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202※鬱注意 最愛13

 どうやらが顔に黒いモヤがかかった女の子に、近付いたり触れようとすると、強制的に場面が変わってしまうらしい。理由はわからない。俺にこの夢を見せている誰かの仕業だろうか。それでも俺は彼女を探し続けていた。


 最近は慣れたもので、会えるタイミングを逃さなかった。こうしていくうちに、いつかあの黒いモヤが消えて、変な声じゃなくなるのか?彼女は一体どんな顔をして、どんな声をしているのだろうか?


 そして次はどこで会えるのだろうか。そう思うと退屈な神子の生活が色づいてきた。


 十六歳の時、これなら村人の彼女に気軽に会えると思い、暦ちゃんのように積極的に冠婚葬祭を執り仕切るようになると、結婚式でよく見かけるようになった。


 彼女はウエディングブーケが欲しいみたいだが、いっつも他の人に取られて肩を落としていた。どんな顔かわからないけど、そんな姿が可愛くて、つい魔が刺して風を操り、彼女にブーケが届くように小細工をした。するとブーケを手に入れた彼女はとても嬉しそうに跳ね上がり、おいしそうにケーキを食べたり、お酒を飲む姿に心が温かくなった。


 だけど、今日もお葬式の施行を買って出た日、打ち合わせと、説明をするために待機室に顔を出すと、遺族は彼女の家族だった。しかし彼女は見当たらず、待機室には棺が二基並んでいた。遺族の説明によると、故人は叔母と姪の二人で温泉旅行中に大型の魔物に遭遇して、逃げ遅れた人を助けた後に殺されてしまったらしい。


 俺は嫌な予感がしつつも、二基の棺桶のうち一基の蓋を開けて顔を確認すると、黒いモヤがかかった女の子が無残な姿で眠りについていた。


 その姿を見て、俺は酷い絶望感を覚えて慟哭した。いつの間にか彼女は自分にとって希望で、そして愛する人になっていた。俺は完全に発狂して、なりふり構わず悪夢から逃げるように全力で走って、神殿の最深部にある数多の亡くなった水鏡族が眠る地底湖に辿り着くと、一切躊躇わず身を投げ出した。



***



 どうやら自害しても悪夢は続くらしい。俺は完全に生きる気力を失っていた。一体どうしたらモヤがかかっていない彼女に出会えるのだろうか?俺はどこで選択を間違えてしまっているのか。


 ぼんやり考えながら、今日は父方のばあちゃんが亡くなり、しばらく落ち込んでいたけれど心機一転、西の集落にある自宅を引き払い、世界中を旅することになったじいちゃんを家族で見送った。これは初めて見る夢だった。まだこの悪夢は進化を続けているらしい。


 その次の場面は母さんと喧嘩して、家出を決意した所だった。

 いつもならここで神殿に行って神子になるのが定番だが、俺はふと、ここで神子になるのは間違いだったのかもしれないと思いついた。試しに今回は大人しくカナデの家へと向かった。


 しかしその選択をすると、一切彼女に会えないまま学校を卒業して、カナデと冒険者になって、世界を周りギルドの依頼を受けた際、戦った魔物に殺されて終わってしまった。


 彼女とは出会えなかった人生だったが、新たな可能性を見つけた俺は神子にならないで、彼女と出会う方法を模索する事にした。まずは彼女について思い出す。彼女は俺の三歳上で、背が高くて手脚が長くて、あと胸が大きかった。

 顔は黒いモヤがかかって分からないけれど、髪の毛の色は灰だと思う。家族は父親が死んでしまい、母と妹と叔母、姉と義兄に甥がいた。今わかっている時点で結婚はしない。あと何か肝心な情報が抜けている気がして、俺は必死に思い出そうとした。


「あ、西の集落だ……」


 模擬挙式を行なったあの時の精霊祭は、西の集落が主催だった。つまり彼女は西の集落に住んでいるはずだ。ならば西の集落に行けば、彼女に会えるかもしれない。ちょうど明日は母さんと喧嘩して家出をする日。西の集落までの道のりはじいちゃんの家に行く時になんとなく覚えているから、とりあえずそこを目指そうと決めると、今日はもう寝ることにして、お守り代わりのあの絵本を抱いて眠りについた。


 翌日予定通り、朝から母さんと喧嘩して家を出ると、西の集落のじいちゃんの家を目指した。家までは片道十キロメートル以上、十歳の子供の体力だとかなりしんどいけど、魔術を使って楽をすると、彼女に会えない気がして、雨の中一歩一歩じいちゃんの家を目指す。


 雨で体が冷えて体力の消耗され、次第に意識が遠のいていきそうになった。まさか今回はここで死んでしまうのだろうか。いや、そうはいかない。少しでも、彼女と出会う要素を見つけてからじゃないと死ねない。


 気づけば雨は止んで、空は少しずつ晴れて蒸し暑くなってきた。湿気が更に体を蝕み、不快度指数が上がる。とりあえず休もう。俺は近場にあった木陰に身を寄せて息を整えようとしていると、だんだん足音が聞こえてきた。


「君!大丈夫?」


 凛としてるけど、優しい声がした方を見ると、顔が黒いモヤで覆われた女の子の手が俺の額に触れた。その瞬間彼女の顔を覆い続けていた黒いモヤが晴れたので、思わず瞠目した。ツンとした赤い瞳が印象的な彼女の顔は愛しくて、ずっと前から知っているような気がした。




「やっと出会えた…ずっと会いたかったっ!!」





 彼女への思いの丈を大声で伝えると、そこでまた場面が変わるのかと身構えたが、いつもと違い、辺りは優しい光に包まれて、視界が真っ白になっていった。



 

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