、今日は休日にもかかわらず、材木を引き取りに来てくれたのだ。


「今日はありがとうね。歩ちゃん大きくなったねー」


 命は歩を抱っこしたくて近づいたが、南の背中に逃げられてしまい、命はしょんぼりとした。


「ごめん、今この子人見知りがすごくって」


 すっかり母親が板についた南は歩を抱き上げると、柔和な表情を浮かべた。


「それはそうと婚約おめでとう。分からないことがあったら何でも聞いてね」

「ありがとう。じゃあ今度樹達も一緒にお茶でもしようよ」

「いいわね。早速予定を立てよう」


 まるで学生時代に戻ったかのように命と南がおしゃべりをしている様子をトキワは慈しみの目で一瞥してから、ハヤトに歩み寄った。


「お疲れ様です。いつもお世話になっています」


 ハヤトとは職業柄顔を合わす機会が多く、トキワにとって、すっかり馴染みの存在だった。初めて職場で遭遇した時はハヤトに驚かれ、声を上げられたのも、遠い記憶だ。


「ああ、お疲れ様です。婚約おめでとう」

「ありがとうございます。じゃあ早速乗せますね。サービスで軽量化かけるから、買取料金の割増よろしくでーす」

「もちろん、婚約祝いにサービスするよ」


 一般的に材木を運ぶ際馬への負担を減らすために、軽量化魔石を使うことが多いので、トキワが魔術を掛ける分、魔石の消費が抑えられるというわけだ。トキワは樹木に軽量化をかけてから、そのままふわりと樹木を浮かせて荷車に積んで行った。


「はあ、全くうちに欲しい人材だな」


 トキワの魔術の腕は仕事場でハヤトは何度も目にしていたが、いつ見ても喉から手が出るくらい有能な能力だった。


「もし大工クビになったら雇って下さい」


 いくら軽量化を掛けていても、崩れたら危険なので、トキワはハヤトと協力して、丈夫な縄で要所要所伐採した樹木を縛って固定してから、荷車に積み上げていった。


 ようやく歩が命に懐いた頃、買い取り分の木材が積み終わり、ハヤトたちは帰っていった。


「よし、これで家を建てる工程に入れるよ。明日親方に報告しないと」


 大仕事を終え、トキワは命と手を繋ぎ彼女の自宅に向かっていた。後ろには薪用に切断した木材が魔術でふわふわ浮いてついてきている。


「お疲れ様。帰ったらおやつにお母さんがチーズケーキを焼いてるから、一緒に食べようね」

「うん、それで食べたら疲れたし寒いから、ちーちゃんと部屋でイチャイチャしたい」


 命に寄りかかりながら、トキワはイチャイチャを要望してきた。命は顔を熱くしながらも、本日の働きを労る気持ちと、自分も彼の温もりを感じたいと思い、消え入りそうな声で了承した。


 





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