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204最愛15

 トキワが覚醒した報せは、瞬く間に関係者に知れ渡り、彼の部屋に次々と人が押し寄せて来た。この騒ぎに乗じて、命は家に帰ろうと思ったが、トキワにしっかり手を握られていたため、作戦は遂行出来なかった。


「本当によかった……よく顔を見せて。ああ、ごめんなさい、ごめんなさいトキワ……」


 光の神子は涙目でトキワを抱きしめてから、顔をじっと見つめると、次第に嗚咽漏らしながら謝りだした。


「ばあちゃんは悪くないよ。悪いのは魔王だよ。それで魔王は倒せたの?」


 嬉し泣きをしているエアハルトに視線を移したトキワが魔王との決着を尋ねると、エアハルトは床に這いつくばるように土下座した。


「すまないっ!取り逃してしまったっ!誠に申し訳ない!!」

「はー?使えない勇者。今すぐ潰して来てよ?」


 魔王に並々ならぬ恨みが出来たトキワは勇者相手に暴言を吐く。


「本当にすまない!ただ魔王は人間体を保てない程弱っているから、力を取り戻すまでにあと十年以上はかかるはずだ。それまでには討伐するから、どうか許してくれ!」


 つまり十年は命が魔王に狙われなくなるし、十年も経てば魔王の興味も薄れるはずだと判断したトキワはとりあえずエアハルトを許すことにした。


「それにしてもよく魔王の呪いに打ち勝てたな!しかもこんなに短期間で。正直僕は年単位は覚悟していたぞ」


 顔を上げたエアハルトは立ち上がり、トキワの精神力の強さを称えた。


「ふーん、俺ってどの位寝てたの?」

「ちょうど一週間だよ」

「え、一週間!?」


 命が答えた期間にトキワは驚き、目を丸くさせた。こんなに長く眠っていたと驚いたのだと、誰もが同情した。


「たった一週間だったのか。俺の感覚的にはウン百年以上だと思ってたけど。まあよく考えたら、ちーちゃんがいるし、周りも知った顔だからそうだよな」


 一人納得してトキワは何度も頷いた。


「もし疲れてなくて話せる状態なら、どんな夢を見ていたか聞かせてくれないか?」


 今後の魔王対策のためにもと、エアハルトが申し出ると、命が厳しい視線を向ける。


「これ以上無理をさせないで」


 自分を心配してくれる命に感激したトキワは嬉しそうに彼女を抱き寄せ頬擦りをして、甘い空気を醸し出した。大勢の前でイチャついてくるトキワに命は泣きそうな顔で体を捩らせて、ベッドから降りると、光の神子の背後に隠れた。


「大丈夫、覚えているうちに話すよ」


 トキワは神妙な顔でエアハルトに向き直ると、魔王に見せられた悪夢について話した。自身の生い立ちがベースにされた孤独で悲惨で生と死を繰り返す悪夢に、その場にいた者たちは顔を歪ませた。


「それで途中、悪夢に変化が出て来たんだ。それがちーちゃんなわけ」

「え、私?」


 一つ頷いてから、トキワは何度も繰り返す人生の中で現れた顔に黒いモヤがかかった女の子の存在を話した。それが命だったと、目が覚めた今なら理解できた。


「あの悪夢から抜け出すためには、俺が本来の自分の人生を選ばないといけなかったんだ。まあそれは今だから言えることなんだけど、夢の中ではずっとわからないで、もがいていた」

「なるほど。きっと彼女が僕と光の神子が用意した腕輪と指輪の力を借りて、君に毎日語りかけたことによって、悪夢に少しだけ干渉出来て、道標になったのかもしれないな」


 エアハルトが推測すると、光の神子も頷く。彼らの光の力は決して無駄ではなかったのだ。


「そうだと思う。俺が目覚めたきっかけは、正しくちーちゃんと初めて会えた時だったから」


 だからトキワは覚醒する直前にやっと出会えたと、大声を上げたのかと、命は納得して彼を見ると、目が合って気恥ずかしくなって視線を逸らした。


「つまりトキワは命さんと本来通りの形で出会わなければ、一生悪夢から覚めなかったわけね」


 静かに話を聞いていた霰が結論を述べる。


「そして、数々の悪夢はもし命さんと出会わなければ、起きていたかもしれない、トキワくんのもう一つの人生だった」


 次いでミナトが披露した仮説に、一同は恐怖を覚えて、部屋は重苦しい空気になる。


「ま、まあでもさ!無事起きたんだからいいじゃん!ひとまず一件落着よ!」


 重くなった空気を変えようと要が努めて明るい声で言うと、それもそうねと雀も同意した。そしてトキワも疲れているだろうから、この辺にしておこうと暦が提案して、神子達と勇者一行は部屋から出て行き、再び部屋には命とトキワの二人だけになった。

 

「ちーちゃん、さっきの続き」

「しません!」


 食い気味に命は拒否すると、慣れた手つきでタンスからトキワの着替えを取り出した。


「とりあえずお風呂に入って来たら?動けるんでしょう?その間に部屋の換気と掃除をするから。あとお腹も空いているでしょ?胃に優しい物を用意してもらおうね」


 命はトキワに着替えとタオルを手渡してから、窓を開けると、部屋を出て入り口に控えていた紫に食事の準備をお願いした。


「俺が風呂に入っている間に家に帰ったりしない?」

「うん、でも夕方には帰るね。明日仕事だから」


 ドライな命にトキワは少し不満げだったが、それもまた彼女らしいと諦めて、大人しく神殿関係者用の大浴場へと向かった。


 


 

 


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