200※鬱注意 最愛11
目を覚ますと、視界に木製の黄色い星のモビールが広がっていた。
どうやら生まれ変わって赤子になっているらしい。出来れば人間以外に生まれ変わりたかったが、仕方ない。
今度はどんな両親の間に生まれたのだろうか。試しに泣いて両親が現れるのを待っていると、若い男女が俺の顔を覗き込んだ。
「どうしたトキワ、何を泣いているんだ?」
「腹でも減ったか?」
俺の新しい両親は前世と同じ顔をしていて、自分の名前まで同じだった。俺は思わず驚いて、泣き真似をやめてしまった。
しかしこの部屋は暑い。暑すぎる……これでは眠れそうになかった。父さんに抱っこされても暑い。母さんに抱っこされても暑い、しかも母乳は熱くて飲めた物じゃない。
挙げ句の果てに、手伝いに来てる父方のばあちゃんに抱っこされても暑かった。俺は日々疲弊しつつ、冬が近づくまで暑さに耐え忍んだ。
三歳の時、家に知らないお兄さんがやってきた。そして、俺を見て嬉しそうな顔をしてから、両親にこう告げた。
「その子供は僕と姉さんの子供だ。だからこの子はいずれ僕と同じ両手剣使いになる!絶対、絶対にだ!」
お兄さんの言葉に母さんは拒絶して、悲鳴を上げて体に炎を纏わせると、お兄さんを追い払った。その後お兄さんは神殿の神官達に捕われて、どっかに行った。
ここでようやく俺は人生が繰り返されていることに確信を持った。今後俺は変現の儀で両手剣を作り出して、母さんに嫌われるのだろう。そう予想していたら、事実になって、それからはまた前回と同じ道を辿り、同じ様に死んでいった。
同じ人生を何回も繰り返す内に、もしかしてこれは夢なんじゃないかと疑惑を持った。どこかで違う選択をしたら、人生が変わるかもしれない。だが、何をすればいいのか。現在五歳、変現の儀の前日を過ごす俺は無い頭で考えつつ、母さんに甘えて、いつもの絵本を読んでもらった。
「こうして、やさしいまじょは、あいするひとに であえて、しあわせに くらしました。いつか 、あなたにも、あいするひとが、あらわれますように。 おしまい」
絵本を読み終えた母さんは優しく笑って、俺の頭を撫でた。
「これだ!」
いつも死際に愛する人に出会えずに嘆いて死んでいった俺に必要なものは、愛する人だったんだ。そう確信した俺は今回の人生は愛する人を探すことにした。
「なんだ突然、変なやつだな」
不思議そうに母さんは目を細めた。そうだ、母さんを愛する人にしよう。両手剣を使わず、ナックルを使えば、きっと愛してくれるはずだ。嫌いにならないはずだ。
俺は変現の儀の翌日に二度と両手剣は使わない。父さんと母さんと同じナックルを使いたいと訴えて、母さんを愛そうとした。
しかし結論から言うと、それは失敗に終わった。盲信的に母さんを愛そうとする俺の姿が、あの時のお兄さんと重なったらしく、母さんは発狂して、俺を燃やし尽くして、今回の人生は終わってしまった。
どうやら母さんは俺の愛する人では無いらしい。そうなると次は妻だろうか、やはり夢らしい。今度は都合よく結婚初夜に意識が飛んだ。何度も同じ女性が妻になっているが、正直好みのタイプではなかった。
それでも愛さなければならない。俺は自分を押し殺して、無理やり妻と関係を持とうとしたが拒絶されて、翌日自害された。
添えられた遺書によると、どうやら毎回登場していた子供たちの本当の父親とは結婚前から恋仲だったようだ。俺と結婚したのは、光の神子が家の借金を肩代わりしてくれたかららしい。
俺も死んでしまおうか。悩んだが、下手に自死を選んだら、何かが狂いそうだと思ったので、大人しく寿命待とうと、バラ園でぼんやり考え事をしていたところで、妻の恋人に殺されて終了した。
何度も愛する人を探して、人生を繰り返す内に、愛する人を探すのが正解なのか、分からなくなってきたが、最近ある違和感に気がついた。時々視界に入った一人の人間の顔に、黒いモヤがかかっていた事だ。
最初は十歳の時。神子になって初めての精霊祭の仕事で、ばあちゃんと祭の主催の西の集落が行う劇場発表の観賞をした時だ十三から十四歳の少年少女が行う模擬結婚式の発表時、登場した花嫁の顔に黒いモヤが掛かっていた。花婿は普通の顔だった。
事前に告知されていたけど、本来花嫁をやる予定だった人が病気になって急遽代理の花嫁になったのが、顔に黒いモヤがかかった花嫁らしい。
しかも実際発表された模擬結婚式は模擬離婚式になっていた。最後に花嫁が「これであなたとはさようならよ!」とくぐもった変な声で言って、花婿に平手を打ちすると、会場から笑いが起きて、ばあちゃんたちも笑っていた。俺もつい笑ってしまい、思えば久々に笑ったなと思った。
二度目は暦ちゃんが執り仕切る村人のお葬式を手伝った時だ。家族が泣いて、故人を悼んでいる中で、顔に黒いモヤがかかった女の子はぎゅっと拳を握って、泣くのを我慢するように震えていた。
その次は闇の神子に襲撃された時。いつも通り持ち場で待機するよう命じられていたけど、違う行動を取ってみようと思い、神殿内をうろついていると、救護室から顔に黒いモヤがかかった血だらけの女の子が救急セットを持って出て行った。後を追うと、自分の方が重傷なくせに、怪我をしていた神官たちの手当てをしていた。
四度目は大精霊祭で精霊降臨の儀を執り行った時、家族と思わしき人たちと一緒に、相変わらず顔に黒いモヤをつけて見物に来ていた。儀式が終わって銀貨献上の時にも、また会えて「トキワ様すごくカッコよかったですー!」と変な声で褒めて、銀貨を三枚もらえた時はなんだか嬉しくなった。
俺はだんだん黒いモヤがかかった女の子に会うのが、楽しみになってきた。もしかしたらこの子が俺の愛する人なのかもしれない。そう願ってまた一つの人生を終わらせた。




